運命の人がとんでもないドS野郎だった件について。

青南

Episode I


「ナチ様。そろそろお時間です。」

「分かりました。急ぎますねっ」


私、ナチ=ハリターナは今年で20になる。

父であるこの国の王、シタ王は私をそろそろ結婚させたいらしく。


今日はお城で舞踏会を開くのだ。


そこで私に内緒で私の婚約者を決めてしまうそうで。

最も、私には知られてしまっているのだけれど。


「…ナチ様、今日も一段とお美しい」

「…そうかな。ありがとう、レイ。」


薄い水色のドレスに胸元には小さな十字架。

お父様から貰った成人祝いだ。



でも、結婚、なんてまだしたくない。

ましてやお父様に決められるのなんて絶対に嫌だ。


私は、ちゃんと恋愛、というものがしたい────。


「…どうぞ、中へお入り下さい───」


ガタン、と大きな音を立て、重い扉が開いた。


「…すごい人の数…」


これまでのパーティーとは桁違いの数だわ。


「…この中から、私の婚約者が決まってしまうのね」

「…どうせなら。ナチ様ご自身がお選びしたらどうでしょう?」


「私、が?」

「ええ。陛下もナチ様が選んだ相手ならきっと満足していただけるでしょう」


「…ちょっと、様子見に。」


誰も私がナチ=ハリターナだなんて気づいていない。


なんという開放感。


と、歩き回っているうちにドレスの裾を踏んでしまった。


「キャッ」

「大丈夫ですかっ?」


腕を誰かに支えられた。


「え、ええ…」


顔を上げると綺麗な顔をした赤みがかった茶色の髪が目立つ人。


「ありがとうございました。えっと…」

「ハル、です。以後お見知りおきを。」


「私、ナチ、と申します。」

「…この国の姫君と同じ名だね」

「ええ…偶然にも」



「…よかったら、」



ハルが手を差し出した。



「俺とお相手して頂けませんか?」


「…はいっ」




ゆっくりと流れる音楽に合わせて踊る。

昔から正直言って踊りは下手だった。


でも、ハルとなら…



「ナチ、俺実は…」


プチ。

音楽が止まった。


『皆様、お楽しみ中申し訳ございません!シタ=ハリターナ陛下からの重大発表があります!!』


マイクがキン、となった。

ざわめく会場。

重大発表?まさか婚約者のこと……?


『えー、この度、娘のナチ=ハリターナが20歳になったことを記念して、娘の婚約者を決定したいと思う。それで――』


「お父様!!」


皆がギョッとしたようにこちらを向く。


「私はっ、まだ結婚などしたくありません!」


『…何を、言っているのだね、ナチ。お前はもう20歳だ』

「でも私はっ!」


「シタ=ハリターナ陛下。」


綺麗な透き通るような声が会場をシンとさせる。


「僕が、ナチ姫様の婚約者になってはいけないでしょうか?」


「っ、ハル!」


『…名は。』

「ハル=イルニティ。リタ王国の第一王子です。陛下」


お、うじ…!?


この人も、王族の……!?


『リ、リタ王国、だとっ…!?貴様っ、どこから入ってきた!?今すぐそいつをつまみ出せ!』


「え?ちょっ、ハル!待って、レイ!やめて!」


レイ達によって簡単に追い出されてしまったハル。


「お父様っ…!何故ハルをっ、」

『リタ王国の第一王子と言えば。一度お前を殺そうとした王子の直接の息子だ』


「だからなんだって言うのですかっ!?ハルは何もしてませんっ!」


いつの間にか会場にいることを忘れ私達は言い争っていた。


『とにかく、もうアイツには近づくな!』

「……っ、お父様なんて知らない!」


私は走り出した。


私はもう子供じゃない。

婚約者だって、自分で決めるわ。


ハルを婚約者と決めたわけじゃないけれど、お父様にあんな理由で遮られるなんて冗談じゃない。


「お待ちくださいナチ姫様!」

「イヤよレイ!付いてこないで!」


…ハル王子は、何故私の婚約者に名乗り出てくれたのかな。


ハル王子に会って話がしたい……!


「…ナチ?」

「ハル!」


「何故姫が…!」

「ハル王子っ。一緒に逃げましょう!私、もうあんな場所嫌なのです!」

「…ナチ姫が、そういうのなら!すぐ側に俺の別荘がありますからっ」


私達は、手を取り合い走りだした。

会ってからたった数分しか経っていないのに


この方をこんなに愛おしいと思えるのは、何故だろう…


「…ナチ、姫」

「姫、なんて呼ばないで?ハル」


ベッドに横になりギュッと抱きしめ合う。

本当、どうしてだろう。


この方なしでは生きていけない気がする――。


「一目惚れ、したみたい」

「俺も」


柔らかい唇が私のモノに覆いかぶさった。


「…ん、ハル…」


あの綺麗な水色のドレスは脱がされ私達は生まれたままの状態に。



「…ずっと、生まれ変わっても、好きだよ」



最後に聴こえたのは、ハルの声だった。



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