超次元クラスマッチ!!

ちきん

俺たちの青春!!

 ついに、この時がきた。

 クラス対抗ドッチボール。

 俺は、この一瞬のために人生を費やしてきたと言ってもいい。それほど、俺、南条おたまは、この16年間、クラス対抗ドッチボールのために練習を重ねてきた。


 俺のクラスは全部で6組あり、トーナメント戦で進む形式となっている。

俺たち3組の最初の相手は、野球部が一番多く、他にも運動系男子の多い優勝候補の1組だ。


「この試合に勝てれば、後は優勝間近と言ってもいい。絶対に勝つぞ、この試合」


「はっ、任せろよ。ここで負けたら、俺たちなんのためにここまで努力してきたんだよってなるだろ?」


俺の練習相手をいつもしてくれた相棒、芳樹と肩をがっしりとつかみ合うと、その後深く深呼吸した。


「…勝つぞ」


その一言と共に、俺と芳樹は立ち上がり、クラスのみんなも俺たちの後へ続いた。

 体育館のコートに立つと、1組のメンバーと顔をあわせる。そして、審判の指示に従って俺たちは互いに向き合った。


「悪りーけど、3組はここで負けてもらうぜ」


「俺はこの16年間をこの瞬間のために費やしてきたんだ。絶対に勝つ」


審判の合図が鳴ると、互いのクラスは挨拶をし、ジャンプボール以外の人たちは後方へと引き下がった。


「ジャンプボール。俺たちのチームには1組より身長の高い奴がいない。最初は相手ボールからだ、気を引き締めろよ!」


「「おぉっ!!」」


全員からの返事を聞くと、俺たちは全員、後ろ側で完璧な防御の体制をつくった。

 これなら最初の攻撃はなんなく防ぐことができるだろう。…そう思われていた。


「そんなぁ甘っちょろい構えで俺らのボールをとれると思うなよぉ!!」


激しいジャンプボールの打ち付けから、1人の坊主頭にボールが渡り、大きく振りかぶった。

 おそらく、野球部の投手だろう、動きに無駄がない。まあ、…ここまではまだ大丈夫だった。


 しかし、坊主頭の手からボールを離れた瞬間、ボールは激しく輝き出し、閃光が走る様な速度で俺の右側を通過していった。


「…健二!!!」


ズドぉぉぉん!!と、激しい音をだしながらもろにその一撃を急所に打ち付けた健二は、一瞬で失神状態となり、閃光となったボールと共に、外野の後ろにある壁の中へとめり込んで行った。


「健二ぃぃぃ!!」


瞬間、健二がいたところから、一枚の紙が俺の前を通る。

 俺はそれを手に取ると、無造作にそれを開いた。



おたまへ


俺はぁ、この試合のためにお前らと一緒に練習してきた。辛いこともたくさんあったけど、俺たち、最高のメンバーだと思うぜ!

もし、この試合で俺が帰ってこれない身体になってしまったとしても、それは俺も覚悟していたことだ。

俺のことなんか気にするな、おたまならきっと俺たちを世界へ連れて行けるさ。

このチームでいられて本当によかった!サンキューな!おたま!


健二より



「…健二」


俺は、涙目になりながらその手紙を後ろポケットの中に詰め込むと、喝を入れるために両手で頰をばちんと叩いた。

 絶対、負けねーよ!健二!俺たちは!

 絶対優勝してみせるから!あと世界とかねーから!


「健二の仇は…俺がとぉーる!!」


「駿太!!」


駿太はこのクラス唯一の運動部であり、ハンドボール部である。因みにハンドボール投げの記録は13メートル。


「へっ!俺の一撃で泣くんじゃねぇーぞ!?くらいやがれ!!」


そう言いながら、コートの線ギリギリのところまで助走をつけた駿太は、その勢いのまま、ボールを投げつけた。

 が、そのボールはいとも簡単に1人のガタイのいい男に片手で受け止められた。

 ハンドボール投げ13メートルの駿太にしては、いい出来のボールだったと思う。

 しかし、そのボールは今は相手チームの片手の中に収まっており、さっきまでの勢いなどまるでなかったようだった。


「ふん…。この程度、カワウソ以下だな」


「な…おっ、俺のボールが…」


何故ここでわかりにくい例えを出したのか俺にはわからなかったが、カワウソには勝ってたと思う。うん。


「カワウソ以下は今すぐカワウソのいる川まで遠征に行ってこい未熟者めが!!」


「はいぃぃぃぃ!!」


ガタイのいい男からのフルスイングショットは、見事に駿太の尻に直撃し、大きな爆発音と共に、駿太は体育館の窓を突き抜けて空へと飛び去っていった。駿太の溜まりに溜まっていたガスと、ガタイのいい男の大火力が合わさって初めて生まれた奇跡の技といってもいいだろう。

 …これで俺の選抜チームも2人戦闘不能となり、残り3人。

 俺と和也、そしてブライアンはふぅー…大きく息をついた。


「はいはい頑張れよー!ここで負けたら全員アイスなしだかんなー!」


 …そう言った芳樹は両手でアイスの棒を上下左右に激しく振った。そう、今更だが芳樹は選抜メンバーじゃありません。


「はっはー!ラッキ〜!次は俺のとこにボールきたぜー」


そう言ったピアスだらけのスキンヘッドは、ニヤニヤしながらそのボールを拾った。

 明らかにガラの悪いその姿は何故この高校に受かったのか本当に疑うレベルである。


「ひゃっはー!ここによー!爆竹巻きつけたら面白いよなー!うへへ」


そう言って投げつけてきたボールには、やはり爆竹が大量に巻きつけてあった。


「アッ!オタマ!アブナイヨ!」


「ブッブライアン!!」


ブライアンはそう言って爆竹のボールをその大きな身体で覆いかぶさる。直後ボールから激しい音と光が鳴り響くと、ブライアンの上半身は、その爆薬のせいでかなりの火傷を負ってしまうことになった。


「ブライアン…!大丈夫か!?」


「平気ダヨ、オタマ。オレハコレクライジャ負ケナイ」


直後、ふんーー!!と力を込めたブライアンの背中から凄まじく美人な巨大な女性の化身が現れた。


「…こっ、これがブライアンの化身…」


「なっ!化身だと!?そんなものを使える奴がいたなんて…」


野球部の坊主頭がそう言ってることも無視して、ブライアンはボールに化身の力を詰め込む。

 すると、ボールは七色に輝き出し、自ら宙に浮かび上がった。


 そして、そのボールは1人でに相手コートまで移動し、全員の顔面に力強くボコスカボコスカと鬼のような強さで連続で当て続けると、優しい勢いに変わり、ブライアンの手の中まで戻ってきた。


「コレゾ、女神ノ力…アナタガタデハトテモ受ケトメレルモノデハアリマセ…ぐはっ!?」


渾身の技を放ったブライアンの口から微量の唾が吐き出され、ブライアンはその場にうずくまる。


「ブライアン!?」


「オレハ…モウダメノヨウデス。アトハ、マカセマシタヨオタマ…」


「ブライアン!?ブライアァァァン!!」


こうして、俺らは、1組に勝つことはできたが、大切な戦友を3人も失うことになってしまった。

だがしかし、俺はこの3人のことを忘れはしない。

 今度学校に戻ってきてら、必ず優勝の報告を伝えてみせる。

俺たちは!!必ず優勝してみせる!!!



 そして、この後の決勝戦、俺の渾身の時速10メートルのボールはすべて相手にとられ、ボロ負けしたことは、彼らに伝えなかった。

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