第4話 離脱1

私は今までに、2回 幽体離脱を経験している。

これを読んでいる人は、そんな話を数多く聞いている人も多いのではないでしょうか。

または、自身も経験しているという人もいるかもしれない。


高校生の頃の話、何年生だったかは、もう覚えていない。

その日は、授業中から酷い睡魔に襲われていた。

昼食は、ラーメンを食べて、2分で吐いてしまった。

とくに体調が悪いということはないのだが、

なんとなく、フラフラ、ウトウトしている、そんな日であった。


放課後まっすぐ帰宅し、部屋に入るなり布団に倒れこんだ。

すぐに深い眠りについたように思う。


目を開けることを躊躇うほどだるい、そんな目覚めだった。

うっすら目を開けると、ボワーッと視界にもやが掛かったように視界が悪い。

なによりも、身体が地についていないような浮遊感、

それは、とても心地よく、動こうという気にもならなかった。

ぼやけた視界の先には、自分の寝姿があるのだが、

まったく不思議だとも思わない。

見回せば、私の部屋である。

どこか違って見えるのは、部屋の天井近くで浮いているせいだろう。

私の身体は、私の身体の真上でフワリと浮いているのだ。

これが、幽体離脱かと思った。

よく、思った場所に一瞬で行けるなどと聞いていたので、

私も、とりあえず玄関に向かおうとしたが…行けなかった…。

窓の外に出てみようとも思ったが、行けなかった。

自分の身体なのだが、神経が繋がってないように感覚がなく、指一本も動かせない。

脳の働きが徐々に鈍くなっていくような感覚が続く。

緩やかに、空気に混ざり溶けていくような感じなのだ。

不安などはまったく感じずに、むしろその感覚が、とても気持ちいい。

動かせるのは眼球のみである。

私は、溶けていくような感覚の中で、聞いてた話と違うな~などと思っていた。


浮いているだけなので、退屈してきて、戻ろうと思うのだが、

戻れない……。

そう、戻ることもできないのだ。

そこで、初めて怖くなった。

どうやったら戻れるんだ!

少しばかりパニックになっていた。

海の底に引きずり込まれるような恐怖が襲う。

死ぬのか、と思い始めると、怖さに拍車が掛かる。


階段を上がってくる音が聞こえる。

トン…トン…トン…。

ガチャッとドアが開いた。

えっ!

母親と目が合った気がした………。


私は、布団で横になっていた。

「ごはんよ」

という母親。

そのまま下へ降りて行った。

時計を見ると、4時間ほど眠っていたようだ。

もっと長い時間、浮遊していたような気がする。


私は、しばらくの間、眠ることが不安だった。

また抜け出たら、戻れるのだろうか?


私の幽体離脱体験は、動けず、自分の意思で戻ることを許されない。


『穏やかな強制』という表現が、しっくりとくる体験であった。

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