第29話:向こうの世界で、必ず君を見つけ出す


 レキーラの背からは異形の根が生え、九尾の尾のように蠢動している。

 スレイアさんは、膨張し特大の龍の形を模した鉤爪と氷の翼を得ている。

 そしてオレは、振動し続けるレクゼリサスを手に持ち、目から何か火花のような者が迸っている。


 地を蹴り、3人の距離は一斉に近づく。

 そして、オレがレクゼリサスを思い切り上段に揮うと同時、スレイアさんは宙へ飛ぶ。

 一の太刀をレキーラは鎌で受け止める。

 だが、次の瞬間スレイアさんは上空から龍を模した氷の像をあられのように撃ち落とす。


 それを間一髪で躱す。

 いや、割とマジで間一髪。

 スレイアさん、絶対オレのこと思慮に入れてない。

 やっぱ……、やりづれぇな。なんだかんだで、スレイアさんは苦手だ。関わりがなかったこともあるが何となくグループから疎外している感じがしたから。

 だが、今はそんなことはどうだっていい。


「オレの仲間を殺した輩への罰だ……。思いっきり行かせてもらうぜぇっ!!」


 地を蹴った反動で軽く地面が抉れる。

 振動し続ける薙刀は触れた物質にも伝わり破裂させる。

 接近すると同時、薙刀を突く。背後からはスレイアさんが迫り、レキーラを挟撃。

 だが、レキーラは羅漢の紋章で霊獣化させた背中の根でスレイアさんへ対処。目の前の俺へは大鎌で流す。


 その後、何度も打ちあうが火花だけが散っていく。


「くそ……っ!何でだ、何で当たらねえ!!」


 レキーラは冷眼を崩さずただひたすら受け流す。

 するとスレイアさんが背後からレキーラの眼前に躍り出る。そして、大鎌に触れると同時、それを凍らせる。


 スレイアさんが正面にいったせいでオレは背後に回るしかねえ。

 くそ、また見切り直しだ。

 自分の持ち場決めたんなら途中で変えんなよ……っ。

 そう、心の中で悪態をつき、一つ閃く。

 オレはレクゼリサスを持ち直し、思い切り駆け出す。狙いは……。


「ちょいと肩借りるぜっ!」


 そう言って右脚で踏切り、スレイアさんの氷で覆われた肩を踏場に大きくジャンプ。軽く氷が割れたが気にしている場合ではない。


「おい……っ」

「悪りぃ、悪りぃ! でも……っ!」


 上空から「アークスキルXI、超過重力の一撃オーバーグラヴィシャス」を起術し、レキーラを重力固定、更にそこから負荷を増していき、俺自身の武器へもその影響を及ぼしていく。


 そして、レクゼリサスは狙い数多ずレキーラへ激突。レキーラは咄嗟に結界魔法陣ルーンを張る……が。


「甘い……っ!!」


 レキーラは嘲笑する。

 だがオレは精神エネルギーを流し込むのをやめない。力押しで、少しずつ、だが確実にルーンがひび割れていく。

 そして、ルーンが完全に割れたかと思うとレキーラの胴を諸共真っ二つに裂く。

 大量の血飛沫と共に確かな手応えと達成感。

氷魔法の造膜フリージア・タンペラス・スリュム」と、スレイアさんが唱えると裂かれたレキーラの身体の断面に薄い氷の膜が張られる。


「分裂した場合、即座に断面を焼くか凍らせ再生不可にする。何度も習っただろう?」

「あぁー、わーぁってるよ」


 口うるせぇな。毎度毎度突っかかってきやがって。


 すると、背中に悪寒が走る。


「君たち……、弱すぎるよ。それでも紋章器使いかい?」

「おいおいマジかよ」

「断面は完全に……っ!」

「魔法と紋章、どっちの方が効果が高いかなんて、言わなくてもわかるよねえ?」


 なーるっほど。コイツの紋章、バリエーション豊富だな。

 だが、また戦いが再開されるだけだ。

 しかし、スレイアさんとはどうにも歯車が合わない。共闘も互いが互いの長所を潰している。

 俺は同じ方向からガンガン攻め、かつその中で相手の戦法を把握しながら戦う。まあいわゆる脳筋だ。とにかく攻めてりゃ何とかなる戦法。

 だが、スレイアさんは反対に、常に違う視点から敵の戦法を全て暴き出し、その上でじっくりと慎重に倒していく。いわゆる計算型。

 だから噛み合わないのだが、そもそもの性格が苦手だったりする。この瞳の奥に、何か鬱屈した冷たい何かがあるようでドバッと言えないのがまたもどかしい。


 そんなこんなを思っているとスレイアさんが一つ提案する。


「スイッチで行くぞ」

「りょーっかい」


 あんま、得意じゃねえが。

 レキーラは浮甲使用紋を解除する。紋章装填状態なら同時にもう一つ紋章の能力を使える。これも紋章器使いの特権だ。


 すると、スレイアさんが先ずは突撃。

 レキーラは凍っていた鎌は手に取ると同時に溶ける。そしてそのまま応戦する。

 やはり、攻めの戦法ではない。レキーラは何かを引き出そとしているのか、それとも。

 本気でやり合える相手ではないと自分から攻めないのか。


 だが、スレイアさんも攻めあぐねているのか決定打を叩き込めずにいる。それに、あの様子だと。

 スイッチなんて叫ぶ余裕も、その概念すらも脳にはないのか。


「”突起”の紋章装填、特異能”先端恐怖症”っ!!」


 すると、紋章器の刃が針のように変形する。その針をレキーラに向けた瞬間。


「……ぐっ」とうめき声をレキーラは唸る。

 馬鹿げた特異能だが、その名の通り相手を”一時的”に先端恐怖症に陥れる。

 しかし、紋章単体で使うとその場に突起物がなければ効果は皆無。だからこそ、紋章器は便利なのだ。

ま、猫騙していどだけどな。

 紋章の特異能で戦闘に使えるものなんて本当に稀だった。

 そういえばさっき殺した市兵の”強気”の紋章は特異能の効力が弱化した精神状態を強化し引き立てるみたいな効力だった。要するに弱気を強気にするということなのだが、もともと弱気にならなねぇオレには全くもって無用の長物。紋章との相性や適合性も個々に違う。


 もちろん、効果の持続時間は違っている。先端の紋章もその効果時間は少ないが、そんな一瞬の隙を逃すほどオレたちは甘くはない。


「”扁爪ひらづめ”の紋章装填っ! クロウズスキルIX、鋭鋼爪アグレシオンっ!!」


 スレイアさんの鉤爪が長くなり、横に構えながら起術したスキルをぶっ放す。暴風が辺りをつつむ。オレはそれを後目にオレはレクゼリサスを構え背後に回りながら、逆袈裟懸けに斬り上げる。

 コイツにはマトモな殺し方なんざ通用しない。脳が心臓を直接ぶっ潰さねぇと。


 スレイアさんと目が合う。スレイアさんはどうしてだっ、と目で訊く。だが、そんなこと気にしていられない。

 オレはレクゼリサスを猛然と揮う。スレイアさんはクレスリズンを果敢に揮う。

だが、その何百という連撃を諸共せずに、レキーラは的確に全て弾く。そして。


「そろそろ飽きた。終わりにしよう。

 特異能”四沙門果”。有位・預流果よるかッ!」


 その、次の瞬間。


 飛空音。激突音。崩落音。

 それらが、一斉にオレの耳でメロディを奏でる。

 何が……、起こった。視界の先には広場が広がっている。どうやら突如、巨大な推力が俺にかけられ宙を一直線に飛んだ、そして家に激突したらしい。

 スレイアさんもすぐ隣の家に激突したらしい。呻き声を上げながら家屋の崩壊に呑まれていく。

 ち……、くしょ、う。

 メチャクチャつえぇじゃねえか、よ。

 セアにカッコつけて言っちまったものの何も出来なかった。


 すると、背伸びをしながら階段を降りる一人の女性、とその傍らで飄々と降りる一人の男性が目に入る。

 フルール姐さんと、リックだ。


「おー、サクヤー! 良かった、一応生きてるみたいだなぁ〜!」


 返事を返そうにも、瓦礫の下敷きで声は圧迫され言葉は出ない。


「まー、アタシらもやれるだけやってみるわ!」


 やめ、ろ。無理だ。

 勝てるはずがない、あんな化け物に。

 だが、姐さんとリックはどこか楽しげに口にする。


「あれ? レキーラ、あんたアタシらには楽しませてくれとか言わないわけ?」

「当たり前だ。君たち如きが僕を……」

「傲慢だね。僕、あんまり過ぎじゃあないね」

「まっ、やるだけやってみよーぜ、リック」

「だねえ」


 お気楽そうに笑い合う二人は静かに自分の得物を構えた。





⌘  ⌘  ⌘  ⌘






「そういや、リック〜。あんたもペンダント割れちまったのかい?」

「まあね。でも姐さん、今それどころじゃないでしょ」

「んー、まあそーなんだけどさ」


 大剣を担ぎ上げる。

 お気に入りだったんだけどな、リックとお揃(そろ)で付けていた”星降る夜空のペンダント”。

とある蛍の日に渡したプレゼント。

 悲しいといえば悲しいけど二人の命を守るために綺麗に割れるとかこのペンダント何様なんだろうか。

するとレキーラに向かって声をかける。


「あぁ〜、そんな張り詰めんなって。楽しもーぜ、な?」

「おい、女。あまり調子に……、のるな」


 レキーラはゆっくりと歩み寄り、大鎌のリーチになるや否や、思い切り振り下ろす。それをアタシは大剣を鎌で受け止める


「なーんだ、あんたちゃんと自分から攻撃するんじゃん」


 そう言った途端、レキーラは鎌を傾かせ軌道をずらすがそのまま軌道に乗り半回転。

 再び上段から斬りかかる。


「大剣と大鎌じゃ、アタシのほうが有利だもんねー!」

「どうかな?

 ” 羅漢 ”の紋章。

 特異能 ” 四沙門果ししゃもんか)

 無位むい阿羅漢果あらかんか!」


 すると、レキーラの手が黒く染まり消失。

 そのまま少しずつレキーラの姿が消え――


「――っ!

 汚(けが)れし御霊みたま腐蝕ふしょくに犯された霊媒を其の一指いっしにて洗浄されば汝のつげを聞き願おう……!

 オラクルスキルVII! 神の浄化!!」


 白い煙とともにアタシの体のいたるところから蒸気が立ち込める。


「危なかった……、まさか腐蝕効果を持った侵食系の呪いだとはね」

「よく見破ったな」

「そういうの、よく見てきたからねえ」


 そう言って黒の蒸気と共に姿を現わす。

 きっとさっきの紋章の力はあれだけじゃないはずだ。


 アタシとリックはよくペアで動く。

 最も連携が取れるからだ。

 突進バカのアタシを後ろからサポートしてくれる。

 敵の攻撃だってワザワザ気にしなくたってリックのオラクルやルーンが守ってくれる。

 リックと二人で組んで、負けたことなんてなかった。


 だから今回だって勝てる。

 するとふとレキーラが口を開く。


「一つ、聞かせてくれ。女……、どうしてだ? どうして君からは一切の悲しみを感じられない? 仲間の死は、人間に動揺と悲嘆を齎(もたら)すはずだが?」


 いきなりそんな哲学的な。


「そーだなぁー、なんでだろーな。よくわかんないや」

「そうか……」


 一瞬だけレキーラが悲しそうな顔をしたのは気のせいだろうか。

 かなりの疲れが溜まっているはずなので視界がちょっとボンヤリしている。


「姐さん……」


 リックが不安そうに呟く。


大剣を構え走り出す。

 リックのオラクルで速度は上がる。

 レキーラの懐に入り込み、


「ソードスキルX! 草薙の剣ッッ!!」


 横薙ぎに払う。

 遠距離から黄緑色の閃光が飛び出し、レキーラの足元には蔓(つる)が発生し動きを止める。

 だが、レキーラは意に介さず、


「”指令”の紋章。

 特異能” 退化し錯乱する脳と細胞の怠慢(たいまん)”」

「はぁ……、れ?」


 感覚が消えた。

 今、アタシは剣を持っているはずだ。

 今、アタシは……、何も重力を感じない。


 何が、起こった?


 動かそうと腕を曲げる……、すると左足が動く。

 口を開こうとすれば右手の小指が動き、息を吸おうと思えば瞬きをする。


 まずい……っ!


 これは脳からの運動神経への指令を支離滅裂させ誤作動を起こさせる能力かっ?!


 マズイ!

 早く呼吸に繋がる動作を探さないと!

 体の至る所を順序に動かしていく。

 左手を曲げようとすれば鼻が開き、指を一本一本動かしていくと足が曲がり首を傾がせる。


 息が苦しくなってきた。

 早く……、早く見つけ……っ!!


「ルーンスキルIV! オーリアル・エア!!」


 ブゴゥアァ

 気泡がアタシの周りに満ち息が和らぐ。

 感覚が戻ってきた。


 リック、ナイス!!


 そして、リックは何かをつぶやく。

 あれは、確か……っ。

 そう思うと同時にアタシの意識は別のところへ飛んでいった。






⌘  ⌘  ⌘  ⌘






 草原だった。甘い、どこか懐かしい香りがする。

 心地よい風、満点の青空。

 もう戦いなんてやめて、ノンビリとお茶を楽しみたく――撤回。酒を飲み明かしたくなる絶好の楽園だ。


 するとレキーラは間を置かずに詠唱に入る。


「世界に座する炎蛍えんけいの神よ! 汝が膂力を我に貸し与え給え!

 火魔法の攻竜ファイム・モール・ヘーリオスっ!!」


 ぼんっ♪

 小さな火が燃えた。


「……。」


「……。」


「……。

 グヒッ……、あひゃ……っ、アハハヒャヒャ!!

 ちょっ何?! 何?! さっきの魔法!?

 ちょっと可愛すぎじゃない?!

 いや、でもフツーにダサすぎじゃんっ!!」


 レキーラの顔が赤く染まる。

 初めて人間らしいところが出た。

……以外に可愛い。


「ねーねー、レキーラくん。どう? アタシの乳でも揉んで見る? 中々面白い反応してくれそうだしぃ〜」

「戦闘中にそこまでふざけられるとはあきれたものだ。だがまあ生憎、僕にはもうそんな感情はなくてね」

「アッレマ、また暗い設定を持ってるね〜」


すると、レキーラはアタシから目を逸らし、リックに問いかける。


「何を……、した?」

「仕方がないから答えてあげる。ここはねオラクルスキルXVⅢ、神の楽園。僕が創造し転移させた三人だけの空間さ。ここでは殺傷行為は全て禁じられているよ」

「は……っ。はは……っ! なるほど、人間は愚かだとばかり思っていたが、まさかよもや天界郷の最も崇高かつ神聖な場所を、スキルなどで実現しようとするとは。滑稽にもほどがあるぞ」

「ちょっと〜。アタシに理解できない話で勝手にテンション上げないでくんない?」

「いや、何。そこの神父、お前この固有結界、心象風景を展開するものだろう?なら、一つ聞かせろ。この風景はどこで見た?」

「神に、教えてもらったのさ。朧気だけど、イメージが浮かんできた」

「なるほど……。天神も随分と寛容になったものだ。たかだか一人間に、天界郷の中枢。さらに、その果ての神々の楽園ゴッド・エデンを見せるのは」

「アタシ抜きで話し進めないでくんない? てかさ、天界とか神話みたいなこと言ってるけど、あんたそもそも何者よ?」

「そうだな。君たちの分かる用語で言えば半神半人というところか」

「随分中途半端ね」


 その言葉に、レキーラは一つ笑みを零すだけだった。

 リックの手に持った十字架が周りの光に反射し照らす。

 辺りは一面が白かった。地面は爽やかな緑色。そして視界の端には大きな木があった。

 それは。何かの本で見た、この世界の何処かにあると言われている世界樹のように見えた。

 あー、でももっとデカイって書いてあったっけ?ま、いっか。

 果ては見えない、どこなのかすら分からない。

 影もなく光の中だ。

 ただ、地に足を付けている感触や空気を吸っている感覚もあり地上と状態は変わらない。

 リック曰く、本来ならもっと多種多様な草花の生えた豪華絢爛な楽園のような所に来るらしいがそこまで上達させるのに時間がかかるだのなんだの……。


「しかし、そうか。不完全な神の産物であるのなら、紋章の力の影響には及ぶまい!」

「あれ、それこのスキル一番の盲点であり弱点……」


レキーラは再び、紋章装填。そして――


「姐さん、まずいっ!!」

「見りゃ分かるっつの」

「残念だったね。だが、面白い者が見れた。

 ”羅漢”の紋章!

 特異能” 四沙門果 ”有位・預流果よるかッッ!!!」


 レキーラが拳を引き、打ち出す。虚構か幻惑か何も感じない。だが不意に吐血する。


 そして第二波が襲いかかる。触れる前からわかる。強烈な衝撃波。

なるほど、これがあの二人をぶっ飛ばしたやつか。

 確実にそれがアタシを押し潰そうとした時、突然目の前にルーンが展開する。


「やっぱ見破られちゃってるね」


 リックが少し小太りの体に鞭打ちアタシの前に立ちはだかる。


「神の楽円って紋章の力には弱いんだよね」


 十字縁天架じゅうじえんてんかをかざし必死にうけとめる。

 風圧で髪がなびき、十字架は激しく揺れる。


 ば……、りっ。

 ルーンが破壊される。


「ぐ……っ。守る……、絶対に守るよ!!」


 リックが衝撃波を全て受けとめる。

 両手を広げかながら。

 黒いローブを羽織ったリックの背がいつもより大きく見える。

 そんなリックに必死に……、声をかける。


「何でだよ……、おい。一緒に死ぬって言ったじゃんかよ。一人でいいカッコしてんじゃねぇよっ。どーせなんだ一緒に逝くぞ!」

「姐、さん。やっぱり僕の我儘は通らないのかい」

「あったりまえだ。あんた一応アタシの元カノとかいうやつなんだからちゃんと知悉してろ!」


 レキーラの能力を意志の力で半ば無理矢理……、耐える。

 前に飛び出し……、リックと共に衝撃波を受け止め、手をつなぐ。

 もう……、生きて帰ろうなんて思わない。



……ったく。死ぬって分かってりゃ、もっと一杯酒飲んどけばよかったぜ。貯蔵庫に入れてある酒と白ワインウチの子たちが悲しんじまうだろうが。

 そーいや、ギルドの金こすねて買った赤ワインバルデモンテ置きっぱじゃねーか。こんなことになるんなら、飲んどきゃ良かったぜ。

……ったく。


 頼むからさ、地獄に落ちても酒とつまみの一つくらい……。用意しとけよ、神様。





⌘  ⌘  ⌘  ⌘





――白い世界だった




――衝撃波を受けながら死へ向かうその最中、二人は顔を見合わせ声を掛け合う。




――『なぁリック、最後にあいつになんかしたくないか?』




――『そうだね……、出来ることなら』




――二人の手のひらは青白く光る




――『分かってんじゃん』




――『やっぱりこれしかないや』




――二人は繋いだ手を天へかざす。この為に、あったのだろうか




――この紋章は、二つで一つだ




――もしかしたら決まっていたのかもしれない……、生まれた時から





――『” 祈願 ”の紋章……、特異能』

――『” 成就 ”の紋章……、特異能』



 ” 我が願い此処に祈らせ給え ”     

 ” 其の祈り此処に成し遂げ給え ”

                    



――光が二人を包み込んだ




――もう何も、怖くない




――『なあ、リック。アタシらこれからどこに行くと思う?』




――『う〜ん、天国じゃないかな?』




――『あ、やっぱり? うーん、リックあのさ……。アタシ、方向音痴だから、そーゆーとこ行ったら迷子になっちゃうんだよな』




――『そうだね、いっつもそうだ。フルールを一人にしたら大変なことになる』




――ふふっ、と笑う




――『じゃあさ……、待っててよ。僕、向こうの世界で必ず君を見つけ出して迎えに行くから』




――『……ありがと。でもこなかったら承知しないからなっ!!』




――『それじゃあ……









――……また、後でね』


























 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る