第27話:神は罪を犯した世界を裁く

 オレたちは、ひたすら城の廊下を走っていた。

 市民たちを扇動したものの城の中へは、ルナートにはオレたちが伝えに行くと言い残しひたすら謁見の間へ向かう。

 先ほど、何かの火炎弾が打ち出された。ルナート達は恐らくそこにいるはずだ。


「サクヤ、この城やはりおかしいぞ」

「……ったく、わかってるよスレイアさん」


 そんなこと見ればわかるっつの。

 城の警備をしているはずの市兵の姿はなく、屍山が連なるのみだった。

 おそらく、ルナートたちがるやったのだろう、だが。

 異様な気配が、鋭利な視線が、絶えずオレの心臓を押し潰さんと狙いを定めているような気がしてならない。


 階段を登ると、一際大きな扉が開いている。

 オレは迷うことなくその部屋へ駆け込む……。


「な……、んで。こんなことになってやがる」


 その光景に一同は騒然とする。泣き崩れる。


 その部屋で初めに目に留まったのは、口付けをしながらピクリとも動かないルナートとミア。

 そして、その次は首を刎ねられた国王とその側で佇立する一人の少年。

 辺りにはシャンデリアの欠片が散乱しており、激闘の余韻を色濃く残している。


「おい、お前」

「はい……」


 黒髪で、まだあどけなさの残る少年は、無機質な表情で答えた。

 その手には血で濡れた剣が握られている。

 おそらく、この少年が国王を殺めたんだろう。

 他のみんなも部屋に入ってくる。だが、ルナートが死んでいると気付くと瞠目しながら絶句する。

 それを後目に、俺は少年に尋ねる。


「おい坊主。お前は、誰だ?」

「僕は……、ジェイム。国王の息子、ジェイム……ビラガルドです」

「もう一つ、ルナートは誰にやられた?」

「あそこの」


 そう言ってジェイムの指差した先の天井には蜘蛛の巣のように張り付けてあり、そこには……、何もいなかった。


「あれ、確か人が……」


 ジェイムが驚いたように唖然としていると、不意に声が聞こえた。


「僕の、ことかな?」


 その声の主は玉座に足を組み居座りながらオレたちを俯瞰していた。さも、面白いものを見たかのよう満足げな表情で。


「誰だ?」


 オレの誰何に、レキーラは一つ間を置き答える。


「レキーラ……この国でいう参謀というやつだ。そして、君たちの目線で言わせてもらうとこの革命の黒幕と言ったところか」

「なるほど……お前が。黒幕の癖な堂々としやがって、薄気味悪い」


 すると、レキーラを見たジェイムが驚いたように声を上げた。


「貴方は……、ルナートさんに殺されたはずじゃあ?」

「ん? ……ははっ。あの程度のスキルと毒で僕は死なないさ。まだ後遺症はあるが回復しているよ。そらに……、ああいう人間らしい劇を見るのは好きでね。最後までゆっくりと。見させてもらったよ」

「そ……んな」


 ジェイムは悲観したように呻く。

 オレの脳は冷静に働く。

 いつもなら、躍起になって躍り出ていたところだ。スレイアさんも、相変わらず冷たい表情でレキーラを睨みつけている。


「彼はよく戦ったよ。僕をあそこまで追い詰め、楽しませてくれたのは彼が久方ぶりだ。だがまあ殺してしまえばもう用済みだがな。……それで、君たちは僕に何かようかい?」

「あぁ、理解したぜ……。よくもまあここまでメチャクチャにしてくれたもんだ」


 心底から笑いが込み上げてくる。

 俺の声に連動するように、<零暗の衣>のみんなは涙を拭い、各々の得物を手に取る。

 一蓮托生、ルナートの、ミアの仇は俺たちがとる。


「……ルナートに託されたこの革命を終わらせるには、最後にお前を殺す必要があるってな」

「はあ、また戦うのか。まあ、僕は構わないけどね。せいぜい、彼くらいに楽しませてくれ」


 俺は背負っていた紋章器【月光を裂く双薙レクゼリサス】の柄を手に取る。


「あぁ、楽しませてやるよ。レキーラ……、次のお前の相手は、俺たち<零暗の衣>だ」

「いいだろう。だが、君たちのような大人数を相手にするには、この場所はどうにも不利だ。ステージを変えようじゃないか」


 すると、不意に視界が変わる。

 だが、オレたちは困惑するような声を出したり表情に出すことなどない。

 急な状況変化など、嫌という程慣れている。

 それに……、仲間の死も。嫌という程体験して来た。

 そして、目の前への敵との闘いに支障をきたさないようにオレたちは心を殺してきた。思考から排除し続けてきた。

 仲間の死で心が揺らぎ油断し、敵にそこを突かれて死ぬようなことがあれば、天国へ逝ったやつらに申し訳が立たない……と。

 オレたちはずっとそう言い縛ってきた。今が、まさにその時だ。涙を流すものはいない。

 オレたちはもう、戦闘のプロだ。

 常に気を張り油断など微塵もしない。得物を構えた体勢も崩さない。


 石敷きの地面。燃え尽きた巨大な処刑用の十字架――集落の処刑奴隷は悉く、みんなしんだようだ。

 そして、視界の先に聳え立つビラガルド城。

 レキーラは浮遊しながら、オレたちを見下ろしている。


 完全に、階円広場。それもど真ん中に”転送”させられた。さっと周りを見回す。そして、仲間が全員いることを確認すると、視界の先で何かをとらえた。……あれは。


「ルビンちゃん、セア!」


 傷だらけで倒れこむルビンちゃんとセアを発見する。意識はないのか、返事はない。

 即座に回復役のレノンへ目配せを送る。レノンは俺の胃を介したというように首肯し走り出す。そして、ルビンちゃんとセアを両脇に抱え、階円広場を登り隘路へと消えていく。

 いくらか時間がかかるが、何とか回復してくれるはずだ。


「準備はいいかい、人間ども」

「あぁ、いいぜ。とっととおっ始めようじゃねーか。この革命の……、最後の戦いを」






⌘  ⌘  ⌘  ⌘





 


 カィンキィッん! と歯切れのいい擦過音を撒き散らしながら数十合と打ち合いスイッチを繰り返す。

 あれから5分ほどたったがレキーラはその場から動くことなくひたすらオレたちのスキルをいなす。スキルにはスキルを、魔法には魔法を、衝撃には斬撃を。的確な防御、しかし攻め込んでくる様子はない。


 11人対1人の、スキルと魔法が入り乱れる壮絶な戦いが繰り広げられていた。


 オレとフルールが薙刀と大剣を猛威に振るい、キリーナとマイクの拳と弓が二人の隙を生み出す。

 スレイアさんは既に紋章装填メダリオンロードを行い、階段の最上部から氷撃を浴びせる。ユウの小型爆弾が俺たちに一切影響しない絶妙のタイミングでレキーラに爆破させるも……、無傷。


 何者だ――?


 それぞれがそれぞれの短所をカバーし合いながらスキルと魔法を組み合わせタイミングを同調させ、全員のペース、リズムを作り出す。最下部はかなり広く、全員が立ち回るのに充分だ。

 遊撃型は互いの隙を相殺しつつ牽制、援護を繰り返し、近接型は慙愧の勢いで斬り結び突撃していく。遠撃型は階段ではなくその周りにある家の天井へと登り、援護射撃や回復を行う。

 戦闘幇助ほうじょは互いが互いの技や癖を知悉しているため寸分の違いなく、し合える。


 いつもならルナートが指揮をとり全体を把握しながら牽制と瞬殺を酷使し、場全体を完全に把握し時事刻々に最も適切な指示を飛ばしていた。


 だが……、今はもういない。

 するとレキーラの掌が一瞬点滅し同時に起術。


「十把一絡(じっぱひとから)げが……っ、この僕に勝てるなど思い上がるなよ。

 アストラルスキルIX、墜啌鎖星(クーイン・スターニア)!」


 それに咄嗟に反応したリックがレキーラの起術を妨げる。


「オラクルスキルXⅡ、神の供物!!」


 レキーラのスキルを遮り十字架を掲げながらリックはスキルを起術と同時に近接型は一歩ひくと数式の螺旋がレキーラを囲むように展開。

 能力に関しては零暗の衣全員が互いのスキルや魔法を熟知している。

 Ⅰ〜Xの数式記号が異様な様に変形しレキーラを覆い尽く体にへばりつく。


 源素力マレナスの即完的枯渇。発動しかけたスキルに込められた源素力を完全に無効化し相殺。そしてリックは神の宣告を唱和する。


「聞け、罪深き者よ。我は其の愚かなる蛮行に神判を下し汝が力を大いなる神への供物として奉る者なり」


 リックが唱え終えると、数式はレキーラの体へと刻み込まれ体に溶けこ……。


「神への供物?! ははっ……! なかなか滑稽じゃないか」


 レキーラはくうを握りつぶす。

 溶け込もうとしていた数式は残滓ざんしを残し空へ砕け散る。


「神判を下すのは君の崇める神じゃあない。……僕だ」


 鎌を薙ぐ。

 空撃にリックは背後へ飛ばされる。

 ザツっ、とフルールは表情を怒色に歪め走り込みながら振り被る。


「ソードスキルXⅠ! 覇斬【大蛇おろちの舞】!!」


 鎌を掲げスキルを繰り出そうとしたレキーラへフルールの大剣がうねりを上げ襲いかかる。

 ソードスキルに流派を練り込め放った斬撃は鎌と鍔迫り合う。


 レキーラは咄嗟に空いた左手を突き出し、


「世界に眠りし大地の神よ。汝が膂力を我に貸し――っっグ!!」


――レキーラの顔へユウの爆弾が投下される。

 投爆弾の成功にユウが歓喜する。


「口さえ封じればスキルも魔法も使えないよね!」

「世界を満たせし海瀧かいろうの神よ。汝が膂力を我に貸し与え給え!

 水魔法の攻槍シュプラス・タンペラス・オーケアノス!!」

 

 レキーラの顔へユウが粘着弾を発車させ爆破。それに合わせスレイアさんの周りから巨大な氷槍が発生し、爆破によって体勢を崩したレキーラへ斉射される。

 

「つっ……。さすがに僕の言葉、遮りすぎじゃあないかな」


 レキーラはだが、無傷。濛々もうもうと立ち込める砂埃の中、メイが「その余裕そうな顔むかつくなー!」といじらしく呟きながらチャクラムを構え突進。

 フルールは背後から渾身の力を込め斬りかかり、レキーラの体制を崩す。そして僅かに半歩下がった瞬間、完璧に移動位置を見切っていたメイのチャクラムがレキーラの背中を裂くと同時、速攻のスイッチで俺の袈裟斬りがフルールの背後から襲いかかる。


 だがレキーラはそれを諸共(もろとも)せずチャクラムの軌道が背に触れる数瞬前に体を反らし急所を外す……軽く衣を剥ぐ音を残響に、オレの袈裟斬りへ鎌を振り上げ弾きかえす。


「ギルドリーダーがいない状況下でこの連携力……、素晴らしいな。流石、腐っても伝説のA級ギルド<零暗の衣>というわけか……」

「うるせぇっ!!」


 鈍い音が鳴り響く。


「力が、足りていないよ」


 嘲笑は消えない。不気味ですらあるその表情を最後にレキーラはついに……。反撃へと移る。


「まずは……」と、突然姿を消し瞬間移動した先にいたのは。


「レノン――っ!」


 俺の声は――


「残念……」


――そこで、途切れる


 あっけない……。くそ……、くそっ!!

 今まで共に過ごし苦難を乗り越えた家族が目の前で何の予兆もなく唐突に命を落とした。


 見えたのは全体完治スキルを発動し終え、家の屋根より回復を行っていたレノンの首をレキーラが刈り取る瞬間のみだった。


 宙を舞う首、漂う鮮血。

 全てが、嘘のようにその時は流れていく。


 レキーラは冷静にそう語りかけ、俺を弾き飛ばす。家に激突し頭上から瓦礫が土砂崩れのように降り注ぐ。


 驚き、惑い……、レノンの表情に移ったそれを汲み取る者は――いなかった。


 レキーラはレノンの屍を目視することすらなく屋根を蹴りだし空中へ踊りだし広場の中心へと突っ切る。標的は――


「――オレかっ!」


 瓦礫から這い出したオレは倦怠感と疲労感に苛まれその場から動くことすらままならない。やはり動揺は隠せない、か。

 だが……、何度も仲間の死は乗り越えてきた。そして分かる、ここで狼狽え死ぬことが死んだ者への一番の侮辱だ。


 自分の死のせいで仲間が死ぬ。その屈辱を天へと向かった仲間に与えるわけにはいかない!

 今までオレたちはそう言い縛ってきた……っ!


 レキーラは呟く。


「回復役の殲滅、後に主力戦闘者の排除。こんな定石を再び打つ日が来ようとはな。こんなに戦うのは久々だ、楽しませてくれ」

「「……んなことっ、楽しませるわけ無いだろーがっ!!」」


 そう言い放ちながら背後からキリーナとマイクは飛び出す。

 マイクの弓とキリーナの拳の衝撃波がレキーラを襲うが間を置かず弾かれ空へ散る。

 レキーラの向かう先は倒壊した建物に囲まれ広さを増した街路地にかろうじて立ち上がったオレ、そしてその隣で向かってくるのを構えるフルールとリックへもその矛先を見据える。


 倒壊を免れた家屋の屋根からは支援型のメンバーが陣取り時節位置取りを変更しつつサポートしている。


 オレはリックとフルールへ視線を向ける。

『散るぞ』

『『了解』』

 目配せで会話を果たし、オレたち三人は別々の方向へと散会。


「逃がすか」


 レキーラが再びオレへ鎌を向ける、が。


「ブレイヴスキルVⅢ! ストーム・エゼスト!!」


 オレは起術と同時、薙刀を一薙ぎし竜巻を打ち出す。すると、そこから巨大な竜巻が発生する。


「足止めしたつもりか?!」


「そのつもりだよー」と、ふわりと桃色の髪をなびかせメイが位置取る。


「……早かったね」


 背後をとったメイは掌をレキーラの背に叩きつける。


「やっほー。レキーラくん、見切ってたように言うのやめよっか?イライラするしー。

 ”抵抗”の紋章、特異能”レジスタンス”」


 すると、レキーラは金縛りにあったかのように動かなくなる。

 ”レジスタンス”は束縛系の特異能だ。対象を縛り、対象がそれに抗えば抗うほどその強度はましていく。

 そのままチャクラムで首を刈り取ればと思うが恐らく死角には全てルーンが張られていることはみんな察知しているのか、手をかけない。


 レキーラは先程と同じように空を掴むが精製源が源素力(マレナス)ではないのか無効。

 そしてメイが叫ぶ。


「ミーニア! 準備おーけー!」

「待たせ、すぎ」


 ずっと詠唱を続けていたミーニアが、ようやく動く。

 ゴゴゴ……………、と地鳴りが鳴り響く。

 ミーニア、やはりあの技を。


 ふと、雲を見る。

 ルビンちゃんのスキルの名残かまだ……、雨雲は消え去っていない。

 ミーニアはそれに間を置かずに起術。


「サモン、スキル、XV。召喚(サモナイズ)×ギガント」と唸る。

 階円広場の最下部の端に張り巡らされた巨大な魔法陣、そこから地響きがなり砂埃が舞う。そしてその中からまるで最初からそこに埋もれていたかのようにモンスター……、ギガントが姿を現わす。



――――召喚士。

 職士そのものが希少かつ、能力発揮にかなりのリスクを有する職士だ。

 召喚士の使うサモンスキルはスキルランクに合わせた種類の襲生動物モンスターや希少生物をその場に膨大な源素力と詠唱により出現させる――――




「久しぶりだね、ギガとん♪ あの人、殺すの、手伝って」


 ミーニアはギガントの肩に乗りながら頭をさする。ギガントは「ググル、グゴゴォァ」と了解の返事をする。

 黄土色をした家一つ半ほどの巨躯が魔法陣のの上に出現し広場の一角を完全に占める。一つ目が辺りをぎょロリと見回している。

 息遣いが鼓膜を震わし、吐き出される息が鼻をくすぐる。



「行って」


 するとギガントはゆっくりと立ち上がりレキーラのほうへ歩み寄る。レキーラはまだ縛られたままだ。

 他のみんなは完全に距離をとる。

 キリーナとマイクも突進して来ていたが一旦引き、いつでも飛び出せる姿勢で見守る。


 一旦はこのギガントに場を任せて全員が階段を登り距離をとりながら最小限の回復をし、息を整える。疲労困憊ひろうこんぱい、やはり一時的な休息で言えばこのサモンスキルは有用だ。

 まあ、ミーニアはそれを良しとは思ってないらしい……が。


 そう思いながら眺めていると、ギガントはノッシリと地を踏みレキーラへ近づく。レキーラは怖気付くことも、その場を動くこともせず、さも興味深い瞳でその巨躯を見上げる。

 ギガントはレキーラにある程度まで近づくと間髪入れずに手に持った長大な棍棒を振りかざしレキーラへ振り下ろした――


――だが突如異様な音を立て、目の前で……、ギガントが倒れる


 分厚い皮は裂け、太く詰まった肉は断たれ、血なまぐさい臭気が満ち緑の血が地を染める。


「……嘘」


 ギガントの背後で源素力の供給を行っていたミーニアは、激しい喪失感に襲われたのか膝を地につけ、ギガントの亡骸を呆然と眺める。

 まずい――っ!

 レキーラがミーニアへと近づいていく。オレは咄嗟に走り出す。


「ミーニア、と言ったね。なかなか強力な召喚士だ、ここまでの使い手はそうそういるものじゃあない。希少だから僕の手元に置いておきたいが……」


 レキーラの声にミーニアの体が震えだす。

 

「あの程度のギガントなら、腐る程殺してきた」

「あの、程度……?」

「あぁ。君のサモンスキル、その程度が限界だと言うのなら、悪戯に生物を弄ぶその力……、君の存在と共に剥奪させてもらうよ」


 するとメイが「させるかっ!!」とチャクラムを投擲する。


 次の瞬間にはレキーラの白い鎌がメイの身体を、まるで丸太を割るかのように裂いていた。ミーニアはその血飛沫を受け白目を剥きながら気を失う。

 メイからは紋章が飛び出しレキーラの鎌へと吸い込まれる。

 あいつも……、紋章器使いかよ!

 そして、レキーラは再びミーニアの元へと歩き出す。


 くそ、早く! 早く!

 だが焦燥の棘に囚われた足は無慈悲にも絡まりその場で派手に躓く。必死に見上げたその先でレキーラは ミーニアに手を打ち出す。

 それと同時にミーニアの胸が抉り取られる。レキーラの手が赤く禍々しい形を成し、ミーニアの方へ伸びていた。


 それを引き抜くと同時、大量の血が吹き出る。


 あぁ……。

 ダメだ、勝てない。

 敗北感が、胸を打つ。

 こんなやつに、勝てるわけ。


 メイとミーニアの亡骸は、今まで死んできた何十人という仲間たちの元へと旅立った。

 オレたちは生き残ってるんじゃない。置いていかれているだけだ。

 

 ならきっと、神様がそう言ってるのなら。

 ルナートもいなくなった<零暗の衣>にもう意味などない。


 きっと、そういう運命さだめにあっただけだ。

 ようやく、オレたちは罰を受けるときが来たのだ。オレたちの死がこれまでの過ちの償いになるのだ。


 なら、きっと――


――この革命は失敗し、レキーラの手によって


――オレたち<零暗の衣>は全員


――死ぬことになる


――それはきっと、正しいことなんだ


――これはきっと、神による断罪なんだ


 オレは静かに……。そう、確信しつつあった。




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