第20話 オークとマンドラゴラと

 あれ以来ナオは尋常じゃなく男を怖がって近づこうとしなくなった。俺が佐藤と大熊とは仲が良いせいか、あの二人だけには心を許してるようだったが、他の奴には全く近寄ろうとしなくなった。

 佐藤と大熊もナオがイマイチ元気無い事に気づいて何かあったのかと聞きに来たけど、そんな事言える訳ねーし、テキトーに誤魔化したりしてた。


 そんな時、精一杯気を利かせたつもりなのだろう、大熊が旅行を提案してきた。俺らトロル、オーク、魔王の魔物三兄弟と彩音とナオでどっか行かねーか? って。佐藤は手放しで賛成、彩音も『真央さんが行くなら』と参加を決めたらしい。ナオも俺が一緒に行くって言ったら、ようやく首を縦に振った。


 大熊がナオの水着見たさに海への旅行を提案したが、彩音の『日焼けするから』の一言であっさり却下、山に決定。残念がる大熊ではあったが、山のコテージでナオと星を見ながら語らうのもいいじゃん! と気持ちを切り替えて候補地選びを始めた。


 こういう全力プラス思考の奴に幹事をやらせると割となんでも上手くいくものだ。なんとナオが「あたしも一緒に幹事やる」と言い出したのだ。勿論だが大熊は大喜びだ。なんやかんやと二人でせっせと相談していい感じになって来た。

 こないだの晩「俺が守ってやる」なんてデカい事言っちゃったけど、ナオの事は大熊に任せておいた方がいいような気がしてきた。まさにいい婿を見つけた父親のような気分だ。こうやって世のオヤジたちは娘を嫁に出すんだろうな。などと魔族らしからぬ発想をするようになって、俺はますます魔界に帰れねーななんて思ったりして、それもいーかなんてまた逃げようとしてる自分に気づいたりして、あー、俺だけがいつまで経っても成長しないヘタレなんだよなと現実を突きつけられたりして……。どんだけヘタレで絹ごし豆腐メンタルのカマってチャンなんだか。

 って俺、また自分の事ばっか考えてるし。これだから『魔界の皆様の平和と幸せの為に日々尽力』なんて言っても説得力に欠けるんだろーな。


 一方ナオの方は、大熊の佐川急便お中元限定配達アルバイトの合間を縫うように待ち合わせしては、場所を決めたり、レンタカーの手配したり、ルートの確認をしたり、全員の日程調整したり、宿を取ったりと、二人で楽しそうにやっている。こうして傍で見て居ても、すっかり可愛くなったナオとイケメン爽やか佐川男子大熊はかなりのお似合いカップルだ。帰って来ると毎日、大熊と決めた内容について俺に報告してくれるんだけど、なんかそれも変にこうなんて言うか聞きたいような聞きたくないような……可愛い娘を大熊に取られるようなヤキモチ? 嫉妬? ジェラシー? ……って同じか。まあ、いいんだよ、そんな感じなんだよ。


 だけど、これでナオが元気になってくれるならそれでもいいかって、そう思えてしまう自分に苦笑いしちゃったりしてさ。なんか俺、すっかり保護者。


 俺はナオが笑顔で居てくれればそれでいい。その笑顔を見てるだけで俺が幸せなんだから。

 ……ってマジ、俺、お父さん。

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