コーラと魔王

第1話 どいつもこいつもバカの一つ覚えみたいに

　あのさ、いきなりだけど愚痴っていい？

　どいつもこいつもバカの一つ覚えみたいに『俺は登校中にトラックに轢かれて死んじまったんだけど、あの世に行く前にアホ女神さま（その他諸々）が現れて「私の手違いであなたは死んでしまいました」とかなんとか言って異世界に転生して、アホ女神が自分の不始末を隠蔽するために賄賂としてチート能力とかつけてくれて、しかも生まれ変わるときにわざわざご丁寧に性別まで転換しちゃって、左の肩に無意味に魔法の使える小動物を乗せた天然系美少女になって、一人称代名詞に「ボク」って言葉使って、ツンデレイケメンチート魔導士（その他）を仲間にして魔王を倒しに行く』的な発想の、スーパーウルトラ激くだらんテンプレ感満載の『なんちゃってファンタジー』とか量産して、一体何が楽しいわけ？

　お前らバッッッッカじゃね？

　見ろよ。お前らのような厨二ワナビのせいで、肩に小動物乗っけた無駄に露出度の高い美少女勇者だらけじゃねえか。

　それだけじゃない。

　美少女勇者（転生前は男子高校生）の仲間になる予定の、セックスアピール抜群のボンキュッボンなナイスバデー女剣士が、Ｇカップの谷間を惜しげも無く披露しながら自慢の剣を意味も無く振り回したりとか！　危ねえだろうがっ！

　そーかと思えばめっちゃイケメンチート魔法使いがウジャウジャ。お前らは希少価値という言葉を知らんのか？

　てかチートって何？　反則じゃねーの？　何それ？　意味不明！　

　あのなぁ。トラックに轢かれて死ぬのは構わん。勝手に死んでくれ。転生でも何でも好きにしろ。

　でもな。勇者に転生すんな。一般市民の分際で、チート能力身に付けんな。

　いいか、ここは異世界じゃない、魔界だ！

　まあそうだわな、とりあえず『異世界』って言葉付けときゃ今っぽいつーか時代に乗ってるつーか、トレンディ？　って言葉が既にトレンディじゃねーな、いやむしろ死語の世界だアンビリバボーだ、そんな事はどーでもいい、とにかく設定『異世界』にしときゃ書くのが楽なんだろ？　ヘボ同人誌の作家にありがちな設定なんだよ。だからお前の事だっつの。お前！

　でもな、大切な事だからもう一度言うぞ、ここは魔界であって異世界じゃねーんだよ！

　いや、お前らから見たら魔界も異世界の一つには違いない。でもな。魔界には魔界のルールってもんがあるんだよ。人間界にだってあんだろーが。ルール！

「ほかのひとのいやがることをしてはいけません」っていうのは人間界では通用しないのか？

　すっげ迷惑。

　チョー迷惑。

　あ……。

　何その目。

　何が言いたい。

　あ、俺に喧嘩売ってる？

　ええ～っ？　俺が喧嘩売ってる？

　てめ、いい加減にしろよ、こっちはマジ大変なんだよいきなり人口密度増えるし、無意味な殺戮が繰り返されるし！

　大体な、魔王ほど割に合わねえ仕事ってねーんだよ。

　魔界の皆さんの暮らしを守る為、日々努力に努力を重ねて、陽の当たらない地道な仕事してんのにさ。聞きたくもないクレームと言う名の愚痴を聞いてやってさ、お前ら人間（ヘボ作家ども及びヘボゲーマー）が送り込んだ訳の判んねー奴らを捌いてさ、しかもなんか不死身にコンティニューして来るしさ、お前さっき倒したじゃん、なんで生き返ってんのよ、パーティ全滅したじゃん、ってそんなのまでいちいち相手してさ。

　何故に？

　ラスボスとか言われて、悪者扱いでさ。

　俺が何したっつの？

　俺がしたのは「苦情処理」だけだろ。

　ああ、もうやってらんね、俺が異世界行ってやる。

　もう知らないからね、引き留めんなよ。

　……引き留めるなってば。

　…………。

　おいっ！

　誰か引き留めろよ！

　お願い、引き留めて。

　すいません、もう言いません。お願いですから引き留めて下さい。

　てか。

　ここでもあんま必要とされてる気がしねえ。

　どうせ存在感ねーし、異世界とか行ってみるかな。

　行っちゃうよ？

　いいの、止めなくて？

　…………。

　あそ。

　いいもんね、ホントに異世界行っちゃうもんね。

　後悔すんなよ。

　てか、ちょっとは後悔して。

　あの……。

　じゃあ、俺行くわ。

　てか！　探すなよ！　探さないでください！

　ちょっと探してください。

　一応置手紙しておこう。

『自分探しの旅に出ます。探さないで下さい。』