傷
唯希 響 - yuiki kyou -
独白
『駅が嫌いだ』
毎日、毎日、毎日毎日毎日毎日毎日……
同じ顔の人間が同じように電車に揺られている。
理由もなく同じ車両に乗り、同じ階段で乗り換え、学校や会社に向かう。いや、理由も無いからかもしれないが。
何も考えず、歩き、電車に乗り、目的地まで向かう。
確かに意思が存在するであろう人間なのに、その光景は酷く単調である。まるでそう設定されているロボットかのように。
はたして彼らはその瞬間「生きている」のだろうか。
楽しそうな話し声も笑顔も存在しない。
絶対的な無感情ばかりがそこにある。最初からそんなもの無かったかのように。
そんな殺風景が毎日のように続く。
だから、駅が嫌いだ。
『満員電車が嫌いだ』
乗車率200%の車内。
同じ顔した人間達がずかずかと私の中に土足で入ってくる。
しかも誰にも悪気は無い、無意識のうちに、
そんなくせしてその中の誰一人として私を見ていない、そんな理不尽が納得できない。
だから、満員電車が嫌いだ。
『電車が嫌いだ』
誰かが席に座ると誰かが座れなくなる。だから誰もが一番に乗り込みたがる
昨日、ろくに寝れなかったから、
一昨日から、体調が優れないから、
さっき、嫌な事があったから、
昨晩、恋人に捨てられたから、
みんながみんな心の中で言い訳をして奪い合う。
「おじいちゃんおばあちゃんに譲りましょう」
それは分かったけどそれ以外の人には絶対譲りたくない。そんな汚い感情ばかりが充満する。
だから電車が嫌いだ。
『世界が嫌いだ』
全部、嫌いだ。
あいつがクズなのも、親が自分を分かってくれないのも、
友達に裏切られるのも、仲間はずれにされるのも、私がめんどくさいのも、
私もクズなのも、
全部、全部、嫌いだけど…
嫌いなんだけど嫌いな訳じゃない…。
本当は多分、すき、かも、しれない。
わからない。全部。
『あなたが好きだ』
なんとなく。
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