6
ウルドに迫る刃を見て、キルリアの中で何かが弾ける音がした。
「……駄目えぇぇーー!」
堰を切ったように溢れ出る魔力。なんとか魔王に標的を絞りることは出来たが、それ迄だった。呪を破った代償は大きい。吸い取られる魔力に、キルリアの意識は遠退く。放った魔力が魔王にぶつかり、強烈な閃光を放った。
(ウルド……、どうか……)
閃光の向こうに、驚愕したウルドが見えた気がした。しかし、そこまでだった。キルリアの意識は闇に落ちた。
キルリアの叫びに、絶対絶命だったウルドも、剣を振り下ろした魔王も、弾かれたように振り返った。
その瞬間、強大な魔力の塊が魔王を襲った。
「くっ……!」
魔王は咄嗟に防御に移るが、間に合わない。その魔力は魔王を直撃し、魔王はそれに飲み込まれる。そして、強烈な閃光と共に、その力が弾けた。
すぐそばにいたウルドも、突然の強烈な閃光に、腕をかざして目を庇う。何が起きたのか、まったく分からなかった。ただ、そこで弾けた力の強さに圧倒されていた。
普通の力ではない。先程の銀髪の男と同じ、もしくはそれ以上の力。一種の畏怖すら感じられるくらい強大な魔力。それに呑まれて、ウルドは動くことすら出来なかった。
目を焼くような閃光は徐々に収まる。やがて、見えてきたのは、暗く冷たい広間。そこには、動くものは見当たらず、静寂が満ちていた。
光の反動で見えなくなっていたウルドも、だんだんと目が闇に慣れてくる。そして目に映ったのは、倒れたキルリアの姿。
「キルリアっ!」
慌てて駆け寄ってその体を抱き起こす。ぐったりと重い体に最悪の事態が頭を過る。真っ青を通り越して血の気の無い白い肌、閉じられた瞳、力の無い身体。ウルドは、願うようにその体を抱き締める。すると、とくんっと微かな鼓動が伝わってきた。その音に安心するも、危険な状態には変わらない。
顔を上げたウルドは辺りを見回す。近くに、動くものの気配はなかった。そして、あの銀髪の男の気配もない。しかし、死体も無いということは、うまく逃げたのだろうか。とにかく、ここはまだ敵地だ。なんとか国内に戻らなければならなかった。
と、その時、急に頭に声が響いた。
《……突入班、応答をっ!》
それは、ライトル王国にいる支援班からの通信。
《……こちら突入班。非常事態発生。至急、ここに転送穴を送ってください》
《……了解》
ウルドの“声”に事態を察したらしいあちら側は応えると、すぐに動いたようだ。ほんの数秒で、国に繋がる空間道が繋がったのを、ウルドは感じた。
そして、現れた支援班と共に、冷たくなった七人と、意識の無いキルリアを連れて、ウルドは国に戻ったのだった。
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