2

――午後四時。

「では、説明を始める」

 特別選抜の教室には男女合わせて六人の生徒と教師らしき人が一人、教壇に立っていた。そのクラスにいる人はすべてが白地に黒い模様が入った同じローブを着ていた。それが、ライトリアの身分を示すローブだ。

 教壇に立った教師は任務についての説明を始めた。聞いている六人の中にウィルダムの姿はない。しかし、誰も気にしてはいなかった。キルリアさえも、それが当たり前のように説明を聞いていた。

 というのも、このクラスにおいて当たり前の事だったからだ。つまり、ウィルダムは遅刻常習犯だった。だから、それに慣れてしまった彼らにとって、気になることでもなかったのである。

 先生の説明を聞いていたキルリアは、ふと、右にある窓へ目をやった。窓の外にはいつもの空が広がっている。

 なにげなく流れる雲を目で追ったキルリアは一瞬、黒い何かが走ったように見えた気がした。不思議に思うと同時に、懐かしくも忌ま忌ましいあの気配がした。

「……!」

 ガタン、と音を立てて立ち上がったキルリアは教室内を振り返った。

 しかし、そこには誰もいない。

 今まで在った教室はそこにいた人々と共に消え、ただがらんとした空間が広がっていた。キルリアは、一瞬、目を見張ったが、それもすぐに消した。そして、暗い闇の力が満ちるその空間を見回す。その闇の力は、嫌な過去を思い出さずにはいられなかった。

「あなたですか……」

 空間の中央にその影を見つけたキルリアはそう静かに呟いた。そこには、何ごともなかったように、闇のような黒衣を纏った男が立っていた。男の表情は黒衣のフードに隠されて見えなかったが、気配で微かに笑ったことがわかった。

「御迎えに上がりました、姫さま」

 男は嘲笑を浮かべて、そう言った。

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