Chapter one "The shadowy princess"
1
その日、ウィルダムは遅めの朝食を食べていた。普通の生徒は、すでに授業が始まっているので食堂には彼一人だ。
「一緒にいい?」
一人で食べてたウィルダムの後ろから突然声がした。振り返るとそこには気配もさせずにキルリアが佇んでいた。しかし、ウィルダムは驚くことはない。ライトリアが7人もいるあのクラスの彼らにとって、そんなことは日常茶飯事であり、慣れたことだったからだ。
「どうしたんだ? こんな時間に」
ウィルダムは少し意外そうに聞いた。彼女はいつも朝が早い。こんな時間にここにくる用はないはずだ。
「あなたに用があってね」
それを聞いたウィルダムは、あからさまに嫌そうな顔をして、食事の手を止めた。その様子に気付いたキルリアは面白そうに笑った。
「もしかして、この前言ったこと、気にしてる?」
「用って……、ちがうのか?」
ウィルダムが思わず問い返すと、その反応が面白かったのかキルリアは声を上げて笑った。しかし、つぼに入ったらしく、その笑いはなかなかおさまらない。
そんなキルリアを、ウィルダムは睨んだ。
「笑うことないだろ!」
「ごめん、ごめん」
キルリアまだ面白そうにしながらも、そう言ってウィルダムの横に座った。
「で、何の用なんだ?」
不機嫌丸出しでウィルダムは聞く。すると、キルリアはローブのポケットから一通の封筒を取り出した。真っ白な上質紙で作られた封筒には見覚えのある金印が押してある。それは、国王のみが使う事を許されている王印だった。
「仕事の話」
キルリアはそう言ってその手紙をウィルダムの前においた。
「またかよ。この頃多くないか?」
手紙を受け取ったウィルダムがぼやく。
「まぁ、確かにね」
キルリアはそう答えると、ウィルダムに封を開けるよう促した。その封筒には、キルリアが仕事と言った通り、ライトリアの任務証が入っていた。
ライトリアは基本的に二十才過ぎにならないと取得することは出来ない資格なのだが、この学院にいる彼らは特別で臨時的にライトリアとして働くことが許されている。それにはきちんと報酬も出るし、基本的には正規のライトリアと同じ扱いとなる。しかし、それは、あくまで臨時的なものであり、正規のライトリアに人手不足が生じた場合のみなのだ。
もともと、ライトリアはこの国の各地にある古代遺跡を保護し、地方の治安を維持するために、各地へ派遣される。基本的にはそうした保護・管理と治安維持が仕事なのだが、戦争時や他国からの要請があった場合は、その任務に適する能力を持つ人を各地の任地から特別に派遣する。そうなると必然的にその地方の人員が減ることになる。それが少数なら何とかなるが、緊急時など、多数減る場合は、人の出せる他の任地から人を派遣して埋め合わせる。それでも、間に合わなくなると、学院にいるライトリア候補生である彼らに回ってくるのだ。大概が、王都周辺の守護だが、たまに、地方に派遣されることもある。それは、本当に人員が足りない時で王都周辺は、結構多くのライトリアがいるため、彼らに回ってくることはめったにないはずなのだ。
しかし、最近は結構頻繁に呼び出されている。ウィルダムでなくとも、何かがあると考えておかしくはなかった。
「で、何時にどこ?」
ウィルダムは任務証に簡単に目を通しながら聞いた。任務証には、他説明あり、となっていたからだ。
「今日、午後四時に教室。どうやら、七人共らしいから遅れないできてね」
「七人とも?」
ウィルダムが目を見張って聞き返す。ライトリアの任務は通常2、3人で行うのが原則となっている。だから、同時に七人というのはどう考えても普通じゃない。ウィルダムが言いたい事がわかったのか、ウィルダムがそれを聞く前に、キルリアは言った。
「変だと思うけど、説明を聞けば分かるでしょ」
そして、食堂にある時計に目をやった、キルリアは何かを思い出したように席を立った。
「じゃ、私は行くね」
「教室か?」
「いや、今日は訓練室よ」
その答えはウィルダムにとって意外だった。それが顔に出たのか、キルリアは付け足して言った。
「サーシャと約束しちゃったの」
「ああ」
それには、ウィルダムも納得した。サーシャというのは二人の三つ上の先輩で、いつも、実戦訓練でキルリアに負けているので、何かと言ってはキルリアを訓練に誘っていた。
「そっか。んじゃ、また四時にな」
そう言うとウィルダムは食べかけだった朝食を再開した。
すると、立ち上がったキルリアが立ち止まり、何かを言う気配がしたのでもう一度手を止め、キルリアを見た。しかし、一向に何も言ってこない。
「なんだ?」
そう聞くと、キルリアははっと気付いたように、一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐにそれを消し、首を振った。
「何でもない。また、あとでね」
そう言うと、キルリアは入口の方へ歩き出した。そのときのキルリアに、ウィルダムは妙な既視感を感じたが、特に深く考えなかった。
それは、ある意味でこれからの事を予知していたのかもしれない。とにかく、ウィルダムはそれに気付く事はなかった。
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