第3話「いっそこの世界で動物園経営するか」

「にしても召喚術(サモン)か。俺にも使えるとはな…」


精霊の森からの帰り道、もう日も暮れかかり山影が闇にそまりつつある。

茜色の空に召喚石をかざしながら、少しさっきの感覚を思い出してみる。


精霊の森で、リティナに召喚石(ボックス)を借りて試してみた。


するとどうだろう。魔法を試した時はほとんど反応しなかった体を巡る力の流れ。魔力が体を満たしていく感覚を掴むことができた。


そして俺は召喚石(ボックス)から見事2個目のサンドイッチを取り出すことに成功したのである。リティナからはもちろん怒られた。明日のおやつだったらしい。


よくよく考えるとこの召喚石(ボックス)がいわゆる、転生物小説で言うところのアイテムボックスにあたるのではないだろうか。案外チートも何もない主人公補正とかそういうものを多大に無視したと思っていたこの世界も、それなりに都合よくできているものだ。


「でもリッカ、召喚術(サモン)は使い勝手が悪いんだー」


疲れて眠ってしまったリティナをおんぶしながら、ラークがひょいっ、と俺の顔を覗き込んでくる。使い勝手?まあ確かに、この石を持ち歩かなくてはいけない時点で魔法に比べると…いや、そりゃお前のライトニングと比べるとかなり見劣りするがそれなりに使えそうなものじゃないか。


ラークは俺が持っている召喚石に目をやりながら、そう言われている理由を話してくれた。


「当たり前なんだけど、召喚石(ボックス)はね、物を入れられる量が決まってるんだ」


まあそりゃそうだろ。無限になんでも入れられたら、それこそチートだ。水、食料、武器、生活用品、なんだったら簡易的な家(この世界でテントみたいな物があるかわからないが)まで入れられることが出来るというなら、世界を救うとかそんなものは無理にしろ、前世の知識をいかしてそれなりに儲ける事ができると思う。


ただまあそんな0を1にみたいな、物理法則を完璧に無視したものがこの世界にないことはなんとなくわかってる。この世界の魔法も他から見たら凄いってだけで、実際はみんな使えるから特別なものではない。研究はされてはいるらしいけどな。エジソンが色んな機械を発明したのと同じように、この世界では日々色々な魔法が開発されている。その程度の認識の差でしかないのだ。


そして、機械も魔法も、物理法則の常識を覆すのは難しい。あくまでその世界の常識に則った範囲で活用することができる。前世で言うとインターネットなんてそれこそ魔法みたいなものじゃないか。世界の人とタイムラグなしに繋がることができるんだ。


で、問題は召喚石(ボックス)にどの程度の制約がかかっているかということだ。


「それくらいの召喚石(ボックス)に入れられるのは、それこそサンドイッチ2つ分くらいかなー」

「…え!そこまで少ないのか…」

「うんーそれにとっても高いんだ。リティナはお父さんが市長だからねー趣味の範囲で持ってたのかもね」


…ふむ。そんな都合よくはいかないとは思っていたけどそこまでか。…まあ当然といえば当然の結果だ。この世界にきてから召喚術(サモン)も召喚石(ボックス)も街中で聞いたことすらない。それくらい普及していない、又は効率の悪いものなんだろう。


でも待てよ…サンドイッチ2つ分とは言え、それを大量に集めれば何かしらに応用できるんじゃないか…?


「高いってどれくらいなんだ?」

「それで金貨5枚ー」

「…は?」


日本円で例えれば


鉄貨1枚…100円

銅貨1枚…1,000円

銀貨1枚…10,000円

金貨1枚…100,000円


この石ころが50万するのか…河川敷のどっかに大量に落ちてそうな感じがするんだが…


「よくこんなもん10歳の子供に持たせるな…」

「ほとんど使い道がないからねー」


ふと、まだやっと読み書きを覚えたくらいの時に読んだ本の内容を思い出した。確か、自分の脳の使っていない空き領域を使って、物を出し入れするっていう考えただけでもおぞましい魔法があった筈だ。この世界の倫理感とかそういうものは無視するとして、そういう魔法と比べると確かに圧倒的に効率が悪い。


「…ラーク、じゃあなんで召喚術(サモン)なんて俺に勧めたんだ?」

「だって、僕らが魔法使ってるときいつも羨ましそうにみてたんだもーん」


…ばれてたか。確かにそれはそうかもしれないんだけど…


「それに召喚石(ボックス)だけが召喚術(サモン)じゃないんだよ。」

「ほほう、詳しく教えてくれるか?」

「うん、契約さえちゃんとすれば、契約紋(プロミス)を使って魔獣だって召喚できるんだ。…まあ普通は家畜と契約しても仕方ないから奴隷紋(スレイヴ)を使うんだけどね」


なんと。マジきた。これきた!俺の時代が始まりそう!!!この召喚石(ボックス)を使って、召喚王に、俺はなる!!!奴隷とかはちょっと嫌だけど。


「マジでか!凄いじゃん!!」

「…でもこれはお金とかじゃなくて、魔力効率が悪いんだー」


こいつ10歳の癖にさっきから難しいこと沢山言ってくれるぜ。イケメンは生まれながらにして違うな。まあいい。イケメンでなくとも俺は大人だからそれくらいの話なんてことはないぜ。イケメンに噛み砕いてわかりやすく説明してもらえさえすれば。


「魔力効率っていうのは…?」

「そうだねー【マッチの火をつける魔法】に魔力を1使うとしたらー【マッチの火をつけることのできる魔獣を呼ぶ】には魔力を100くらいつかうー」

「…は?」

「うちにね、契約紋(プロミス)をつけた走竜がいるんだけど…召喚したらちょっとふら付く位魔力もって行かれるんだー」


俺はどんだけ足掻いても魔法だとマッチの火を出すこと位しか出来ないんだが、その100倍の魔力を使うのか。無理ゲーやん。童貞で30歳を迎えると魔法を覚えるけどMPが足りない的なね。前世と合計するとあと3年で魔法使いになれる筈なんだけどな。そんな淡い(汚い)夢や幻想は少し置いておこう。


「魔獣は契約しておかないとお願いを聞いてくれないからさー。形式的に契約はするんだけど、実際に召喚(サモン)!みたいに呼び寄せるのはめったにないかなー」


「なるほど…そんなもんなんかー」


夢や幻想はこの世界でもいとも簡単に、再度儚く砕け散るらしい。ああ神様、なんで俺をこの世界に呼んだんだい…俺はもう希望を見失ってきたよ…女の子とイチャコラしてチート使ってギルドでチンピラぶっ飛ばしてその調子で世界救うのが俺の役目じゃないんですか…?


でもそんなことを考えつつ俺は、召喚術に一筋の光明を見出していた。


「ま…本読んでて良かったな」

「?どうしたのーリッカ?」


まだ過程だが、この世界の神様とやらはとんでもない力を授けてくれたのかもしれない。一つは言わずもがな、前世の記憶と知能を持ちながらこの世界に生まれたということ。もう一つは精霊と会話ができるということ。



これは夢が広がってきたね。上手くやれば、大量に魔獣達とも契約できるんじゃないか…?

もうこれはいっそ、この世界で動物園でも経営するか。

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