第1話「入る腹を間違えた」
「リッカー!何してるんだよ、早くこっちこいよー!!!」
「リッカリーン!早く早くー!!」
「待てって、早すぎるんだよお前ら!ボルトか貴様ら!!」
「リッカがまたよくわかんないこと言ってるー!!」
「言ってるー」
俺の可愛い幼馴染達が日の射した森の中を颯爽と駆けていく。
いや、念のため言い直しておこう。幼馴染の男女2人が俺を50メートル程置き去りにし、圧倒的な速さと柔軟さで森を駆け抜けていく。大量に存在する自然の障害物も物ともしていない。
「ラーク!リティナ!!速すぎる!!!」
「リッカが遅いんだろー!」
「リッカリンおっそーい!!」
まだ俺達は10才だというに虐めかこれは。運動能力で個人個人の優越を決めてくれるな。
前世と合わせて通算27才の俺でも苛めはつらいんだぞ、泣くかもしれないんだぞ。
あとリッカリンやめろ。今の俺の名前はリッカだ。
転生したから何かチート的なスキルに目覚めるかと思いきや、ここ10年色々試してみたけれど1つを除いては特に有用なものはなかった。というか、幼馴染の10才児2人にすら出遅れるこの始末。
幼馴染1号。赤毛の短髪、街の中の男の子の中でも既にリーダー的な存在感を発している大人しめラーク。
幼馴染2号。青毛の長髪、そのラークに惚れていることが体の節々から滲み出ている、快活で明るすぎるリティナ。
俺?まあ日本人的には安心な黒髪のまま生まれ変わりましたよ。前世の時の感覚が抜けないのか、首が隠れるくらいには伸ばしてボサボサ気味だけど。理由は特にないけど半引きこもりだったんでね。長さはラーク以上リティナ未満だな。
にしても、こいつらほんとにチート。感覚的に100mを12秒台でずっと走ってる感じ。あれそれ割と普通くらいじゃない?とか思うかもしれないけど俺達はまだ10歳だ。10歳の体格でそのスピードを維持されてみろ、そんなもん一般的健康優良児たる10歳の俺に追いつける筈もなく。
でも、じゃあなんで距離が開き続けないのか。先ほどから差は歴然だ。街からすぐとは言っても少し離れていることは確かなこの森で、逆になんで50メートルの距離を維持できているか。距離が開く度に2人に待ってもらってるんだよ。悲惨だよ。悲しいよ。こういう時って俺が街の子供達より圧倒的に抜きん出てて周囲からチヤホヤされるもんじゃないの?
リティナはラークにぞっこんラブだから幼馴染ヒロイン展開もありえないしどうなってるんだ女神様!…というかこの世界に女神様いるのか!?どうなんだよ神様!!
「リッカー、日が暮れるぞー」
「リッカリーン日が暮れちゃうよー」
「…はあ…待っててくれるのは助かるけど…うえっ…別にそんなに急がなくても、妖精は逃げないだろ…」
息を吐き、肩で呼吸を整えながら、森の奥で待っていた2人のもとになんとか辿り着く。おそらく今日はご飯が旨い。
この森はさっき少し触れたように、俺達が暮らしている街からそんなに離れていない。だからこうして幼馴染3人組でよく遊びにくる。そしてこの森にはなんと、妖精が住んでいる。
生まれ変わってからこの妖精と、街にいる走竜(馬みたいな手綱引かれてる小さ目の竜。ダチョウに近いかも)を見ていなければ、俺はまだこの世界がヨーロッパのどこかで中世のいつぞやの時代かといまだに認識していたかもしれない。
「着いたー!」
「着いたねー!!」
「うわあ…あー…やっと着いた…あー…疲れたあー…」
「リッカリンおっさんぽーい!」
「…魂からそういうオーラって滲み出るんだろうな…」
木々の間を少し進むと、草花が溢れる空間にでる。何故かここには先ほどまでのようなthe森!みたいな大きな木は生えていない。
でも上を見上げれば、その広場のような空間の周りの木々の頭が、俺達から空を覆い隠ししまっている。そしてその枝葉の間からこもれ出た光が、このドーム上の自然庭園を神秘的に照らしている。生前(と言っても今は生きているが)都会に住んでた俺にはあまり縁がない風景だ。田舎暮らしっていうのはこういうの体験が多いのかね?俺には経験がなかったからわからない。
だから何度見ても息を呑んでしまう。もしこの世界に女神や神様がいるとしたら、こんな場所にいるんだろうか。…居てくれれば土下座でもなんでもしてステータスの変更をお願いするところだ。
「妖精さーん!!!」
そんなくだらない考えをいとも簡単に吹き飛ばす大声をあげる幼女。子供は純粋でいいなーそうじゃなくっちゃー俺も二度目の生だ、どうせなら楽しまなくっちゃな。
「そんな大声出すと逃げちゃうかもしれないぞ?」
「出てくるもん!うっさいリッカリン!!」
「リッカーあんまりリティナ怒らせるなよーもっと精霊逃げちゃうだろー」
「ラークまで酷い!」
そんなどうでも良いやり取りをしていると、俺達の周りに蛍の様な黄色い光が集まってきた。まだ昼間なのに煌々と輝くそれはどんどん大きくなっていって、大人の手のひらサイズの女の子に生まれ変わる。真っ裸で。まあ人間じゃないから裸でもいいんだろうけど、ちょっとこうね、思春期を過ぎた俺からすると逆にちょっと刺激が強いかも。エルフ耳プラストンボの羽を備えた小人達は一体何がそこまで楽しいのかわからないが、俺達の周りをまるでメリーゴーランドに乗っているかのように心のそこからの笑顔で出迎えてくれた。
1匹は意地悪そうに、1匹は楽しげに、1匹は悲しげに。全部で20匹くらいはいるのかな。
そのうち1匹が透明な羽をパタパタさせながら俺の目の前でわざとらしく妖艶気な顔をする。
『マータ イヤラシイ メデ ミテルー!』
「うっさい。パンにはさんで食うぞ」
『パン ダイスキー!』
そのまま俺の顔にひっついてきた。
くそう、嫌じゃない、嫌じゃないんだが小さすぎる!色々!!でも鼻が嬉しい!!!
「リッカリンまた1人でイチャイチャしてるー」
「リッカはいいよなー妖精と話せてー」
ラークとリティナが恨めしそうに覗き込んでくる。ははーんいいだろう。これに関してはいつも少し優越感を感じている。そしてどうやら、これが俺の生まれ持った、他の人にはない特殊能力らしい。リティナとラーク曰く、2人にはなんかキュルキュル聞こえるんだそうだ。
他の人、大人達でも妖精と話せる人は見たことがない。かといってこの能力が使えるから何が出来るということでもないんだけど。基本的には他愛もない、これスキ?キライ!みたいな合コンに行ったら即会話がなくなってお開きになりそうな会話しかしないし。目の保養のおまけでちょっと心の保養をするくらいの感覚だ。
これさあ、チートっていうには中々厳しくないかい。前世でもほら、そういうの出来る人いたじゃん。動物と話せるとか幽霊と話せるとか大自然の大いなるスピリチュアル的なものを宇宙から受信して明日の血液型別の運勢と現代的なラッキーアイテムを占えるとか。…まあ本当にそういう力があるかどうかを確かめる手段はないんだけどさ。
でももしこの世界で奇跡的に前世のテレビを発見してそんな感じのうそ臭い番組を見ることができたら、もう少しちゃんと見てやろう。と、思う。そんな微妙な心境の変化を引き起こしてくれたのはこの能力のおかげだ。
…俺は入る腹を間違えたのだろうか
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