月と兎と宇宙戦争

@usothuki

全ては兎の一言から始まるようです(0)

 月に兎が住んでいる。日本人なら子供のころに一度は聞いたことがあるだろう。

そして周りの大人に対して

「ぜんぜん兎に見えないよ」そう言ったことがあるはずだ。

 

 この時代、人類はいまだ月に到達していない。月面着陸を目指すプロジェクトはNASAがすでに行っているがいずれも失敗している。宇宙航空業界ではまことしやかに噂されているそうだ。月に何かいると。


 所謂、魔術とゆうものが普及してからずいぶん経つ。魔術とゆうのはとてつもない力だが時代がそう大きく変わっていないとテレビのコメンテーターは言っている。その理由は魔術が再び日の目を見たころ既に科学が成熟の域に達していたからだそうだ。確かにそうだ、念話一つとっても簡単にはいかない。先ず対象を補足するにはかなりの集中力を要する。相手が目の前にいれば比較的簡単だが遠くにいる場合は携帯を使った方が簡単で確実だ。当然、使い手の技量にもよるところが大きいので念話の魔術はひそひそ話くらいにしか使えない。それだってジャミングの魔術もあるしその念話を盗聴する魔術も存在し、それが術者の技量に依存するのだから科学のほうが安定しているのは間違いない。


 そんな、魔術の存在が再び表れた世界でも魔術とゆうものはやはり傍流で、しかも高等教育である。現に今魔術を修めるのはエリートと呼ばれる高等教育を受けるものやそのエリート層の子供たちである。


 だからそう、僕もかつてはエリートだった。魔術教育の受けられる私立の中学へ通い魔術特待生として日本でも有数の難関校へと進学した。だけど、僕にあったのは魔術の才能だけだった。この時代、魔術は傍流だ。世界を律するのは法で動かすのは経済、人々の役に立つものは科学だ。魔術だけが取り柄の僕がエリートだったのはここまでだった。


 「今日も無視かピョーン?お兄さんに魔術の心得があるのは分かってるんだからいいかげん返事してピョン!」 

 ここのところバイト先のカフェにくる常連客でやたらと僕に魔術的コンタクトをとってくる客がいる。僕は魔法のことは隠してこのバイトをしている。店長は僕の学歴のことは知っているがいいとこの家の落ちこぼれくらいの認識で魔術特待生として進学したことなどは知らない。客もかつてのエリートがまさかこんなとこでフリーターをしているとは思わないだろう。

 だが、この語尾にピョンとかつけちゃう明らかに怪しい女は違った。見た目は高校生くらい。小柄で活発そうなショートカットの似合う可愛らしい子だ。いつも野菜ジュースを頼んでいる。


 最初にこの客が店に来た時からヤバイと思っていた。いきなり魔術結界を張ったのだ。僕は無意識に防御魔術を発動していた。どうやらそれが目的だったらしい。この語尾ピョン女は魔術的知識のあるものを見つけどうやら何か話がしたいらしい。

 バレているのは分かったうえで僕は徹底的に無視した。可愛い女子高生くらいの子に僕みたいなそこそこお兄さんなフリーターが話しかけられるのは嬉しい。だがそれは間違っても魔術による念話でなどではない。

 

 その日、僕はうっかり返事をしてしまった。前日に来なかった同窓会の招待状が原因かもしれない。あるいはもっと前からこの落ちこぼれた現状を変えたかったのかもしれない。同窓会があることを唯一の高校からの友人の行くかどうかの確認のメールで知るなんて、落ちこぼれには招待状さえ届かないものなのかとかなりがっくりきた。

だからその語尾ピョン女の言った

「姫様の許嫁になってくださいピョン」はなんだかすごい破壊力を持っていた。

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