やったれ少女毛沢東!

原子アトム

第1話:「翔宇、これは一体どういうことだ?」

 「翔宇、これは一体どういうことだ?」

「えっと……先輩、そう言われましても、僕も何が何やら……」


周恩来は仕事上最大の危機に直面していた。

高級軍官の一員、また今回の閲兵式の責任者として彼もよく理解していることだが、どれだけ簡単な仕事だろうが、仕事としての重要性には変わりはないものだ。ましてや今は彼よりもずっと職位の高い人々が参観しているのだ。彼はできるだけ速やかに、この問題を解決しなければならない立場にあった。

彼は上司の許可を得て、礼台からグラウンドへと飛び出し、異変の中心部へと近づいていった。

 正常な部隊検閲の場では、一隊一隊の軍人たちが整然と礼台の前に並び、上官からの訓示を受けるものだ。あとはグラウンドを退場するだけという、とても簡単な、儀式化されたものに過ぎない。

幾らか訓練を受けた軍人であれば、粗相をすることなどまず有り得ない場だ。

 但し、現在の状況は、一般的な閲兵式では根本的に起こり得ないようなものだった。

彼の目の前では二股の女性のような肉蟲が……いや、二人の女性が絡み合って騒いでいるのである。

 「hshs、これがお姉さまの体温……幼女のようなもちもちの肌しゅごい。啊啊! 素晴らし過ぎる! ずっと前からお姉さまに憧れていたけれど、今まさにそのお姉さまを見ているんだ! イっちゃいそうです! お姉さま私の愛を受け止めてください!」

 「お前一体なにして……わっ! く……くすぐったい……おま、お前今すぐその手をどけろ!」

 いや、正確に言えば、これは一人の女性軍官が異常な情熱でもって、もう一人の必死に抵抗している相手を両手で抱きしめているのだった。同時に四方八方に向けてその女の子の助けを求める叫びが響き渡っているのである。

 「いやです! お母さん大好き!」

「誰がお母さんだ! 私はまだ黄花……おい! そ、そこはだめ……おま、この変態、とっとと手を放せ!」

もしこの軍官が男なら、秩序騒乱の罪名で引っ立てることもできただろう。

……もっとも、現時点でこれもまた秩序を乱してしまっていることに変わりないわけだが。

 「おいやめろ! お前自分が何をしているか分かっているのか?」

その女性軍官は周恩来に振り返ると、冷たい目を向けた。

「クソ童貞はどっか行け! 誰であろうと私とお姉さまの熱愛を阻止することはできないぞ。天王老子であろうと容赦しないからな!」

「く、クソ童貞だって?」

 上官という立場でありながら、部下からクソ童貞呼ばわりされたことで、さすがの周恩来も頭にきてしまった。

「貴様……」

しかし、彼が手をあげようとしたその瞬間……

「今だ!」

女の子が力一杯女性軍官に噛み付き、とうとう彼女は無礼な女性軍官の手から逃れたのだった。

 「チャンスだ! かかれ! この女を引っ立てろ!」

 女性兵士は周恩来の号令を受けると、最初は互いに顔を見合わせていたものの、すぐに縄を使ってその女性軍官を縛り上げ、迅速にその場から連れ出してしまった。

「まったく……先輩の前だってのに、こいつは一体何を考えているんだ……」

 出征前の閲兵式だというのに、すでにこんな騒ぎを起こしてしまった。後々の日々のことを思うと、周恩来は溜息を漏らさずにはおられなかった。

「はあ……これは前途多難だぞ」

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