22

午前0時をまわり

テーブルの上にはロックグラス2つと漬物が並んでいる


早紀は緊張を隠しながら時が経つのを待っていた


渡瀬は麦焼酎のロックを飲みながらタバコに火をつけ横向きにふぅーっと白い煙を吐いた


「最初、

 林田と付き合ってるのかと

 思ってたよ」


「え?

 私がですか?!」


林田をそのような対象で見たことがない早紀には、思いもよらない言葉だった


「…仲はいいですけどそうゆうの

 とは違うっていうか…

 そもそも私は林田さんの好きな

 タイプには

 当てはまらないですから」


「そーなの?」


「はぃ、林田さんの好きなタイプは

 “年上で優しく、甘えさせ上手で

 キレーなお姉さん”のはずです」


渡瀬は思わず飲んでいた焼酎を吹き出した


「キレーなおねーさんて…

 あいつそんなこと言ってんの?」


「飲むとよく言ってますょ」


「あいつ年上が好きなんだー

 知らなかったー」


渡瀬は林田の意外な好みを知り楽しそうにしている

早紀も一緒になって笑いながらチラリと壁にかけられた時計に目をやった

時計の針は0:15を指していた


豊森へ向かう最終電車が出るまであと5分

間違いなく間に合わない

早紀は少しホッとしていた

これでもうしばらく一緒に居られる

自分のズルさに心で苦笑った


それからしばらくは共通の話題として林田の話を肴に飲み続けた


午前1時をまわった頃

最初から数えて6杯目となるグラスを空けた渡瀬が腕時計に目をやった


「やべっ!もう1時じゃん。

 終電大丈夫?

 悪い、気づかなくて」


申し訳なさそうに謝る渡瀬を見て

少し心が痛んだが


「私は大丈夫ですょ

 タクシーで帰れますし…

 課長ももぅ終電終わっちゃって

 ますよね?

 私も気がつかずにすいません…」


早紀は顔色変えずに嘘がでてくることに

自分で自分に驚いた



「俺は大丈夫だよ。満喫もあるしね

 …それじゃあ、明日もあるし

 2時まで付き合ってくれる?」


渡瀬は腕時計を見てからそういうと

早紀の空になったグラスを指差した


「はい…」


早紀は笑顔で答えた


2時までだろうと一緒にいられる時間が繋がったことが嬉しい

早紀は素直にそう思った


渡瀬は店員を呼ぶと、

同じものを と一言いうと

すぐに新しいロックグラスが目の前に並んだ


「赤宮駅って言ってたけど、

 一人暮らし?」


「はぃ。

 でも実家が目の前のアパートな

 ので、ほとんど寝るだけですが」


「実家の目の前?」


「兄が結婚して同居を始めて部屋が

 足りなくなったので、

 この機会に一人暮らしするって

 言ったら実家の目の前のアパートに

 偶然空きが出て

 そこに住むことになっちゃいました」


「そうなんだ。

 きっと親御さんは近くにいて

 欲しかったんだね」


「私としてはせっかくならちゃんと

 1人でやってみたかったですけどね」


渡瀬はまたタバコに火をつけ、白い煙を上げた


「俺は高校卒業してこっちに出てき

 てからずっと一人でやってきたけど

 やっぱり近くに親がいるのはいいな

 と思うよ」


渡瀬は高校を卒業してすぐに入社して以来10年近く1人でやってきて今や課長職についている

若くしてそれなりに高い地位についているということは、

人よりたくさん苦労や努力をしてきたということ

なのだろう

早紀は渡瀬のあげる白い煙を見つめていた

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