キラーガールズコレクション

龍導

chapter1: 東京阿婆擦動物園

【1-1】

辺りに響き渡る阿鼻叫喚で目が覚めた。どうやら寝てしまっていたようだ。

どうにも今日は冷えるなあと、まだ覚醒には至っていない脳味噌で薄らと思ったのだけど、よく考えたら私は衣類を身にまとっていなかった。

全裸だった。

自分はこれでも世間一般で言う年頃の女の子なので、こうした思春期の感情を踏み躙るような取り扱いは、できればやめて欲しいのだが、私たちを管理する男共にそんな道徳とか倫理とか言った能書きが通用するとは思えなかった。

結局、今日も私は痣だらけの身体を抱き寄せ再度寝たフリをかますのだった。

それにしても床が冷たい。

コンクリートに直で全裸で眠る女子高生など、一昔前では考えられまい。これではまるで動物だ。

……別に動物と大差無いか。それどころか動物の方が恐らく私たちよりも恵まれている。

私を閉じ込める鉄格子の隙間からは、まだ体から流れ出て新しいであろう血液が容赦なく蔓延していた。先ほどの悲鳴の主のものだろうか。

まあ別に、今となっては流血沙汰など対して珍しいことでもなかったので(むしろ無い日の方が稀なくらいだ)、私は別段気に留めることもなかった。


「管理番号3448!奉仕の時間だ、さっさと牢屋を出ろ!」


「……」

牢屋の外から、野太い男の怒鳴り声が私の鼓膜を揺らした。そんなに声を張り上げなくとも聞こえている。

この監獄に収監されている女性には、日に1度、『奉仕』と呼ばれる仕事が回ってくる。

なんのことはない。ただバカみたいな男に好き勝手レイプされるだけだ。

3448。

その管理番号は私のものだ。

私にもちゃんと、新田にったいるみという名があるのだけど。

物覚えの悪い私が、このように自分の管理番号をちゃんと把握できている理由は至極単純であった。

忘れたくても忘れられない。

その番号は、今でも私の腕に刻まれているのだから。この場所に入ってすぐ、私の腕には3448と書かれた焼印が押し付けられた。

一生消えない火傷となって、私の腕に残ったのだ。


「おい3448!聞こえているのか!早く起きろ!」


「……はいはい、分かりましたって」

私は軽く髪を整え、渋々と立ち上がった。これでも髪の毛の手入れは欠かさないようにしている。

風呂にもまともに入れない私たちなので、手入れといってもたかが知れているのだが、それでも私は、言わば女性の象徴でもある長髪を粗末に扱いたくなかった。


「おいお前、なんか体臭くねえか?きったねえ体で俺を触るんじゃねえよ」


野太い声の男はそう言うと、手に持ったホースで私に冷水を浴びせた。

「ひゃっ……!つ、冷たっ!」

「……なんだその目は3448。お前まさか、女の分際で俺に楯突くのか?」

「……」

男は新田の裸を舐め回すように眺める。

口では大層なことをのたまおうと、結局は自分の裸に目を奪われているではないか。所詮この男も、自分の欲求を蔑ろにはできないのだなあと新田は思った。

「いえ、滅相もございません。すいませんでした」

「分かればいいんだ分かれば。とっととこの廊下を渡って、今日のお客さんに御奉仕して差し上げろ。今日のお客は上物だぞ。何せ金森財閥のお坊ちゃんだ。お前の仕事次第で、たんまりと金を落としてくださる」

「……ええ」


私は気怠げにそう答えた。

すると男は満足したのか、そのまま別の女のところへ行ってしまった。


日本がおかしくなったのは、もう6年ほど前のことだ。

新総理大臣に新法律。憲法にも大きな修正、加筆が施され、女性の尊厳は無くなった。

元々あった男女差別に驚異的な拍車が掛かり、今では女性に対する扱いは家畜と同等かそれ以下だ。

男性よりも劣った存在であると見なされた全女性は、男性からの迫害を受けた。

良い家系の令嬢や、単純にルックスの優れた女性は一目置かれ、子孫の繁栄や男の召使いなどにその身を費やすのだけど、それ以外の女性の役割と言ったら悲惨の一言に尽きる。

良くて私たちのように性奴隷。悪ければ精肉所へ運ばれ家畜の食料だ。


当時よくテレビで見かけていた女性芸能人も、今では見る影もなく廃人同然だ。


……そして今、私の過ごすこの場所は、通称『動物園』。

5千人以上の女性が収監され、日夜、文字通り動物のような扱いを受けている。主な仕事はここを訪れる男性の奉仕である。

ただただ犯され辱められ、そして1円の金も得ることなく、私たちの生涯は幕を閉じるのだ。

そんな環境で気が触れないわけはなく、事実ここに収監されている女性の大方は廃人だ。

出来が悪ければ殺される。

それ故に頭を狂わせながらも、女性たちは本能で日夜バカのように股を広げバカのように身を捧げバカのように喘ぎ散らすのだ。


でもなぜだろう。私の気は一向に触れないのだ。


私はこの世に絶望しながらも、こうして悪態をつきながら日々を必死で生きている。

必死で、生に執着している。

こんな狂った世界で、一体何に希望を見い出せるというのか見当もつかないけれど、それでも、それでも私はこうして今を生きているのだ。


とっとと狂ってしまった方が、私は精神的に救われるのかもしれないのに……だ。


「……」


そんなことを考えながら、私は奉仕室と書かれた部屋の前まで辿り着いた。


「……そういえば、初めてこの部屋に入ったときは辛かったな……貞操は、本当に好きな人の為に取っておきたかったのに」


物悲しげな顔でそう呟き、私はこれで何度目になるか、奉仕室のドアを開けたのだった。



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