人体実験4日目。被験者はポエムを作り始めたようだ

奔流が押し寄せる。文字列の大河が。


違う。石や流木や川魚の混ざった、冷たい濁流などではない。これは風――書き手達が生み出す熱波。


私は身を焦がし、膝を付き、「もう読めません」と諦めが何度も脳裏をよぎる。

立ち止まるのも良いかもしれない。何もかもを投げ出し、情熱の風から逃れて屋内へと入り込んでしまうのも。きっと彼らは私を責めはしないだろう。


だけど。


それは『私が』許さなかった。誰よりも自分自身が、それは悪だと気付いている。


読者がいないことの孤独を知っている。感想もなく、世界に取り残されたかのような絶望を知っている。賞賛され大海に出たと思ったら、的確な批判に心臓を貫かれたこともある。


たくさんの人に読んでもらえる悦びを知っている。感想を貰えた時の、あの心躍る感覚を今もまだ覚えてる。ただ一言、「面白かったです」と評価されただけで、世界の全てに認められたかのような錯覚を、誰よりも知っている。

自分のやってきたことが、何もかも無駄じゃなかったと思えるような。


絶望を知らない聖人は上から目線で手を差し伸べるばかり。

私は等価交換の法則に忠誠を誓う者。

私は地を這う凡人。ただ腰を下ろし、彼らの孤独に寄り添うだけである。


賞賛が欲しければ賞賛せよ。ただし偽りであってはならない。正当な評価をする者には正当なる評価が訪れる。悪意を撒き散らす者には悪意しか降りかからない。


私の熱意が呼び寄せる。また熱波が来る。されど私は立ち向かう。何故なら私の身体はマグマで出来ている。沸騰し蓄積し凝縮された情熱は、何者にも負けはしない。


来るが良い物語想像者ワールドクリエイター達。夜寝る前に布団の中で夢想しておけば良いものを、具象化し賞賛を求める愚者達よ。同じ恥知らずとして、全霊をもって諸君らの世界に足を踏み入れよう。











ぼく「♪ドーントフォーゲットホールインザウォールwwwwwwアイムライクゴーストターンインオンザロードwwwwwデーーイアーーフターーデイwwwwwwwww」


研究員(cv平川大輔)「FreQuencyのDay After Dayを歌いながらポエムを書いてる……。25万文字作品を投与された人間はこうなるのか……」


研究主任「25万文字など、京極夏彦作品に比べればショートショートの部類だろう。及川シノンに自作品を更新させたら、10万文字作品3本を投与するぞ」


研究員「自分の作品を書かせた後に、それだけの作品を読ませるなんて……!」


研究主任「これは彼が自ら望んだことだ。我々は彼の活動のサポートをしているだけだ。……おい、被検体の拘束ベルトに緩みがないか、よくチェックしろよ」


女研究員「了解です。……はーいシノンさん。今日も読書のお時間ですよー」


ぼく「作品読みゅぅ!いっぱい読んでいっぱい感想書くにょぉ!」


女研究員「シノンさんも嬉しいですよねー。感想書けば自分の作品にも感想来ますからねー」


ぼく「うれちい!うれちい!書くのも読むのも嬉ちい!ぼくいっぱい書く読むぅぅぅ…………書く、……読む…………。……『カク、ヨム』……?……あれ……?俺は何を……!?」


女研究員「はいチクッとしますねー(^^)」


ぼく「ぐっ……!?があああああああああああああああああああああッッ!!!」


女研究員「これからもいっぱい感想書きましょうねー。まだまだ依頼はたくさん来てますよ!」


ぼく「書く、読む……かく……よ……ふ、ふへ、ふへへへへへ……。……かゆ、うま……」




(入手した極秘研究記録の音声は、ここで途切れている。)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る