ものがたり
anringo
俺
俺は小説家である。
俺はあまり売れない小説家である。
俺は10年前に少しだけヒットしてその後何のヒット作も生み出せなかった小説家である。
俺は週5で働いているアルバイト先の店長に上り詰めるほうが、
今より何倍も稼げてしまうこの現実にひどく失望している小説家である。
もう今は俺の肩書は小説家ではない。
小説家志望なのだ。
これはもうプロではない。現にもう、小説家としての仕事はない。
明日はアルバイト先の新人研修の補佐を任されて、今日はファミレスの一角でひたすら資料を作っている。
俺の職場での評価は年々上がっている。故にこの前店長にならないかと打診をされてしまった程だ。
俺は比較的自分の都合に融通が利くと担当マネージャーから言われている。
それもそうだ。ずっと暇なのだから。
時間を持て余しても許されそうな大学生とは違うのだ。
俺はずっと暇なのだ。
故に合コンなどで急にシフト変更を頼んでくる大学生が俺の顔色を見て何度も頼んでくる。
今日のシフトもそれなのだ。
俺が必死にドリンク補充をしている間、俺にシフトを任せた男子大学生は、必死に誰かのグラスの空きをチェックしているのだろう。
青春だな。いいじゃないか。若いんだから。
いいじゃないか。それで。若いんだから。
俺はこのアルバイト先で一人の女性客に注目している。
この女性を題材に小説を書きたいと思っている。
同じ時間。同じ席。同じメニュー。
服装はどちらかというとふんわりとしている清楚系だ。
この女性が実は何かしらのスパイだという物語を書きたいと思っている。
ちなみに、何かしらというのは、まだ何も決まっていない。故に、何かしら、なのである。
小説家として華々しく活躍していた時期もあるのに、この語彙力の無さに失望している人もいるだろう。
その一人は、俺自身でもある。
その女性の名前を仮に、マナということにしよう。カタカナの方がスパイっぽくないか。
ほら、また今、語彙力無いとか思った人いるだろ。もうほっといてくれ。
マナは今日もずっとスマホを見ている。この世代特有のスマホ依存症なのか。画面をこれでもかというくらい凝視している。
年齢は23歳くらいだろうか。ネイルはしていない。手を使う職業なのか。爪のアレルギーでもあるのか。
マナはいつも7cmくらいのヒール靴を履いている。これで蹴られたいと思う男性もいるだろうな…
いや、違う違う。そういう話ではない。本題だ本題。
想像力を高めろ、俺。
マナを使って今度こそちゃんとした物語を書いてみせるのだ、俺。
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