世話焼きをこじらせたら、幽霊や異能者まで寄って来ちゃいました!?
澪音
#01 『✕✕のための相談室/“平凡な日常”の裏側』
もうすぐ完全下校時刻の午後5時45分。
部室前にできていた生徒の列も、ようやく最後尾が見えている。
「リンリン、あと何人くらい?」
「えっとね……あと5人くらいかな……?」
だが、この生徒の列がなくなったときが彼女達の部活動における『本来の活動内容』なのである。
「そういえば、
「いや……なんか毎日こんな感じだからわざわざ来なくても良いって言われたんだよね……」
梶原先生というのは、この部活の顧問の先生である。
そして、“許可”というのは部活の“居残り許可”のことである(本来ならば顧問の先生が立ち会うのが原則だが、梶原先生は面倒臭がって部室に来ることはまずない)。
「じゃあ、残りの生徒もパパッと終わらせちゃおうか」
「そうだね!」
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完全下校時刻になった午後6時00分。
俺のもとに1通のメールが届いた。
そのメールの内容を見たとき、俺は自分の目を疑った。
……だってそうだろ?
突然届いたメールに、『幼馴染みを殺せ』的な内容が書いてあったら、誰だって驚くものだろ……?
まぁ、俺の場合は少し……いや、かなり“特殊な事情”が絡んでくるわけだけど……。
……にしてもこのメール、一体どう返せばいいんだ?
…………やっぱ“当事者”に聞くのが最善策か……。
「……で、どう返せばいいと思う?」
「何でそれを私に聞くの……。送り主に聞けばいいじゃん。てか、殺す“対象”である私に聞くって……嫌味なの?」
「いや……何でそうなるんだよ……。あと
心音というのは、先程のメールにあった俺の“幼馴染み”である。
だが、今は“処刑人”と“罪人”の関係にある。
……どこで何を間違えたらこんなことになるんだよ……。
「……別に怒ってないけど……強いて言うなら、この“体勢”が結構キツいってことかな……」
「……なんでよりによって、女の子座りなんだよ……」
しかも、左手は手錠に繋がれてるし……。
なんだこの変な状況…………何も起こらないし、起こさないけど。
さて、どうしたものかな……。
……まぁ、“いつも通り”でいいか。
と、俺はそこまで考えてから、ポケットの中からジャックナイフを取り出し、手錠の鎖へと狙いを定めてそのまま放った。
カシャンという音とともに手錠の鎖は切れた。
「……どういうつもり?」
心音が不審そうに尋ねてくる。
「別に深い意味はねぇよ。ただ、お前を生かすも殺すも俺が決めることだし」
一応、“心音達”の専属だし。
「……でも」
それでもまだ、心音は不審がっている。
「……なんか文句でも?」
「……今、
何そのビミョーな数値怖…………。
「……なんでそんなに細かい数字なんだよ……どういう計算したら、そんな数値が出るんだよ……」
「ちなみに、前の死亡確率は23.4%だったから、今回で78.0%になるね!」
心音が若干嬉しそうな声を上げる。
「前の俺の死亡確率は地球の傾き具合だったのかよ……あと、ぴったりになっても全っ然嬉しくもなんともないからな!?」
俺がそう言うと心音は少しムッとした。
そして深々とため息を吐いた。
「……はぁ……」
「心音のため息って結構分かりやすいよな……」
俺が呆れたようにそう言うと、
「“落ち込んでますよオーラ”が出てていいじゃん」
と、言い返してきた。
「どんなオーラだよ……って、そろそろ時間だな」
腕時計を見つつ俺は言う。
「……時間がないなら、1つだけ聞いてもいい?」
心音の表情が突然、真剣になった。
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完全下校時刻を過ぎている午後6時22分。
今日来た生徒の相談内容が書いてある手帖を見ながら私はふと思った。
「ねぇ、リンリン」
「ん、どうかしたの?」
「いや、別に大したことじゃないんだけど……」
「うん」
「確かに今日、期末テストの結果が返ってきたけどさ……」
「返ってきたね……ちなみに私の世界史の点数は46点だった!」
「悪っ!……って、そうじゃなくて、なんでみんな『点数の悪かったテストを親にバレないようにするにはどうすればいいですか』って聞いてくるの……自分が悪い点数を取らなきゃいい話でしょ……?」
根本的にいうと『自業自得』ってことじゃん。
「いやまぁ、そうなんだけど……っていうかのんさんあのとき、『紙飛行機にして飛ばすか、地中に埋めるか、焼却炉で燃やすか、最悪、ヤギにでも食べさせれば?』としか言ってないよね……しかもヤギって……でもまぁ、16人来たうちの10人はさすがに多いよね……」
確かにヤギは言ったけど……。
だって面倒臭かったんだもん、仕方ないじゃない……。
「まぁ過ぎたことをあれこれ言っても仕方ないか……じゃあ、生徒が終わったから次は……」
「『死徒』だね!」
「……あのさ、前々から思ってたんだけど、『死徒』ってなに?」
「えっとね、『生徒』には『生』って入ってるでしょ?だから、のんさんの『視えてる』人達はその逆の『死徒』っていう感じで……」
「確かに私は『霊が視える』けど……まぁ、いいか。とりあえず、その『死徒』を呼ぼうよ……」
……でも、いつからだろう……私が『霊が視える』ようになったのは……。
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かなり状況がヤバくなってきている午後6時38分。
……心音が俺に質問してくるの、久々な気がする。
…………ところどころのヤツは含まずに。
「…………別にいいけど……?」
「縲はまだ“あの日”のことを後悔してたりするの……?」
心音のその質問に、俺は動揺する。
「……心音……“覚えてる”のか……?」
「……全部を“思い出した”わけじゃないけど、まぁ……大体は“覚えてる”ってことになるのかな……」
………マジか……。
俺が1番思い出したくない記憶なんだけどな……
まさかここで『嫌な記憶』を掘り返されるとは……。
「……それで、後悔してるの?私を“助けられなかったこと”」
「……まぁな。そりゃ、後悔もするだろ?で、なんでそんなことを?」
「……あと少ししたら、私は記憶を“消されて書き換え”られる。だったら、“
と、心音は俺の『作戦』を見透かしているかのように言う。
いや、“かのように”じゃなく、全部言い当てられてるんだよな…………。
「……相変わらずその性格だけは“姿形が変わって”も特に変わらないんだな……」
「……まぁ、ね…………そういえば、時間ないんだったね……」
そう言うと、手錠のせいで動きにくいにも関わらず、心音は俺の手が届くギリギリのところまで近づいてきた。
───“別れの時間”はもう、手の届く場所にあった。
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随分と時間が経ってしまった午後6時43分。
ようやく、死徒の1人目。
今日は、常連の
「あれ、今日は鍋島さんじゃないんだね」
「うん。っていうか、この子1人だけだったよ?」
と、リンリンがそう言うと、
「えっと……その鍋島さんって人、『どうせ、いつもと同じ相談だから、今日はやめとくよ。』って言ってどっか行っちゃいましたよ?」
男の子がそう説明してくれた。
まぁ確かに鍋島さんは“図書室で生徒達がうるさいからなんとかしてくれ”っていう相談しかしてこないんだよね……。
っていうか、今日も同じだったんだ……。
「ねぇ、君はここに来たの、初めてだよね?」
「え……うん。初めてです……」
「じゃあまず、自己紹介からしよっか!」
……何で急に元気になったんだろう……。
正直、ちょっと怖い。
「なんで“怖い”って思われなきゃいけないの!」
……あ、しまった。
リンリン、相手の“思考”を読めるんだった……。
「冗談だって。……では、自己紹介をします。 私が部長の上池
「じゃあ、次は私だね!私は杉浦
リンリン、テンション高すぎ……。
「えっと……僕は綿貫
蒼太君、か……。
どこかで聞いたことある名前だな……。
んー……ダメだ思い出せない……。
まぁ、そのうち思い出すかもしれないし一旦このことは置いておこうかな……。
「じゃあ、蒼太君。改めましてようこそ!この“幽霊のための相談室”『夢幻思想研究部』へ!」
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“別れの時間”が迫る午後6時54分。
心音が何か思い出したかのような表情を浮かべながら口を開く。
「あ、そうそう。もう1つだけ言っておくとさ……」
まだ、何かあるのかよ……。
「…………“たとえ、縲が私を殺したとしても、私は縲を殺さない”……それだけは覚えておいてね?」
……その言葉に、俺は一瞬戸惑った。
……今の台詞、心音らしくないな…………。
「……分かった。覚えておく」
……まぁ、今はそんなことどうでもいいか。
「…………じゃあ、さよならだ」
「……そうだね」
心音の額に触れる。
「……じゃあな、心音いや……」
と、俺は即興で考えた名前を言った。
「……ことね」
……まぁ、1文字変えただけだけどな。
それだけで、“対象”からは外されるんだよな……別人扱いとして。
…………そんなことを考えていると、心音改めことねはフッ……と全身の力が抜けたかのように倒れた。
とりあえず、『第一関門』は突破したな……。
「…………さて、ここからが問題だな……。まずはことねをどうやって運ぼうか……。あ、“アイツ”なら出来るかも……」
と、俺はポケットから携帯を取りだし、”アイツ”に電話を掛けた。
「……あ、もしもし
と、俺は電話を切った。
「あとは……どうやって『神崎 心音』がどうやって“脱走したのか”ということの言い逃れを考えないとな……」
……にしても何なんだ?
この“変な感じ”は……。
面倒なことにならなきゃいいんだけど……。
……3日後、その“予感”が的中するなんて、そのときの俺は当然、知る由もなかった。
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