第11話
安楽死の方法は、動物病院で薬を打つことらしかった。次の日曜日、僕は彼女の家族と共に動物病院を訪れていた。初めてきた場所だけれど、想像以上に小奇麗で、もしかすると人間の病院よりもいい病院かもしれないと思った。
ノワールの容体は、想像の何倍もひどかった。彼の病気は悪性の腫瘍であったらしく、しかも顔という手術による切除が不可能な部位だった。顔の毛が抜け、爛れて膨らんだ肉が顔面の半分を覆っているという目を背けたくなるような状態だった。そのため、食事どころか呼吸すらままならならず、生きていることが不思議なほどの有様だった。
紀香とその両親はノワールを大変可愛がっていたようだったので、涙を流してお別れの言葉を口にしていた。その光景を見た僕は座りが悪くなる。間違い無く僕は、この場に居るべきでない場違いな人間だった。
僕は改めてノワールを見る。片方の目は肉に覆われ、隠れていたが、もう片方の目はまだそこに残っていた。
濁った瞳だった。正直、もう死んでいると言われても疑わなかっただろう。
クロも同じ瞳をしていたのだろうか。
僕はそんな事も思い出せない事に、この瞬間気付いた。
注射は意外なほどあっけなく終わった。そもそも、抗う気力すらないのだろう。注射器を力無く受け入れたかと思うと、猫は濁った瞳をゆっくりと閉じた。
医者の話によれば、もう痛みは無く、後はゆっくりと心臓が止まるのを待つだけだという。紀香と家族はノワールを囲んで、じっと見つめていた。
その光景を見る僕は、黙って立ちつくす事しか出来なかった。
その次の日、紀香は学校を休んだ。
その次の日も、そのまた次の日もまた学校を休んだ。
そして、四日目、彼女は学校へやってきた。
しかし、僕の教室に彼女が現れる事はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます