マッスル令嬢と男の娘による、疑似おねショタバカップル
トファナ水
第1話 降ってわいた縁談
「見合い……?」
「うむ。お前ももう、いい歳だろう」
僕は炉利昇太。職業は外科医で、一応は内科も出来る。歳は今年で28歳だ。
実家は病院を経営しており、いわゆる”跡取り息子”という立場である。
その為、いっこうに浮いた話のない僕を心配し、父が見合い話を取り付けて来たと言うのである。
よく有る話の様だが、我が家に限っては、ここまでこぎ着けるには大変な苦労があった事が伺われる。医師は見合い相手として人気が高いという一般論は、僕には当てはまらないのだ。
別に、素行にやましい事がある訳ではない。自分で言うのも何だが、これまで品行方正に生活して来たつもりである。少々のヲタク趣味位はあるが、某幼女殺害事件の頃ならまだしも、巷にアニキャラグッズがはびこり、パチンコ屋すらアニメコンテンツに溢れている昨今では、致命的な物でもないだろう。
病院が経営難という事でもない。地元では過疎がじわじわと進行してはいる物の、地域で唯一の入院設備を持つ医療施設の為に、行政からの助成金も得られて経営は安泰だ。
では何なのかと言うと”身長”である。僕の背は150cm。日本人男性の平均どころか、女性のそれをも下回る低さだ。
女性は通常、相手となる男性に自分より背が高い事を望む為、僕は伴侶を捜すにあたって重いハンデを背負っているという訳だ。
顔の造作は美容整形でどうにかなる。肥満も脂肪吸引という手がある。だが、身長ばかりは医学の力でどうにもならないのである。
「よく見つかったね、こんなチンチクリンに」
「確かにこれまであちこち駆け回りもしたが全くの徒労だったから、信じられないのも無理はないが」
父はこれまでも、商工会やら、後援している地方政治家やらを経由して地域の名士をあたったりして僕との縁談を打診した様だが、相手の答えはいつも、「いい息子さんとは思うけど、背がねえ……」という物だった。
普通なら、地域唯一の医療機関の跡取りとの縁談と来れば放っておかないだろう。
だが、当の娘は低身長の僕を敬遠するであろうし、親の側からしても、娘を嫁がせる相手としては、背が低い僕は何とも貧弱に見えるらしい。
うちの病院に勤務する看護師や薬剤師、あるいは事務員といった女性職員もまた、僕を”男性”としては全く意識していない様だ。
玉の輿を狙って目をぎらつかせた女性達に囲まれるのも嫌だが、全く相手にされていないというのも何とも寂しい限りである。
そんな訳で、低身長が為に全く異性には恵まれなかった僕に縁談が舞い込んだ事を、自分ではにわかには信じられなかった。
「一体どこからそんな話が?」
「医大の同窓会でだな。お前の話をしたら、娘さんと是非、会ってみて欲しいと言って来た奴がいてなあ」
「……もしかして先方さん、経済的に思わしくなくて支援を欲しがっているという事はないでしょうね?」
医大の同窓と言う事は、先方の親もまた医師(臨床とは限らないし、医師免許を取っていない研究職という場合もあるが)という事であろう。父の同門という事もあり、少なくとも、身元ははっきりしている。
とはいえ、先方もまた医師なのだから、娘の縁談は幾らでもありそうな身分だ。重大な欠点のある僕をあえて望むという事は、下世話ではあるが”金目当て”の可能性もある。
「奴の方が儂等よりも羽振りが遥かにいいから、そういう事はない。ほれ、鷹巣クリニックというのを聞いた事位はあるだろう。あそこの理事長だ」
「ああ……」
その医療機関の名は確かに覚えがあった。時折TVコマーシャルで見かける、大物芸能人が利用する事で有名な美容外科グループである。
うちの様な地方病院とは雲泥の差だ。
「さらに良い事に、娘さんも医師でな。もしうちの病院に来てもらえれば、そういう意味でも大いに助かるのだよ」
医療機関が手薄い地域での医師は、当然ながら結構なハードワークである。
緩和する為に医師数を充実させようと募集しても、中々見つからないのは悩みの種で、うちの病院も然りである。
そういう事もあり、どうせ迎えるなら、共同経営者たり得る女医が望ましいのは言うまでもないのだが……
鷹巣氏は何故、自分で立派な美容外科クリニックを経営しているのに、忙しく収入も落ちる地方病院の跡取りにわざわざ娘を嫁がせようとするのか。
資金援助の目的でないにしても、例えば当人の素行が悪いと言う様な瑕疵がある事は想像に難くない。
「儂の顔を立てると思って、会うだけでも頼めんか」
「まあ、とりあえず会うだけなら……」
訝しむ気持ちも残ってはいるが、父の顔を潰す訳にも行かず、せっかくの話でもあるので受ける事にした。
何だかんだ言っても、めったに無い機会だ。立場上、生涯独身というのも困るだろう。
だが、やはり旨い話には裏がある物で、僕は後日、身を以て思い知る事となったのである。
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