となりのとなり

結城かなた

第1話

二軒左となりの家にわたしの好きな人が住んでいる。わたしが12歳の頃に引っ越してきたから、もう15年間もご近所さんなわけだ。彼の母がわたしの母と中学の同級生だったこともあり、昔はよく家族ぐるみでバーベキューやスキーに行っていた。とは言え、すっかり男の子を意識する年齢になっていたわたしは彼と仲良くするつもりはなく、ヘンな噂が流れないように普段はできるだけ距離を置こうとしていた。そんなわたしが彼のことを好きになったのはなぜだろうか。少女漫画みたいにロマンチックなきっかけがある、と言いたいところだが特にそのようなことはなく、気付いたらいつの間にか好きになっていた。

彼のことが好きだと自覚してからは今までと180度変わり、彼と仲良くなろうと様々なことを試した。ベタだが放課後一緒に帰ったり、部活の大会の応援に行ったり。その成果もあり少しずつ、それでも着実に彼との距離を縮めていった。そんな関係がかれこれ10年。そして来月、彼はわたしのとなりのとなりからいなくなる。


「前に一緒にここへ来たときさ、今度は二人で来ようねって言ったの覚えてる?」

10年ぶりに訪れた地元から少し離れたところにある自然公園で、わたしは少し意地悪な質問をした。そんな昔のこと覚えてないよ、と少し困ったような笑みを浮かべる。

「あの頃は好きになってほしくて色々したのになー。全然覚えてないからつまんない。」

ごめんごめん、でも仕方ないじゃん。彼はまた困り笑いのような表情を浮かべる。わたしがはっきりと覚えていることでも彼は覚えていないことが多い。それを知りながらこうして彼をからかうのが定番のようになっていた。

「そんなに忘れっぽくちゃ困るよー?来月はもう社会人なんだからね。覚えることたくさんあるんだから。」

もちろん彼が特別忘れっぽいわけではない。彼は22歳。わたしは27歳。10年前といえども彼にとっては大昔だ。そんな彼が東京で働く。わたしも仕事を辞めてついていく。東京はどんなところだろうか?期待と不安が混ざった新生活が来月から始まる。

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となりのとなり 結城かなた @yukikanata

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