三発目『シュピーゲル』大槻亮(SF)

 いやぁ、どうもどうも。

 鉄拳の仁とバーチャのアキラってどっちが強いのかしら?

 そう思った奥さん、一番強いのはジャスティス学園のロイですよ。


 知人の格ゲーマーがストリートファイターの新作に絶望したらしく、世界に向けて呪詛を吐き続けている昨今ですが、まぁ、そんなことはどうでもいい。

 まだ続けるの? と思っている皆さん。アナタたちは一人じゃない!

 俺も同じことを思っておりますの、えぇえぇ。

 さっさと小説書けよ、オマエ。そう自分に言い聞かせているんですが、このポンコツ「やだぁ、小説読んでたほうが面白い」と匙を投げる始末でして。

 ということで現実逃避からの三回目! さっそく紹介させていただきます!


 タイトル:シュピーゲル

 作者  :大槻亮

 URL  :https://kakuyomu.jp/works/4852201425154904092


・あらすじ


 推理力と洞察力はあるが、感情表現が下手すぎる織部希榛と、直観的で楽観的で人当りのいい親友の直江健吾は、いつも一緒の大学生。

 探偵と助手のような関係の二人は、ネット上で都市伝説的な噂が広がるヴァーチャルリアリティ体験ソフト《Spiegel》(シュピーゲル)の調査をすることになる。鏡という意味のそのソフトは、ゲームではなく理想の世界を作り上げ、理想の自分になることを目的とするものだった。ユーザーに理想を求めさせる開発者はどんな人物で、その意図は何なのか。未来の日本を舞台に二人の大学生探偵が織りなすSFサスペンス。


※ 喧嘩程度も暴力に含めるなら、ということで暴力描写有りにしていますが、グロはありませんのでご安心ください。

(※上記のあらすじに関しては作者様のページより抜粋させて頂いたものです)


 今回は少し毛色が違います。

 過去の二回はネット小説らしい面白さ、フォーマットで書かれた作品でしたが、今回紹介させていただくシュピーゲルは違う魅力の作品です。

 ネット小説はスタートが命。開幕から派手にイベント起こして全力疾走しないと見向きもされない。だからテンポを上げガンガン話を走らせるのがメジャーなフォーマットなんですが、そればかりじゃ飽きてしまう。

 そして実際に飽きてしまったそんなアナタにお勧めの作品です。


 物語は主人公である織部希榛(おりべきはる)の視点をメインにした三人称で進んでいきます。まぁ、この主人公がね、奥ゆかしいというか青年らしいというか。


 若かりし頃を思い出しますねぇ。他人との付き合い方に四苦八苦する様なんて、読んでてオジサン「あら、かわいい」と思わず呟いてしまいましたよ。

 いや、私はノンケなんで淫らな意味はありませんよ? なんか歳を重ねてくると、若い男の子が、その歳特有の悩みに頭を抱えている姿って「あらあら、うふふ」って視点で見てしまいません? 男性でも。

 え、ない? オマエが異常? はい、わかりました。


 さて、この物語において最も重要な要素であるシュピーゲルというVRソフトですが、語弊を恐れずにいうと超スゲぇマインクラフトです。

 何が凄いって、このマインクラフト――いいや、シュピーゲルは、超高速で建物とか建てられるだけでなく、なんと! 自分が作った街の中に人間を住ませることができるんですよ。


 手順は簡単! シュピーゲルに搭載されているナビゲーションAIである案内人に、なんとなくイメージを伝えるだけ。「こんな感じの建物作って、こんな感じの人とかNPCで配置しといて」それで世界が造られちゃいます。

 え? そんな簡単に世界を作れちゃっていいの? そう思ったアンタ! 当然じゃないですか。私たちシュピーゲルが提供するのは、お客様に『理想の自分の発見』をしていただくことなのですから。


 シュピーゲルの魅力はそれだけではありません。

 なんと! 搭載されているナビゲーションAIは!

 見た目も中身もアナタ好みの色に染められるユーザーフレンドリーな使用になっているのでございますよ。えぇ、えぇ。


 お客様からの声も届いています。「シュピーゲルをプレイしてから毎日が最高の毎日です。憧れの彼女からもアプローチされました。これもシュピーゲルのおかげです」「宝くじに当選したわ。シュピーゲルを買ったその日によ。信じられないわ。けれど、私にはわかっているの。これもシュピーゲルのおかげだって」

 まさに勝ちまくり! モテまくり!


 とはいえ、うまい話には必ず裏があるものでして。

 あらすじにもあるように、この作品はシュピーゲルの制作意図という謎を追いかける物語です。つまりはですね、ユーザーをただただ満足させるために作られたソフトじゃないってことなんですよね。

 理想の自分。全てが思い通りになる世界。満たされていく自分自身。けれど! まさか! このシュピーゲルが!

 そんな意図で作られたシロモノだったとはーーーー! 


 基本的にミステリーやサスペンスの技法に従って、物語は進んでいきます。そしてSF要素ですが、あまりSFに詳しくないって読者の方へと非常に配慮されたレベルに整えられております。

 丁寧な文体という魅力も相まった、少しづつ積み上げられていく物語のテンポは心地よいです。全体で10万字、全11章編成なのでわりとタイトな構成のはずですが、書き急いでいるような焦りも感じません。


 キャラクターの描写も丁寧ですね。心の小さな機敏を重要視しているように感じられます。ナイーブな性格の主人公を見事に描写しちゃっていますから。

 ただ、私が思うに、作者の方が一番力を入れたのはキャラクターの服飾描写ではないでしょうか。

 この作品でメインヒロインとなるフィーユちゃん。上記したナビゲーションAIなんですが、この子の服装がとにかく変わる! その度にイメージしやすいよう丁寧な描写が入りますから、私なんぞは作者様の力量に唸ってしまうわけですよ。

 いや、女の子の服装ってパターン考えるのたいへんなんですよ。ストーリーの流れをせき止めるし、センス問われるわりに地味な作業だし。

 なにより文章のリズムが狂うのが一番イヤなんですが……そんな話はいりませんね。作者である大槻氏は、そういうことを窺わせることなく見事に熟しておりますので。


 3月7日現在において、どうやら物語は完結を迎えているようです。いや、6日に完結したんですね。ご完結、おめでとうございます! 

 この感想を書いている間に、作者様の近況報告が更新されておりました。なんというタイムリーな出来事! よし、めでたい! 酒を持てぇ! 宴じゃ!宴! スカイリムのテーマソングとか流そうぜ!


 一気読みできる作品に飢えている方は、この機会に読み込んでみてはいかかでしょうか。気になられた方がおりましたら、ぜひ一読のほどお勧めいたします。

 

 



 

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