142区 聖香大ダメージを受ける


部活を終え、美術部に顔を出している晴美を迎えに、美術室へと向かう。


「あ、聖香。ちょうどよかったかな。見て! 完成したんだよ」

私が美術室に入ると同時に、晴美が声を掛けて来る。


よく見ると美術室にいるのは晴美だけだ。


その絵には見覚えがあった。昨年の文化祭で晴美が見せてくれた、モザイク画で作った女性ランナーの絵だ。


それと同じ構図で、今度は絵の具を使って女性ランナーが描かれていた。

あの時と違うことと言えば、肩からタスキが掛けていることか。


その体は細いながらもしっかりと筋肉が付いている。女性ランナーは正面を向いており、さらには筋肉と体の動きが躍動感にあふれ、今にも絵から飛び出して来そうな迫力だ。


「今年の全国高校駅伝ポスターコンクールに、この絵を応募しようと思ってるかな」

晴美が私にパンフレットを見せてくれる。


募集の締め切りは今月末の6月30日。最優秀賞の発表は8月29日となっていた。


「あら園村さん。まだ残っていたの?」

美術準備室から先生が出て来る。面識はないが、美術部の先生だろうか。


「津田先生どうでしょう。言われたところを修正してみました」

晴美がその先生に絵を見せる。


「うん。前よりずっと良くなったわね。ランナーに女性らしさがよく出てる。前の絵は筋肉の柔らかさは女性だったけど、胸元は男性だったものね。絵のモデルがいるらしいけど、複数のモデルを使う時は、同性にした方が良いわよ。じゃないと修正する前みたいに、胸がまったくない女性と言う変な絵が出来上がってしまうから」


先生の説明を聞きながら晴美の絵をもう一度見てみる。

確かに大きくはないが、女性だと分かる程度には胸の膨らみがあった。


「うーん……。聖香の写真をそのまま使っただけなんだけどな。それがいけなかったかな」

独り言を言いながら悩む晴美。


「ちょっと晴美?」

私の呼びかけに、晴美はしまったと言う感じで顔をしかめる。


「ほら園村さん。写真じゃなくて友達を見ればより分かるわよ」

どうやら先生の説明はまだ続いているようだ。


「ちょっとあなた横を向いてね。園村さん、高校生くらいの女性が横を向けば自然と胸の膨らみが出……」


言葉につまり、気まずそうにする津田先生。

ええ、大丈夫ですよ。もう慣れてますから。


クラスの友達にも、

「澤野っちって、まさにアスリートって感じ。普段からスポーツブラだし。なんかかっこいいよね」

と褒められるが、自分の胸があまりにも小さく、それに合ったカップのブラは可愛いものが全くないため、だったらいっそのことと、スポーツブラにしているとは言えなかった。


スポーツ店でアスリート用の高い物を買い、それを使用しているのがせめてもの意地だ。

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