140区 聖香と晴美の絆

県総体で6位に入ると中国地区総体へと出場することが出来る。そこで6位に入ればインターハイへと出場出来るのだ。


つまり、我が駅伝部は県総体を走った全員が中国地区総体へと進めるのである。これは快挙としか言いようがなく、学校を上げての壮行式まで行われる始末。


ただ、中国地区総体では惨敗だった。各種目とも基本的には各県の上位6名が参加し、それが中国5県で計30名での争いとなる。


800mに出場した紗耶は予選落ち。一発決勝で行われた3000mでは、麻子が9位、葵先輩が13位だった。


3人とも県総体で出した記録には遠く及ばず、実力を出せないままに終わった。


こんなに規模が大きな大会は生まれて初めてで、雰囲気にのまれて上手く実力を発揮できなかったと、葵先輩はレースが終わった後で言っていた。


永野先生も、全レースが終わった後で、

「考えようによっては、都大路を走る前にこういった試合を経験出来て、良かったのかもしれんな。ぶっつけ本番で都大路を走っていたら、緊張でなにも出来なかっただろうしな。前向きに考えて、もう一度前へと進んで行こう」

と私達にアドバイスをくれた。


ちなみに、私と紘子はと言うと……。


私は、県総体1500m決勝で体力を使い切り、抵抗力が弱った状態で雨に当たったせいか、夏風邪をひいてしまい、出場を辞退したのだ。


夏風邪は治りにくいと言う言葉どおり、3日間も風邪で学校を欠席した上に、一週間近くずっとまともに部活も出来なかった。


どうにかギリギリで治り、現地入りしたものの、永野先生から

「いつも私が言ってるだろ。一日無理して一週間走れなくなるくらいなら、一日我慢して一週間走れって。ギリギリで治ったとはいえ、まだ本調子ではないのは確かだ。その状態で、体力的にも精神的にも無理するレースをして脚を故障したら、それこそ大変なことになる。それにうちはあくまで駅伝部。目指すべきレースは11月の県駅伝だ」

と説得され棄権することに。


さすがにそこまで言われると、私も反論出来なかった。


紘子にいたっては、先頭集団でレースを進めていた900m地点で、後ろの選手と脚が絡まり転倒。その際に前の選手を押し倒してしまい、それが妨害行為と判断されて失格となったのだった。


帰りの車の中で紘子はずっと泣いていた。隣にいた私が頭をなでると、余計に泣き出し、晴美に「聖香は女泣かせかな」とあきらかに意味の間違った一言を言われてしまった。


でも、本当は私も泣きたいくらい悔しかった。


中学3年生の時にも一度、故障で大会に出場出来なかった。今回はその時とは比べものにならないくらいショックだった。


中国地区総体から帰って来た日の夜に、携帯が鳴る。

晴美からだった。


「どうしたの晴美?」

「うん? 聖香が呼んでいるような気がしただけかな」

まったく……晴美にはかなわないと本気で思った。


「あきらかに、みんなの前で無理をしているようだったもんね。聖香。話聞くよ。思っていること全部話してもかまわないかな」

幼馴染だからこそ分かることなのだろうか。


晴美には自分の気持ちを見透かされていたようだ。


晴美に、悔しさや自分の不甲斐なさを少しずつ話していたら、結局私は泣き出していた。それでも晴美は静かに私の話を聞いてくれた。幼稚園からずっと一緒にいるが、やっぱり晴美の存在は、私のなかで大きなものであると実感する。

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