125区 鍋のフタとメロン

そんな、私にとって人生でもトップ3に入りそうな屈辱の日が終わり、それを忘れよとするがごとく、日々全力で練習をしていたら、あっと言う間に一ヶ月が過ぎ、気が付けば県総体の日となった。


私達2年生にとっては、初出場となる県総体だ。


県総体当日の朝7時。集合場所である教員駐車場に、部員全員がそろう。


だが……、肝心の顧問と副顧問がいなかった。


「綾子先生、駅伝の時もぎりぎりだったわよね」

携帯で時刻を確認し、葵先輩は顔をしかめる。


「まぁ、あやちゃん先生と由香里さんは一緒に来るとは思いますけどぉ~」

「あの……。由香里さんって誰ですか?」

朋恵が不思議そうな顔をする。


そうか、1年生2人は由香里さんに会ったことがないのか。


晴美が由香里さんの説明を始めると、駐車場にハイネースがやって来る。

運転手は由香里さん、助手席には永野先生が座っていた。


降りて来た2人に、全員であいさつをする。


「おはよう。よし、みんなそろってるな」

永野先生が私達の顔を確認し、あいさつを返す。


その後ろで、由香里さんがすごく不機嫌そうにしていた。


「聞いてよ。私が迎えに行った時、まだ寝てたのよ、綾子」

「ちょっと由香里、それは生徒に内緒だって言ったでしょ!」

「確かにそう言われたけど、喋らないって約束してないもん、私」

2人のやりとりを見ていると、子供の喧嘩を見ているようだ。


それを横にいた紘子に小声で言うと、「いやいやいや」と否定された。


「あれのどこがですが、あれは反則ですし」

「あの……。同じ人間なのに、どうしてこうも差が出るんですか」

紘子に続き、朋恵までもが由香里さんをじっと見て悲しそうな眼をしている。


「人間には持つ者と持たざる者がいるのよ。こればっかりは、逆らえないわ」

と、2人には辛い現実を教えておく。


「鍋のフタとメロンくらい違っても呼び名が一緒って……笑えないし」

 紘子は本気で悔しそうな声でぼそっとつぶやいていた。


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