123区 2人の好走と麻子の疑問

大型連休後に行われた3000mタイムトライ。葵先輩と朋恵が好走した。


久美子先輩が転校し、なにか思うところがあったのか。新しい学年になってから葵先輩の走りが変わりつつあった。


今までは私や麻子に負けて当たり前。とりあえず、付ける所までついて行こうと言う練習スタンスだったが、最近は隙さえあれば勝ってやるといった感じで、積極的な走りを見せる。


今日も最初の600mは私の前を走っていたし、晴美によると2600mまでは麻子と競り合っていたそうだ。


朋恵にいたっては、わずか一ヶ月で自己ベストを3分半近くも更新した。


「朋恵ちゃん、15分24秒」

晴美がタイムを読み上げると、息切れをしながらゴールした朋恵の顔が笑顔に変わる。


「タイム的にはまだまだだが、那須川は化けるかもしれないな。短期間でこれだけタイムを短縮するとは思わなかったぞ」


永野先生もタイムを聞いて感心していた。だが、褒められた当の本人は

「いえ……。わ……わたし、今のタイムでもかなりキツイです。みなさんと同じタイムで走ったら、死んでしまいます」

と、かなり弱気だった。


この日のタイムトライを見て、6月に行われる県高校総体の出場種目が決定した。


3000mに葵先輩、麻子、紘子。1500mに私が。そして800mには紗耶がエントリーとなった。


1500nへの出場が決まった時に、まったく正反対の二つの気持ちが心に浮かぶ。


中学以来の1500mを素直に嬉しいと思う気持ちと、いったい自分がどこまで走れるのだろうかと言う不安だ。


順位で言えば、もちろん優勝が目標だ。


だが、私にはもうひとつ大きな目標があった。この前えいりんが出したタイムを0・01秒でも良いから上回ること。もちろん、それが容易でないことも理解してる。


えいりんと私で条件が違うのは分かっているが、それでも同じ種目を走る以上、タイムで負けたくない。


総体まで残り一ヶ月。今まで以上に気合いを入れて練習をしようと強く決意をする。


「あ、そうだ。若宮と那須川。お前らの分のユニホームが届いたぞ」

まるで私が決意するのを待っていたかのようなタイミングで、永野先生が1年生2人に声をかける。


紘子と朋恵が永野先生からそれぞれユニホームを受け取り、嬉しそうに部室へと向かう。


「紘子が青系のユニホームを着てる姿が想像出来ないんだけど。ほら、中学の時は上下とも真っ赤なユニホームだったじゃない」


紘子達の後について歩きながら、私がちょっとだけ茶化すように紘子に声をかける。


「でも、正直自分、赤ってあんまり好きじゃないですし。そりゃ、中学の時は決まってたから仕方なかったですけど……。むしろ、この桂水のユニホームの方が、自分らしいって気がして好きですし」


私にそう答えながら、紘子が透明な袋に入ったユニホームを見つめる。


「あ、そういえば、あたしユニホームで聖香に聞きたいことが前からあったのよね」

 紘子の前にいた麻子が部室のドアを開け、一歩横に逸れると、私達に「先に入って」と合図をしながら、私を名指しで指名してくる。


「どうしたのよ? 改まって?」

麻子に「どうも」とジェスチャーしながら、私が返事を返す。


麻子は私の返事にすぐに答えず、全員が部室に入ったのを確認してから扉を閉め、荷物を置いてある場所まで移動した後で、ようやく本題を喋り始めた。

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