104区 久美子先輩からの一言
それから月日は進み、気が付けばあっと言う間に3月。卒業生を送り出す季節だが、女子駅伝部は1、2年生しかいないため、卒業生自体はいない。
だが、別れはやって来た……。
それは春休みも目前に迫った土曜日の練習後だった。
「くみちゃん先輩は今日もまたお休みだったかぁ~」
紗耶の言葉どおり、最近久美子先輩は部活を休みがちだ。
ここ一ヶ月で計10回くらい休んでいる。
「葵さん何か聞いてます?」
「いや、うちも詳しい理由はまったく聞いてないのよね。家庭の事情ってのは聞いてるけど、久美子もそれ以上教えてくれないのよね。家庭のことに首を突っ込むわけにも行かないしね。まぁ、そんなに心配することでもないんじゃない?」
葵先輩が知らないのなら、もう理由を知ることなど不可能だ。
久美子先輩の話をしながらも着替えを終わらせ、みんなで部室を出る。
なぜか永野先生が部室の前におり、今から生物・化学準備室へ全員で来るようにと指示が出る。しかも永野先生は指示だけして、詳しい理由は教えてくれなかった。
おかげで、私達全員が呼ばれた理由も分からずに永野先生の元へ向かうこととなった。
「いったい何の用事かな」
「永野先生のことだし、教材を運べとか、掃除を手伝ってくれとかじゃない?」
私は笑いながら晴美に答え、生物・化学準備室の引き戸を引く。
そこには、永野先生と久美子先輩が立っていた。
「久美子? どうしてここに?」
葵先輩が驚いた声を出す。麻子や紗耶も「え? なんで?」と声に出して驚く。
全員が生物・化学準備室に集まるものの、しばらくの間沈黙が続く。
呼ばれたのは教材運びや、掃除のためではない。それは雰囲気で分かる。でも、本当の理由を誰も聞けないでいた。
「黙っていても話が進まないな」
沈黙を破ったのは永野先生の一言だった。
それに続いて何かを喋ろうとするが、なかなか言葉が出ないようだ。
「ごめん」
久美子先輩が突然私達に頭を下げる。
「え? だからどう言うこと? 説明してよ、久美子」
葵先輩が少しイラついたような声を出しながら久美子先輩を睨む。一瞬私は、駅伝前にあった2人の喧嘩を思い出してしまった。
「自分、4月から広島の高校に転校する。家庭の事情」
久美子先輩の発言に、思わずみんなで顔を見合わせる。
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