大人になりました
新人研修の方ですか、ここは初めてですね。
あなたもここで育ったのですが、記憶が無いのも仕方ないでしょう。
そこの女の子で説明します。年齢は11歳です。彼女も含めここにいる皆、もちろん昔のあなたや私もそうだったのですが、生後二ヶ月からずっと睡眠状態にあります。口の吸入器から十分な栄養と水分と麻酔が投与されます。このようにカプセルで育つことで完璧な安全が確保されています。昔は児童への卑劣な犯罪が頻発していましたが今はもちろんありません。
彼女についているヘッドホンのようなもの、それが彼女に「記憶」を送っています。
人間を作るのは記憶です。学習も経験も、記憶として脳に蓄積されます。
そこで、正しい人になるための学習や経験の記憶を脳に直接書き込むことで、誰もが他人を思いやり、正義と公正を重んじ、快活かつ頭の回転が速く、場の空気を読むなどコミュニケーションが得意で、科学的で論理的な思考を身につけた素晴らしい大人に育つのです。
子どもとは立派な大人になるための過程ですから、これこそが最高のステップだということができるでしょう。
あ、隣の男の子の体がビクッとしましたね。
特定の電気刺激を与えることで運動と同じ効果をあげ、身体的な成長を促します。健康器具に使われた方法を応用したそうです。
筋肉を動かすとき、脳には運動に直結する記憶が送られています。今は腕への刺激が特に強かったようなので、年齢から判断するにおそらくキャッチボールでしょう。
隣の14歳の女の子は表情が嬉しそうですね。「遊び」の記憶が送られているのでしょう。遊びも人格形成には重要です。あと、今日はいないのでその様子は見えませんが、初恋の記憶を送られているときの子どもたちの様子というのは、非常に趣深いものがありますよ。
さて、19歳の彼を見てください。彼はすでに記憶の書き込みを終え、起床段階にあります。
少しずつ麻酔の量を減らし、意識レベルを上げていきます。
そろそろですね。ほら、目を覚ましました。
彼はこれから数日間の研修後、大人としての生活を始めます。もちろん彼は品行方正な社会人として、あなたや私がそうするようにこの社会、この国に貢献してくれるでしょう。犯罪を起こす可能性も極めて低いです。犯罪率はこのシステムを導入して以来急激に低下しています。
彼への筋肉への刺激装置が自然に外され、自らの意思で動かしています。もう大丈夫です。
ほら、また一人、大人が誕生しましたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます