ふさわしい結末

「勇者様だ」

「なんという勇ましい姿だ」

「あの剣で魔王を倒したのだ」

「すてき」

「世界を救ってくれたんだ」

鼓笛隊は必要なかった。押し寄せる民衆の歓声が、何よりも彼の凱旋にはふさわしいものであった。成人を終えて間もない勇者は、頬に無数の傷をつけ、その経験がもたらしたであろう精悍な顔立ちをしていた。ともに戦った、彼の親友でもある戦士と、死者の島に一人住んでいた老賢者も歓声を受け城へ歩みを進めていた。しかし彼ら勇者の一行には笑顔はなかった。異国の王、少年剣士団、魔術師の街、封印の少女、そしておびただしい無辜の人々。彼らが目の前で見てきた犠牲を思うと、決してただ喜べるだけのものではないということを知っていた。

 王も、その姿を王宮より見ていた。竜鱗狩りの試練を乗り越えた彼を勇者と信じ、聖剣のありかを表す地図と王家代理人の証を渡したことの正しさを改めて噛み締めていた。そして、すでに王は決心していた。彼に王を譲ろうと。王は、横に立ち目を潤ませる愛娘の姿に目をやった。娘と勇者が互いに想いを募らせていることは誰の目にも明らかであった。だからこそ侍女も、勇者が魔王を倒したという伝令が来るとすぐに、今日のための新しいドレスとクラウンを準備したのであろう。王はその伝令から、かの青年がいかに魔王の大陸への道を切り開いたのかを聞き、その知性と忍耐の素晴らしさを改めて知ったのである。そして、王にとって最も必要である人望も、この凱旋の姿を見れば改めて確認するまでもない。それに伝令によれば、旅の途中で、勇者が古代この大陸を治めていたと古文書に伝わるライトゥヒア聖王国の王家の末裔であるということが判明し、その血によって、彼は聖王の宝剣の封印を解くことができたのだという。きっと彼であれば、この国を栄えさせ、世界を平定してくれるであろう。確かに彼は王としては若いかもしれないが、先王として自分が支えることはできるし、あの老賢者も知恵を貸してくれるであろう。

 城が近づき、勇者は城を見上げた。王と姫を同時に視線に入り、彼は歩みを止め、深々と一礼した。視線が降りた先に、彼は一人の少女を見つけた。少女は勇者と目線が合ったことに気づくと、握っていた一輪の花を彼に手渡そうとした。少女なりの、プレゼントなのだろう。彼は少女と同じ目線まで身体をかがめその花を受け取ると、目に涙を浮かべた。彼は、この冒険の中で彼女のような少女が魔物や、人間同士の争いで殺されていくのを何度も見てきた。その度に繰り返してきた、救えなかったことへの後悔が彼の心の中を駆け巡ったのだ。その姿を、親友の戦士と、老賢者はただ見ていた。そして、世界を救ったのはまさに、彼のこの優しさであるということを改めて思い出していた。そして、これからの世界にも、いやこれからの世界にこそ、彼のその純真さが必要なのだと考えていた。彼なら、新たなる聖王になれる。その時、勇者が急に視界から消えた。その光景に、仲間も、少女も、群衆も、王も、姫も、全く理解することさえできず、ただ静止していた。数秒後、群衆の誰かが、「まさか、また魔王が…」とつぶやき、彼らがパニックになり、賢者と戦士は互いの武器を抜き、王と姫はそこから崩れ落ちた。少女が渡した花が、一輪、路上に所在なげに置かれていた。

 彼らは知らなかった。誰からも尊敬され愛される勇者が、ただ一人、魔王よりも恐ろしい、この世界の全てを握る存在から憎まれていたことを。それは、この物語の作者、つまり僕であった。ていうか、こいつ人間は出来てるわ強いわみんなから好かれてるわで書いててむかついてきたんですよ。しかも家柄も最高でこのあとお姫様と結婚して王になるわけじゃないですか。もうさ、恵まれすぎ、今で言うスーパーリア充ですよ。だからもう書くのいやになってとりあえず消しちゃったんですよ。正直ざまあって感じですね。最初は爆発させるのもいいかなって思ったんですけど、あんまり周りを巻き添えにするのもよくないですしね。え、このあとどうなるのって?まあ仲間は蘇った魔王を探しに旅に出たりするかもしれないですけど、あとは時間が経てば意外とみんな普通に過ごすと思いますよ。最初は勇者を悼んでても、記憶って少しずつ薄れていきますしね。王様はなんだかんだ優秀だから国も万全だし、姫様も、ここ王子いないんで誰かとは結婚しなきゃいけないだろうし。でももう魔王は死んでるんで、きっと大丈夫ですよ。まあ大丈夫かどうかも僕が決めれることだったりするんですけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る