狂刀伝

arm1475

(北斗。また一人で見回りに行く気?)


 蒼く澄み渡った秋空の下に広がる荒野を、朱塗りの鞘に収まった大刀を腰に下げて独り歩く夜摩北斗やまほくとは、数刻前に、中華街の近くにある自宅の前で自分を見送った少女、那由他なゆたの昏い貌を、ふと、思い出していた。

 北斗より七つ年下のこの少女が、自分をこんな風に見つめたのはこれで何回目だろうか。北斗は思い出せなかったが、今更、気に掛けるまでも無い事であった。


(昔からその協調性の無い自分勝手な性格はいい加減直せって言ってるでしょ?)


「昔から、って言うが、お前と知り合って未だ五年ぐらいしか経ってないぞ」


 回想の呆れ顔に、北斗は思わず歩みを止めて苦笑した。


「……ああ、もう五年経ったんだな」


 そう呟いて振り返った北斗の視界には、崩壊した都市の無残な光景が果てしなく広がっていた。

 五年前の春、突如、関東平野のみを襲った大震災がもたらした惨状である。

 今なお、復興されていないのには理由があった。

 大震災直後、生き残った人々が『闇壁あんへき』と名付けた、空より降りて来た正体不明の超弩級半球形不可視結界によって関東平野は包囲され、外界から隔離されてしまった。

 しかもあろう事か、何処の闇の縁より現れた〈妖魔〉の群れが町中を闊歩し始め、関東平野は魔界と化してしまったのである。

 それでも生き残った人々には希望はあった。

 関東を包囲する結界は発火現象に作為的制限を生み、爆発物や重火器類が一切使用出来なくなってしまったが、刀剣や打撃具をもって妖魔を屠る事が可能であった。

 更に、妖魔の一部には人類に懇意的な存在がいたのも僥倖であった。

 彼らがもたらした『魔導法』と呼ばれる、五感を司る生体エネルギーを触媒にして自然界の法則を変異させる法術を体得した事によって、残された人々はこの〈魔界〉関東平野で生き延びていた。

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