俺と白兎は主従関係、ただし主人は白兎

「取り込み中すまんが、ちょっといいか、ナオヤ?」


俺と兎が言い争いから、殴る蹴る、噛みつくにまで発展したあたりで、ノランが近寄ってきた。


あと、猫耳少女のミラさんも。


「なんですか、ノランさん?」


俺は兎を手で押し返しながらノランに向き直り、覚えておきなさい、と言う言葉は無視して対応することにした。


おそらく話し合いが決着して、俺たちへの対応をしにきたのだろう。


さて、ここを上手く乗り切らないと、とても面倒な事になりそうだ。


「ああ、なんだ。そのナオヤは東国出身でいいんだよな?」


「ええ、まあ、その通りです」


「なんでまた、東国の学生さんがこの国に来たんだ?」


「それは、その」


やばい、こんな大人数に対して嘘の過去話とかすごく緊張する。


よく考えれば有りそうで無さそうな話だけに、いきなりこんな話をしだす馬鹿は居ないと思うんだが。


「ああ、彼にも事情があるのよ。話さなくちゃいけないのかしら?」


「いや、無理にとは言わない。ところで、白い兎さんよ。名前とかないのか?」


「あら、これは失礼。窮地を助けて頂いた方に名乗らないなどとあるまじき事をしていたわ。私はルナよ」


「白兎のルナな、解った。ところでナオヤとルナはどういう関係なんだ?」


「ぐうぜ」


「私たちはちょっとした縁故よ。彼のお爺さまと私の祖父母がね」


そういや、兎の設定や俺との関係性を決めてなかったな。


思わず本当の事を言いそうになったが、兎がインターセプトしやがった。


これは、乗っておいた方がよさそうだ。


おい、齧歯類、俺をそんな目で見るんじゃない。


「そうなのか?」


「ええ、まあ。この山に辿り着いた後初めて出会いましたが」


「と、言う事は、ルナのような兎が他にもいるのか?」


「それはないと思うわ。私の祖父母、厳密に言えば何代も前は白兎だったと聞いているけど、私の両親は茶色い毛並みだったもの」


「動物もそういう会話するんだな、人間と会話できないだけで」


俺が関心して頷くと、兎は、あんたね、と言わんばかりな目で見てくる。


その視線から逃れるようにノランの方を向けば、ミラさんがなんかメモのよなモノを取っている。


おそらく調書でも取っているんだろうが、やはり俺たちは不審人物としてマークされているようだ。


あ、紙は厚いけどそれなりに発達してるんだな。


「俺も初めて聞いたぜ」


「それで、本当は何が聞きたいのかしら、ノランさん?」


「ああ、そうだな、ちょっとまどろっこしいやり取りだった。端的に言うぜ、ナオヤ」


「え、ええ、はい」


「お前何者で、何しにこの国に来たんだ?」


やはりそういう事だったか。


兎が懸念した通りの展開な訳だが、さて、先ほど決めた嘘話をここで披露するのか?


こういう展開になった時の主人公たちが取っていた対応を考えろ、俺。


あいつらはどうしていた?


「何者も何も、ただの旅人で、所持金もない、見たままに貧相で、ただの哀れなオスよ、彼は」


「てめえ、なんてこと言いやがる!」


俺が長考しているのに業を煮やしたのか、毛むくじゃらの齧歯類は俺をディスりやがった。


「実際にそうでしょう?お金もなく、水袋も失うし、着ていた服も破れすぎて着れなくなったから形見にまで袖を通す始末。さらに言えばこの国に伝手もないじゃない」


「確かに服は転ろげ落ちて破いたよ!水袋やその他の荷物もその時に亀裂へおさらばだ!なんか、文句あるのか!」


「ええ、あるわよ。あなたね、私への貢ぎ物はどうしたのよ?私、白き衣を纏いし高貴なる白兎のルナさまなのよ?新鮮でおいしい野菜を提供しなさい!」


「うるせええ!ただの毛むくじゃらが高貴とかあるか、このめろう!」


「お、おい、ナオヤもルナもやめろ、ここで暴れるな!取りあえず、なんとなく解ったから質問は打ち切るから落ち着け、な?」


俺たちが突然暴れだしたので周りはドン引きし、ノランは見かねたのか止めに入ってきた。


俺と兎は取り敢えず一時休戦とばかりに引き下がったが、兎のやつは、にやり、とした表情を作る。


まさか、計算ずくでこのやり取りをしてうやむやにしたのか、この齧歯類?


「あのー、そろそろ私の話もよろしいですか?」


「ああ、そうだな、頼むわ」




俺と兎が落ち付いたのを見計らって、猫耳少女のミラさんが割り込んできた。


調書はもう良いので?と思ったが、ミラさんが続きをするのだと思い至る。


「ええ、まあ」


「先ほどのお話ですと、ナオヤさんは通行書等もお持ちでない訳ですよね?」


「通行証?ああ、身分を証明したりするものですよね。ええ、失いました」


「でしたらこちらでギルド証を作られてはどうですか?すでに作っていたなら再発行という事になりますが」


あ、やっぱりここそう言うところなんだな。


しかし、参ったな。


まず第一にこの世界での証明書なんてある訳がないし、東国と言うところでギルドが存在していた場合、ギルドの事を聞けない。


さらに言えば、詳細説明を求められたら答えられない訳だが。


どうしたものか、と兎を見ると、やれやれとばかりに首を振りやがった。


ちょっと慣れてきたがやっぱり腹が立つ。


「ねえ、そのギルド証とやらは私でも作れるのかしら?」


「え、聖獣さまがですか?」


「そう私のよ。ああ、そもそもここはギルドと言うところでいいのかしら?それがなんだか解らないのだけど。兎だけに、今まで山奥で暮らしていたのだから」


悔しいがこう言う事はこの兎の方が上手く対応しやがる。


それに兎だから知らないとは、良い質問の仕方だ。


「流石に会話できる聖獣さまと言うのが初めてですので、真実の神プルーフが承認されるか解りません。そのあたりも踏まえてご説明致しますね。」


なんか神がどうのと言い出したのが、さすが異世界、と言った感じがしてちょっとワクワクする。


そしてミラさんの説明によると、以下のようになる。


まずギルドとは、登録者の管理や仕事の斡旋、独占を取り締まるための機関らしい。


登録した者は、この国だけでなく、周辺諸国を含め、この大陸の大半で身分が証明されるとの事。


そして、ここは総合ギルドと呼ばれる、あらゆるギルドの依頼を取り扱う機関。


他のギルドは、魔物を狩る者たちを管理するハンターギルド、商売を取り扱う商人ギルド、魔術師を管理する魔術ギルドなどがあるらしい。


魔物や魔術と聞いてさらに興奮したが、大人しく続きを聞くように兎に蹴られたのは余談だ。


さて、先ほど名が出た神、真実の神プルーフとは、この世界を作ったとされる創世の女神アルテシアの眷属で、すべての真実を見通す神らしい。


そのプルーフの加護が宿った宝玉を通して、その者の情報をギルド毎のカードに移す事でギルド証が出来るらしい。


この方法は市民証などにも使われる魔法技術なため、ギルド証は身分証明書としても流用されているのだ。


ただ、問題点として神であるプルーフとは言え、女神の影響化にない地域ではこの魔法技術は使えないらしい。


例えば、東国を含めた東方地域は創世の女神の眷属以外の神が担当しているため利用できないと言われている。


なので、俺がギルド証やそれに類似するものを持っていなくとも、不思議はないそうだ。


「そういや東国ではどうしてるんだ?」


「あー、台帳なんかの記憶媒体で管理してますよ」


「なるほどな」


俺に関してはそうやって躱しておいた。


おい、兎、なんだ、その初めてのお使いを成功させた子を見る母親みたいな目は。


「そうですね。俺も身分証やお金がないですし、登録させてもらって仕事をさがさないと」


「そうね。私も作れるなら作っておきましょうか。あった方が色々融通が利きそうだわ」


「え?兎だから要らないんじゃ?」


「あ、あなたね!まあ、良いわ。あくまでも作れたらで試してみるだけよ」


「解りました、ご用意しますね」


「ああ、あと教えてほしいのだけど、このギルドではどう言った仕事を斡旋してくれるのかしら?」


「あ、そのあたりも説明しないといけませんね」


まず、この総合ギルドでは、各ギルドから舞い込んだ依頼を斡旋するのがメインとなるそうだ。


例えば魔術ギルドからはポーションの素材となる薬草採取や商人ギルドなら商隊の護衛など。


あとは近所の住人からのお願いに相当するようなものもあるらしい。


アニメなどでよくあるランクに相当するシステムが導入されているようで、最低ランクの木証、銅証、鉄証、ミスリル証と上がっていく。


金と銀の証も存在しているそうだが、銀は王侯貴族が登録した場合のもので、金は勇者専用の証らしい。


やはり居たか勇者。


と、言う事は魔王とかもいるんだろうか?


「と、言った感じになります。ああ、ルナさまを聖獣さまと言っていたのは、勇者さまに関係する話から来ています」


「確か白い獣がどうたらでしたよね?」


「はい。歴代の勇者さまのほとんどが白き獣を従者に魔王討伐をなされています。創世の女神により召喚された初代さまである勇者さまは白い竜を連れていたそうです」


「歴代と言う事は、今までに何人もの勇者や魔王が居た、と言う事かしら?」


「勇者さまは約千年前の初代さまから数え、90年前に現れた勇者さままでで5名いらっしゃいます。その5名のうち、4名が聖獣さまを連れてたと記録に残っています」


「全員召喚された勇者なのかしら?」


「いえ、召喚されたのは初代さまだけです。それ以降は女神さまから加護を受けた方が勇者さまとして魔王討伐をなされています」


「そうなのね。その初代勇者は送還されたのかしら?」


「異世界から召喚された勇者さまは送還を断り、東の地へと旅立ったそうです。東方諸国の起こりは初代勇者さまがなされた事と言われていますね」


俺と兎はお互いに目を合わせ、俺たちは6代目と言う事になるのか?と考えた。


しかし勇者かぁ、俺がなぁ、まさか?ありえない。


と思う訳だが、考察した限りは、その異世界勇者召喚とやらに引っ掛かった結果、俺と兎はこの世界に居ると思われるし。


勇者、勇者ね。


うん、かなり興奮する展開だな!


「そう、ありがとう。それでは登録とやらをしてもらってよろしいかしら?」


「解りました」


ミラさんは、青い宝玉が設置された機械、おそらく証明書をつくる魔法装置なんだろうが、持ってきてカードを設置した。


この状態で宝玉に手を翳せば、自動的にカードへ登録されるとの事。


ちなみにカードの審議を判定するのは、宝玉にカードを翳し、発光すれば本物となるらしい。


凄い技術だなぁ、と考えながら兎が試すのを眺めていた。


「それでは聖獣さま、手を翳してください」


「ええ、解ったわ。ああ、それとミラさん、私の事はルナで結構よ」


「わかりました、ルナさま」


ミラさん、俺の事はさん呼びで兎はさま付けなんですね。


「真実の神プルーフに願う。この者の真実をその瞳に映せ」


まるで魔法の呪文のようにミラさんが詠唱すると、宝玉が輝き、青色が強くなる。


そして、カードへと何かが書き込まれていく。


その光景は魔法のようであり、興奮が抑えられなった。


あ、魔法か。


「おい、兎なのに反応してるぞ」


「やっぱり聖獣なのか?」


「しゃべるぐらいだし、獣人扱いされてるんじゃ?」


外野の声をBGMに、しばらく書き込みが続き、光が収まった。


ミラさんが装置からカードを取り出し、書き込みが間違いないか確認すると、驚きの表情を作った。


「種族とクラスが白兎?光魔法に、か、雷魔法!?そ、それに神の加護!?すごいです!」


「おいおいおいおい、どこの勇者さまだ、この兎!いや、白兎さまは!」


「マジか!本当に聖獣さまなのか!でも、それじゃあ種族が聖獣だよな?」


登録できただけじゃなく、すごいものが書かれていたらしい。


ミラさんが震える手で兎へカードを渡したので、俺も横から覗いてみる。




名前:ルナ


種族:白兎(メス)


レベル:1


クラス:白兎の●●


スキル:光魔法、雷魔法


加護:月神の加護


称号:白き獣、高貴なる智獣




「ふふ、さすが私ね。まさに白き衣を纏いし高貴なる白兎だわ」


「どこの勇者だよ!?てか、なんだ、その称号!」


「ぴったりじゃない」


「ありえねえ!くそ、兎でこれだ、俺ならもっとすごいものが!ミラさん、お願いします!」


「ひゃい!」




白い毛むくじゃらの齧歯類に負けてられるか!と俺も勢いよく手を翳して、登録を行った。


同じように宝玉が光り、カードに書き込まれるのをまだかまだかと待ちわびる。


そして出来上がったカードをミラさんが取り出し、確認する。


「種族は普通に人族ですね。あと、クラスが」


ミラさんは俺のパーソナリティを見て固まった。


なに?俺のもやっぱりすごいのか!と思って、俺、そして兎をはじめノランや周りの人たちも覗き込んだ。




名前:ナオヤ・トウドウ


種族:人族(男)


レベル:1


クラス:●●の従者


スキル:サバイバル、限界突破(限定)


加護:嵐神の加護


称号:白兎の守り手




「ナオヤも加護持ちか、すごいじゃないか。しかし、このクラスや称号はなんだ?」


「ルナさまもそうでしたが、ナオヤさんのクラスも文字化けしてますね」


「レベル1でスキルを二つも。ルナさまもだけど、すごいな」


「しかし、これって、もしかしてだけど」


「ああ、そうだな」


思ったのとはちょっと違うが、結構すごいらしい、称号に関しては物申したいが。


「あら、これって、あなた、私の」





「「「「白兎の従者?」」」」


「ありえねええええええええええええ!」


なあ、おい、信じられるか?


白い兎を追い駆けて、洞穴に飛び込んだら異世界へ転移して、勇者かと思ったら従者だった。


勇者と従者。


読みにすれば似ているが、一文字違いでえらい違いだ。


こんなの何かの間違いだ、と思いたい、いや違うはずだ!


これは、あれだ、きっと、俺が見ている


「はあ、こんな冴えない人間のオスが従者とか、とんだ悪夢ね」


「それは俺の台詞だ!」


夢だと言ってくれ、だれか!


ああ、親父。


やっぱり言う通りに登山なんてやめておけばよかったよ、本当に、心底!

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