白兎の従者~一文字で大きく違う異世界転移~

ゆうき

俺と白い兎のプロローグ

日本において携帯電話、スマートフォンが通じない場所は存在するのか?


もちろん沢山あり、その一つが山間部だったりする。


とは言え、人が住む場所であれば通じるために開拓が進んでおり、通じづらいと言う事はあっても何とかなる。


通じなければ通じる場所まで移動すれば良いじゃない、とほとんどの人は答えるだろう。


じゃあ、通じない場所、山奥で人里離れた、しかもバッテリーが切れかけており、常時確認なんてしてられないとしたら?


もし、そこが木々に覆われており、磁場の関係で方位も特定できない、四方が山に囲まれた場所だとしたら?


おそらく、ほとんどの人はこう答えるだろう。そんな場所にそもそも行くなよ、と。




「うん、親父の言う通りだった。いくらなんでもなめ過ぎてたわ」


俺は現在、日本有数の山岳地帯の山間部で迷子になっている。


なんでそんな場所に?と言えば、登山好きだった爺さんの一周忌の供養として来た訳だ。


爺さんが生前に良く登山に連れて行ってくれたし、今まで一週間山籠もりとかも体験している。


だから爺さんの夢だった場所に来たのだが、これがとんでもないところだった。


木々に覆われており日の光もまばら、磁場が狂っている、野生動物がそこら中にいる、携帯電話が通じない、というかGPS機能すらダメな場所だった。


夢だったのはこう言う事からで、別に体力や技術、装備がと言うレベルではなかったらしい。


いやいや、確かに自然豊かで人手の入ってない場所だから幻想的な風景が展開されてますよ?


図鑑でしか見たことがない動植物とか、不思議な色合いを見せる泉とか。


入り込んで2日目までは感動でいっぱいだったが、だんだんと疲労が、人外魔境ともいえるこの場所で行動してれば当然なこと、そろそろ帰ろうかな?と思ったときにそれが起きた。


ちょっとした事、疲労からくるミスなんだが、装備の一つを崖から落としてしまい、取りに降りようとして、リュックまで失ってしまったのだ。


崖を降りる際に枝にリュックを引っ掛けてしまい、枝を切ろうと鉈を振ればバランスを崩し、リュックに穴をあけ、転げ落ち、外れたリュックが亀裂の底に落ちていく。


それなりに体を鍛えており、もともと動体視力の良かったのが幸い?不幸?なことに、回る視界の中でリュックが落ちてどうしようもなくなる様を見ることができた。


不幸中の幸いの事に、怪我らしい怪我はせず、擦り傷程度で終わったのだが、後数日で人生が終わる可能性が大きい。


なんせリュックの中には簡易テントをはじめ、食料や燃料、水など生きるに必要な物が入っていたのだ。


今、手元にあるのは、破けまくってしまった登山服、転がりながらも手放さなかった鉈、ナイフ、繋がらないスマホだけ。


破けてしまった登山服を脱ぎ捨て、リュックから幸いにも零れ落ちていた衣服に着替え、ホルダーを身に付け、鉈とナイフを刺す。


スマホはポケットにしまい、何とか人里まで降りるため歩き出したのが、3日前である。




「朝露と木の実で凌いできたが、そろそろ限界だ。タンパク質、肉が食いたい」


今まで如何に贅沢だったのか解る状況だ。


金さえあれば、いや、実家に帰れば飯が食える、というか好きな物が手に入る。


綺麗な空気?感動的な光景?なにそれ美味しいの?な現状を体験したら、普段当たり前に思っていたことが


「奇跡ってな。うん、訳の解らない事をぶつぶつ言い出してるし、俺、相当やばいな」


だからだろうな、目の前で草らしきものを啄む、普段なら可愛いという感想がでる真っ白な野兎を見つけ、鉈を抜いて忍びよってるし。


何度かニワトリ、一度だけイノシシの解体とかした事があるから、兎なんて恰好の獲物と認識してしまうんだろう。


山に居るのに茶じゃなく白い毛並みの兎とか可笑しいと思わなくもないが


「美味しければ関係ないよね」


そんな呟きが聞こえたのか、兎はその特徴的な耳をぴんと立たせ、立ち上がる。


そして、振り向いて、その赤いつぶらな瞳と眼が合った。


「‘%&$#!」


もはや人語とは思えない雄たけびを上げて、走り出した俺に驚き、兎も駆け出した。


さすが野生動物だし、人が走るには不向きな地形だけあって中々距離が縮まらない。


「ぴょんぴょん跳ねやがって、これがリアル脱兎かっ!」


バイク並みの走力を誇る野生動物に人類が勝てる訳がない。


本来なら狙撃するか罠を張るなど、接近して仕留めるような相手じゃないのだから。


「だがしかし、俺はお前が欲しい、食いたい、よこせ、お前のすべて!!」


時折こちらを振り返る兎の表情は怯えが浮かび、俺に食われまいと飛び跳ねる。


ここでつかまれば、俺に美味しく頂かれるのだから兎も必死になるのは解る。


「解るんだが、俺も必死なんだ!さあ、その美味しいそうな体を俺に寄越せぇええええええええええ!」


火事場の馬鹿力、限界突破、ゾーン、と今の状況を表す言葉は数あれど、まさに俺は信じられない速度で走っている。


おそらく今の俺なら世界最速のタイムを叩き出すに違いない。


兎との距離が段々と縮まり、後少し、後少しであの美味しいそうな体に手が届くと言うところで、やつは先が暗くて見えない洞穴に飛び込んだ。


もちろんそんな事で諦める今の俺じゃなく、その洞穴に飛び込んで、一瞬目の前が明るくなったが何とかその手にもふもふなやつを掴み




「捕まえたぞ、ぷにぷにボディの兎ちゃん!さあ、お前は俺の物だ!」


「きゃあああああああ!いやぁああああああああ!犯されるぅううううううう!」




なぜだか異世界にやってきた。




これは、兎を追い駆けて洞穴に飛び込んだら異世界に来てしまった、藤堂直哉20才、趣味は登山とアニメ鑑賞な彼女なし男の物語だ。

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