防人達の宴(中編)
○横浜港大さん橋付近『とさ』士官室・
「今年は
昼間の艦艇公開の騒々しさとは裏腹に、今は静まり返っている『とさ』艦内。
しかし、ここ士官室だけは違った。
土佐の他に石見、黄龍ともう一人、照月がいた。
第2護衛隊群第6護衛隊所属の『DD116 てるづき』。横須賀にいるはずなのだが、なぜか横浜港付近に来ていた。
「はい、そうです。今、鞍馬海将や金剛海将達から色々とレクチャーされているそうです。ただ忙しいのか、少しやつれているように見えます。ちゃんと睡眠がとれているか心配です。」
今、多忙を極める姉を思い、心配そうな顔を浮かべる土佐。
「そういえば、石見3佐?
照月はそう言いながら、テーブルに用意されたお煎餅の入った皿に手を伸ばす。何種類かの味があるようだが、迷わず海苔が巻いてある醤油煎餅の袋をつまみ上げる。
「姉さんも出雲2佐と同じにやつれているように見えるのよ・・・受閲艦艇部隊って大変みたいね・・・」
お茶を飲みながら、出雲と同じく・・・いやそれ以上に忙しいであろう愛宕を思い、ため息を吐く。
「黒龍姉さんが言ってました。た、多分ですが、観閲艦の鞍馬海将、焦ってるんじゃないか?って。だから厳しいんじゃないかと・・・前回に引き続き観閲艦ですし、1~2年後くらいに加賀さんと交代だったはずですから。」
黄龍はお茶をすすった後、そう付け加えた。
『DDH144 くらま』は2012年10月14日に行われた観艦式においても観閲艦として参加している。
そして、『くらま』は、2015年3月に除籍となった『DDH143 しらね』の妹にあたり、2017年頃の『DDH184 かが』就役に伴い除籍の予定となっている。
この最大で最後の式典との思いが、焦りを呼んでいるのでは?と、黄龍の姉・黒龍は推測したらしい。
ちなみに黒龍『SS506 こくりゅう』は受閲艦艇・第4群に、『SS505 ずいりゅう』、『SS592 うずしお』と共に参加している。
「仕方ないと思うの。観閲艦なんて早々出来るものでもないし、それを2回も勤めるなんてプレッシャーも相当なものだと思うのよ。」
サラダ煎餅を手に取ると、袋の中で半分に割って片方を食べる石見。
黄龍は身の置き場がないかのように、肩をすくめたまま辺りをキョロキョロと見回している。
「黄龍1佐、大丈夫ですか?何か落ち着かない様子ですけど?」
「す、すみません。私がここにいても、い、いいのかと・・・」
無理も無い話である。土佐のSHー60Kや石見と照月のアスロックや短魚雷が黄龍を取り囲んでいる状態になっている。
本能的に危険を感じているのだから、落ち着けというのも難しい話である。
「大丈夫です、黄龍1佐。SHも今回は格納庫にいますし、石見3佐と照月3尉が短魚雷を簡単に打つとも思えません。お呼びしたのは私ですし、安全は保証します。」
黄龍の方を向くと落ち着いた声音で、安心させるように話す。
「あ、ありがとうございます、土佐3佐。お、落ち着けるように努力します。」
背筋を伸ばして土佐に向き直る黄龍だが、態度は言葉と裏腹だった。
土佐が何か言いかけたその時、突然照月が立ち上がった。
「あ、大変!来たばっかりなのにごめんなさい!そろそろ帰るみたい!失礼します皆様!」
食べようとザラメ煎餅を手に持ったまま、お辞儀の敬礼をしてそのまま退室した。
「土佐3佐、折角なのにごめんなさいね。私の所も何かあったみたい。大丈夫とは思うけど念のため戻るね。」
「も、申し訳ありませんが、私も戻ります。明日また来ますので、お許し下さい。」
「いえ、忙しいのに声をかけた私も悪いですから。時間がありましたらまた来て下さい。黄龍1佐、石見3佐」
立ち上がった3人はそれぞれ敬礼して、黄龍と石見は部屋を出た。
○『とさ』飛行甲板・2番スポット
一人、飛行甲板に気をつけの姿勢で
今頃は他の艦艇達同様に、当日の手順の確認などに追われているであろう姉に心の中で「お疲れ様です」と呟くと、挙手の敬礼をする。
もうすぐ観艦式本番
泣いても笑ってもすぐそこまで迫っている
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