へいヴん

だだ

第1話

 ここ白壁の街は、セックスとドラッグの聖地だという事で、クズ共の溜り場やら、この世の最果て、魔女の釜の底など、凡そ汚らしい通り名を欲しいままにしている不思議な街だ。


 街中のあらゆる全ての建物が白色で統一されている事以外には何一つとしてまとまりがない。

 ここに住む連中がよくも律儀に『白壁』に相応しいという理由だけで作られた条例を守っているものだ、とセスは今でも疑問に感じている。


 街の様子は三年前に住んでいた時となんら変わりはなく、相変わらず空き地ではドラッグパーティーが昼間から開かれ、裏路地では野犬がホームレスを襲い、商店街では日がな一日、店に物盗りが入るものだから怒声と罵声が止むということがほとんどない。


 そんな劣悪な環境とは裏腹に、この街の建物の白さを維持しているのが同じ住人達とはどうしてもセスには思えないのだ。

 

 壁の白のペンキが少しでも剥げ落ちていようものなら、ジャンキーに売人、娼婦に警官、ホームレスに、店主までと、ありとあらゆる人間が『白壁』を維持しようと、仕事もそっちのけでどこからかペンキを持ってきては白く塗りつぶしていく。


 セスは喫っていた煙草を『白壁』で揉み消し、ザックを肩に掛けなおすと、かつて自分の住んでいた工場跡に向け、力強く歩を進める。

 

 三年前にこの街を牛耳っていたマフィアから盗んだ金でこの街を出てはみたが、結局はこの街に戻ることになったのをセスはとても悲しんでいた。

 一緒にこの街をでた女は新たな土地で男をみつけ、ほとんどの金を持って自分の元から逃げてしまったし、ここ以外の清潔な街でセスが就ける仕事などなかったのだ。


 セスの出来ることと言えば、セックスと殺し位のものだ。

 ザックの中でガチャガチャと、銃と弾薬とナイフとが、重い金属音を響かせる。


 嗚呼、とセスはどこまでも真っ白なビル群からもっと上の青空を仰ぎ、溜息を一つ漏らし、戻ってきちまった、と呟いた。



 

 
























 

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