第3話

 族長カノウがみんなを鎮めるのに苦労していた。

「安心しろ。どんなことがあってもあきらめてはいけない。ドーピング・ウーの力はそんなに弱くない。みんな、よく考え、知恵を貸してくれ」

 みなが困惑する中、メキとジャラテクがやってきた。メキがいう。

「この宇宙はわたしたちの隣の宇宙よ。わたしたちの宇宙は隣の宇宙を食べて消化し、隣の宇宙の富を奪う食性宇宙だったのよ。わたしたちの宇宙に帰るなら、あの黒い巨大な触手に食べられればいいよ」

 メキのことばにみなが絶句した。

 ジャラテクがいう。

「だが、よく考えてくれ。消化される過程で死ぬかもしれない」

 ドーピング・ウーのみながその意味を考えた。

「『財宝わきいずる泉』があったのだろう。どれだけの数の宇宙を食らったかわからんな」

「我々の宇宙はそれだけ強い優れた宇宙なのだ。やったじゃないか。殺されても悔いはない」

「やはり死ぬのだろうか、我々は。まさか、みずからをつくった宇宙と戦うとは思わなかったぞ」

 その時、この宇宙の人類から通信が入った。

「貴様らはなぜわからんのだ。宇宙を食らい存在するあの宇宙が極悪の宇宙だということに。貴様らの宇宙は存在することを許されない許されざる宇宙なのだ。貴様らごと滅びよ」

 艦砲戦がおきた。それだが、宇宙船ドーピング・ウーは勝った。

 ジャラテクは考えていた。隣の宇宙の人類とも交流できるなら、そこにおれの仲間がいるかもしれないな。神殺しの夢を叶える助けになるかもしれない。おれもドーピング・ウーの一族の仲間に入れただろう。やっていける。おれを好きな女の子だって見つかるさ。メキがひょっとしたら、おれにふり向くかもしれない。がんばろう。まだまだ、がんばろう。

 だが、族長カノウはいった。

「いったい、我々が宇宙ワープした原因は何なのだ。もとの食性宇宙にいれば、我々は楽勝だったのではないか」

「原因はジャラテクよ。あいつのつくったリトルリップが原因よ。あいつは邪魔だ。わたしたちの仲間じゃない」

 メキがいった。一瞬、メキは宇宙ワープした原因が自分にあるのではないかと思ったが、信念を持って黙った。

 族長カノウがいった。

「ジャラテクを捕まえろ。やつはおれたちの仲間じゃない」

「嘘だあ」

 ジャラテクは絶望のあまり叫んだ。ジャラテクは個室に閉じこめられた。

「ジャラテク、宇宙ワープした秘密を話せ。話さなければ、拷問する」

 族長カノウがいった。

「無理だ。難しすぎて、あなたたちには理解できない」

 族長カノウは激怒した。話さない。こいつは。

「話せ。おれの拷問はあまくないぞ」

「教えない」

「拷問にかける」

 ジャラテクの拷問が始まった。


 族長カノウが拷問機を手にして話す。

「まず痛みを」

 激痛がジャラテクを襲った。

「話せ」

「断わる。誰がお前なんかのために」

「これは心を読む機械だ。お前が断わるたびに、お前が好きなもの、欲しいものを壊す。話せ」

 ジャラテクは何が起こるかわからず、無言だった。族長カノウは心を読む機械を使った。

「こいつは青色が好きだ。この部屋から青色を消せ」

 その部屋から青色が消された。

 何だ? とジャラテクは思った。

「次に痛み」

 また激痛がジャラテクを襲った。

「話せ」

「絶対に嫌だ」

「こいつは兄が好きだ。兄を殺せ」

 ジャラテクの兄は殺された。族長カノウの目は真剣だった。

 何だ、なぜ族長はここまでするんだ。ジャラテクは混乱した。死など悲しんでいる余裕はない。宇宙ワープの秘密は、それくらいに重要なことなのか。あれは事故であって、ジャラテクにもどうやったら宇宙ワープするのかわからないんだぞ。

「また痛み」

 激痛がジャラテクを襲った。

「話せ」

「嫌だ」

「こいつはメキが好きだ。メキを殺せ」

「うわああ」

 ジャラテクは思った。リトルリップする。宇宙船ドーピング・ウーの外郭が極無限拡大し、穴が開く。

「メキ、逃げるぞ。食性宇宙に飛びこむんだ」

 ジャラテクは叫んだ。あんな宇宙を食らう宇宙が怖いものか。抜け出れば『財宝わきいずる泉』だ。

「勘違いするな。ジャラテク、わたしはお前の敵だ」

 メキがいう。

「何でもいい。飛びこむんだ、メキ」

「誰がそんなことを。真の仲間ならば、拷問ぐらいでわたしを殺したりはしない。いや、わたしは殺されたりしない」

「あまいな」

 族長カノウがいった。メキの首をはねた。目が点になるメキのかわいい目。部屋に満ちる血液。

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