第一章 チュートリアル
1話 現状把握
さて、頭を整理するためにプロローグっぽく語ってみたわけだが、事態が好転するわけでもなし。
とりあえずは、周りの様子を把握しておかないとどうにもならないだろう。
『つまり、君達は私達の玩具として選ばれ、呼び出されたというわけだ』
顔の造形が恐ろしく綺麗な男か女かわからない『奴』がそういって話を纏めているようだ。
『奴』が言うには、奴を含めた神様に選ばれた人達が、この世界に呼び出された。
ただ人数が中途半端だったから、切りのいい100人にしようと、適当に基準を満たしているのも拾ってきた、というわけだ。
自分がどっちなのかというのは気になるところだが、まあ後者なんだろうな。
ステータスなんてのもあるが、そこから確認できるわけでもない…というか、この表示、ナンバー表記に名前とレベルと職業に種族、あとスキルしか表示されてないのは、人の細かいところは数値で測ることはできない…ということなのか。
『その方が面白いからさ』
あ、違った、というか心が読めるのか。
いや、そんな楽しそうに手を振りながら肯定しなくてもいいから、他の人の質問に答えてあげて?
仕方ないなぁ、という素振りをしながら『奴』は質疑応答を再開したわけだが…一応他の人達がしている質問を聞きながら、周りの状況確認をするとしようか。
場所は…建物の中みたいだが、正直内装からはよくわからない。
周りにいる召喚されてきた人達を見ると、金髪に青髪、赤髪に銀髪とまあ色とりどりだこと。
…エルフ耳や獣耳、二足歩行の虎や狼や豚もいたのを見ると、まだ自分は人間である分よかったんだろうかと思えなくもない。
俺か?
まだ鏡を見たわけじゃないが、毛皮もないし、耳も人間だよ。
ただ、召喚前より肌が白くて、若々しくなってて、視点が低くなってるな。
髪は同じ黒髪だけど、結構長くなってて、サラサラしてるよ。
あとは…なかった胸があって、股間にあったアレがなくなってるだけだ。
…つまりは女になってるわけだな。
ん、どうしてそんなに落ち着いているかって?
そりゃ、この状況で気が狂ったのか暴れだした二足歩行の豚や自分のスキルについて『奴』に文句を言った人が『奴』の指パッチンひとつで頭破裂されたの見せられれば、仕方ないって思わないか?
他に誰かいるかい?って異様に綺麗な笑顔で言ってくるんだぜ?
それに、あれは同じ人間を見る目じゃないっていうんだろうな…神様っていうのもわかる気がしたよ。
まさしく、俺達は『奴』らの…神の玩具ってことなんだろう。
語ってるうちに他の人の質問が進んでるな。
俺達がこの世界でなにをするのか、スキルとはどういうものか、元の世界に帰れるのか、等々王道で鉄板な質問ばかりなわけだが。
この世界はいろんな国があっていろんな種族がいて、当たり前のように国同士の戦争もあるわけだ。
勇者に英雄、神子や聖女、魔王やドラゴンっていうのもいるし、王族や貴族が通う学園っていうのもあるとのことだ。
まさしく、異世界召喚、異世界トリップのテンプレ詰め合わせってやつなんじゃないかって思えてるよ。
そんな世界でなにをするか…好きにしてくれればいいってさ。
そういう世界に刺激になりそうなものを送り込んだらどうなるのか、そして送り込んだ人達がどうなるのかを見て楽しむんだそうだ。
『奴』ら神様達にとって、暇つぶしのゲームってことなんだろう。
とはいえ、ただ送り込んでも死ぬだけだってことで、こうしてチュートリアルを開いてくれてるというわけだ。
ありがたくて涙が出そうだよ。
で、次にスキルについての話だな。
とはいっても、ステータス表記に載ってて、名称から効果を推測するだけだそうだ。
ああ、まずステータスボードの説明からになるか…まあ、単純に念じると自分にだけ見えるステータスボードが出てくるだけだよ。
そこにナンバー表記と名前とレベルと職業と種族、そしてスキルが羅列されてるわけだ。
Number:52
Name:佐崎 有耶(サザキ アリヤ)
Lv:1
Job:無職
Race:魔女
Skill:冷静、魅力
俺の場合はこんな感じか。
52番って微妙…。
あ、職業はJobで種族はRace、あとスキルはSkillって英語でアルファベットになってるけど、これは気にしないでもいいか…わかりやすくするためなんだろう、多分。
冷静っていうのはそのままなんだろうが、魅力っていうのが意味わからなかったな。
ああ、もしかしたら、この冷静ってスキルが現状把握の手伝いをしてくれてるのかもしれない。
『奴』が言うには、神様からの加護としてのスキルと元々素養のあった才能のスキル、あと種族特有のスキル、というのがあるらしいが、全部まとめて羅列されているから、どれがどれかは俺達には判断がつかない、というのが考察班による考察だな。
ん、考察班っていうのは、これもそのまんまだな。
召喚された人達の中には、こういう異世界召喚を喜ぶ面子もいるわけだ。
そういう面子は総じてラノベやそういうので得た知識が豊富なんだ。
俺もそこそこのつもりだったが、本職には敵わないと思いしらされたよ。
とはいえ、そういう面子はこういうときに頼りになるわけだ。
ステータスは人に見えないから自己申告になるわけだが、それでも自分だけで考えるよりは納得できると思えたよ。
ああ、それで職業と種族…ジョブとレイスもそのままだな。
職業はまだ全員無職のようだが、『奴』がいうにはこの世界で特定の行動をするとつけるらしい。
種族は二足歩行の虎はワータイガーで、二足歩行の狼はワーウルフだそうだ。
ちなみに二足歩行の豚はオークで、エルフ耳は普通にエルフで、獣耳は獣人・猫とのことだったよ。
ワータイガーやワーウルフは獣人じゃない?っていう意見もあったけど、『奴』曰く顔が人か獣かで区別してるそうだ。
他にもドワーフやオーガみたいなのもいたけど、一番多かったのは人間だったな。
1人ずつしかいなかったのは、俺の魔女と今までに上げたワータイガーとワーウルフだな…こういう場面でのオンリーワンは運がいいのか悪いのかわからなかったよ。
俺の魔女っていうのは、そういう種族らしくて、曰く魔性としての性質を持っている、らしい。
スキルの魅力っていうのはこの魔女特有のものということだが、正直実感はないんだよな。
まあ、今は自分の名前が男女どちらでも問題ないってことが良かったと思えたよ。
名乗るときにそこまで気にしないでもいいからな。
他に性別が変わった人がいれば、言い出しやすいんだが、自分だけそうだと思うとなんとなく言いたくないと思わないか?
聞かれたときには言うんだろうけれど、そのときのことはそのとき考えるとするさ。
さて、『奴』からのチュートリアル説明もそろそろ終わりのようだ。
この建物内に番号の振られた部屋があるとのことだ。
各自の番号の部屋で今日はそこで休んでくれとさ。
他の人達とコミュニケーションを取るもよし、明日のために休むもよし、各自の好きにしてくれればいい、か…。
とりあえず部屋で休ませてもらうかな、あとのことは一息ついてから考えよう。
…部屋は個室でシャワー付きの割といい部屋だったよ。
と、いうか元いた世界の自室と全く同じだった。
神様のサービスってことなのかもしれないな。
そんなことを考えながら、シャワーも浴びて一息つけたな。
そういえば、女になって初めて鏡をみたが、割と普通だったよ。
十人並み、と言えばいいか、まあ、そんな感じだ。
女の体については、俺が二次元にしか反応できない童貞だったことを先に告げておけば、わかってもらえるだろうと思いたい。
髪が伸びてて、手間がかかったが、神様の助けなのか、ありがたいことに魔女と女性のことについてのマニュアルが置かれていたのが本当に涙が出そうになるほどありがたいと思えたよ。
神様ありがとう!
え、どうして礼を言うのかって?
さっきも少し語ったが、性別が変わったことをわざわざ自分から言いたくないし、説明するのも面倒だって思わないか?
普段の言動は社会人をやってたんだ、ある程度の丁寧口調はできるさ。
仕草まではどうにもならないが、それでも知識はあっても困ることはないだろう?
このマニュアルが合ってるかは知らないが、ないよりは頼れる分よほどマシさ。
さて、じゃあ一息つけたから、他の人との交流に行ってみるとするか。
交流スペースまで用意してくれているなんて、神様達は遊びにそれなりに気合いれてるってことか。
とりあえず、話しやすそうな人から声をかけていこうと思うが…インドアなアラフォーの俺には初めての相手に話しかけるのもある意味ストレスになるんだよな。
まずは適当に挨拶と会釈をして、会話に加わらせてもらえばいいか。
こんばんはっと。
「あ、こんばんは」
「こんばんはー」
「ばんはー」
人数が多いと挨拶返しも多くなるのは仕方ないことだ。
そういうのもわかっていて、会釈だけで済ます人もいるが、個人的にはその方が気楽だから、助かるな。
それにしても、一息ついて多少は落ち着いてるのか、それとも一時的な現実逃避か、見た感じそこまで悲壮感がない人も結構いるようだ。
明らかに悲壮感満載という人もいるにはいるが、なるべく触れないようにした方がいいんだろう。
まずはともあれ自己紹介をしておこうか。
年齢は秘密ということにしておくとしようか、見た目も割と地味な俺のことをそこまで深堀りする人も多分いないだろうし、問題ないだろう。
案の定、深堀りする人はいなかったし、話を聞いてるとしようか。
話を聞いてみると、元々同じ場所から召喚されたという仲良しグループのようなものもあるみたいだ。
俺の知ってる人が誰もいないから、ランダム召喚かと思っていたが、そうでもないらしい。
まあ、見た目が変わっているから、わからないだけかもしれないが…知り合いがいなくて良かったのかもしれないな。
ワータイガーの人やワーウルフの人は社会人だそうだ。
同じ獣顔同士、仲間意識というやつだろうか、割と仲良くなっているのはある意味当たり前なのかもしれない。
一応部屋に個別マニュアルがあったか聞いてみると、彼らの部屋にもあったそうだ。
ちなみに仲良しグループの部屋にはなかったということから、多分種族が人間以外の人にあるんだろう。
気さくな人達だったから、聞き専でたまに振られたときに返事を返しているだけでも話が進んでくれて助かった。
これからどうなるのか、そう弱音をこぼす人もいたが、それに対しては気楽に答えは返せなかったな。
すでに100人の内2人が脱落してるわけだし、明日自分がそうならないとも限らないわけだ。
けれど、こうして知り合えて話せたんだから、できる範囲で助けられるときは手助けするよ。
こんな風にそれなりに友好的にできたんだ。
せっかくコミュニケーションに割いた時間を無駄にしたくはないし、人脈はこういうときにはきっと大切なものになるだろうと思うから、な。
我ながら打算まみれの言葉だが、こういうときに楽観的で無責任な言葉を言って、後でなにかあったときに責められるよりはマシだろう。
それに、こんな言葉でも笑って受け止めてくれたんだから、それでいいと思うんだ。
そろそろ遅くなってきたようだから、休むとしようか。
話していた人達にも、適度に切り上げて休むようにだけ伝えておくとしよう。
それじゃ、おやすみなさい。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「良い夢を」
そんな声が後ろから聞こえたから、軽く振り返って手を振っておこう。
皆良い夢が見れるといいと、今は心から思うよ。
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