第3話 心の底は闇

「初めまして」

 トマトレッドは湧きあがる喜びを抑えて、コバルトグリーンに挨拶をした。

 この黒の帝都にあって、こんな光に満ち溢れた建物を隠し持っていることの素晴らしさに感激していたのだ。心強い味方ができた。トマトレッドの気持ちは、仲間が増えた喜びで一杯だった。

 それに対して、ターコイズブルーの反応は冷ややかだった。

「こいつがトマトレッド。あたしに呪いをかけた張本人だよ」

 そういうと、また口から血を吐き出した。

「おれが呪いをかけたわけじゃないよ。おれたちは黒の帝国にはめられているんだ。本当はおれときみが恋に落ちる未来を変えられてしまったんだよ」

 トマトレッドがそういうと、ターコイズブルーは泣き出しそうになった。

「本当に、本当にあたしとあなたが恋に落ちる未来があったの? あたしは体が苦しくて、それどころじゃないわ。あたしは、あなたに恋なんてしてないもの。ただ、助けてくれて感謝しているだけ」

「結局、助けきれなかったけどね」

 トマトレッドは申し訳なさそうにいう。

「コバルトグリーン、わかるでしょ。あたし、トマトレッドについていくわ。それが一番いいと、あたしは思うの」

 ターコイズブルーはそういった。

 それを聞いて、コバルトグリーンは悲しそうな顔をした。

「優しさが大切よ。心の底からあふれてくる優しさをもつことが大事なの。今のあなたにそれがあるとは思えないわ」

 コバルトグリーンがいう。

「大丈夫。あたし、この黒の帝国でのし上がるの。絶対に、のし上がってみせる。そのためには、トマトレッドについていくしかないでしょ。これでいいのよ」

 ターコイズブルーが自信ありげに、わずかばかりの焦りも垣間見せながら、コバルトグリーンを説得する。

「いったいどういうことかわからないけど、ターコイズブルーが一緒に来てくれるっていうなら、おれは絶対に守ってみせる。それで、光り輝く星を見つけるんだ。絶対に見つけてみせる。ターコイズブルーにこれ以上、手を出させたりなんてさせないよ」

 トマトレッドが少し大袈裟なことをいう。

 それを聞いて、コバルトグリーンは悲しそうな顔をするのだった。

「あなたは光の使者に会ったことがあるのね」

 コバルトグリーンが唐突に核心をつくことを聞いた。

 それに答えることは、さすがのトマトレッドにもはばかられた。

「あなたはあるのですか、コバルトグリーンさん」

 質問に質問で返すトマトレッド。

 答えづらい話題だ。

 光の使者は、黒の帝国における光のものたちの最後の希望だった。光なきものたちの支配する黒の帝国にあって、光あふれる世界をつくるために秘かに策動しているといわれている。光の使者のことだけは、何があっても守らなければならない。

「残念だけど、わたしはないわ」

 コバルトグリーンが答えた。本当だろうか。だが、嘘だとしても、そう答えるべき返答だった。光の使者については、光に従うものたちにとっては絶対に守らなければならない秘密だからだ。

「おれは絶対に光り輝く星を見つけますよ」

 トマトレッドが宣言した。

 この暗黒の支配する宇宙において、光り輝く星を見つけることがどんなに困難なことか。

 宇宙の色は、黒色。宇宙は黒色が支配しているのだ。その宇宙を支配する黒の帝国にとって、光り輝く星は邪魔者。即刻、滅ぼすべき対象だった。

「わたしには、どうしたらいいかわからないわ」

 コバルトグリーンはそういって、悲しそうに二人の旅立ちを見送ったのだった。

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