第1章 最果ての国9
ミルディを奇妙な心地が包んでいた。
猛烈な気怠さに屈してしまいそうだったけど、ミルディは薄く目を開けた。
視界が暗く閉ざされていた。寒々とした冷気が、辺りで渦を巻いていた。おどろおどろしい陰気さが包んでいた。
耳の側に、カチャ、カチャと軽い音が近付くのを感じた。
ミルディが顔を上げる。そこにいたのは、古いローブを身にまとった何者かだった。その者の体を、ずっと視線で追っていくと、髑髏の頭に辿り着いた。
いうまでもなく、地獄の死者、死の御使いだった。
ミルディ
「己を迎えに来たのか……」
死の御使いはミルディの前で足を止めて、じっと見下ろした。眼球を失った髑髏の穴が、じっとミルディを見詰めていた。体がひどく冷たく感じた。
死神
「お前じゃない。イーヴォール……イーヴォール……どこだ? イーヴォール……」
死の御使いは、女の名前を呼びながら、ミルディの側を通り抜けていった。
ミルディはふっと安堵に包まれた。
すると、体が何者かに掴み上げられた感覚があった。奇妙な浮遊感がしばし体を包んでいた。
唐突に、世界は色彩を帯び始めた。草原がゆるやかに波を打ち、黄昏が落ちる様がくっきりと浮かんだ。
体が不安定に揺れていた。太陽のぬくもりを感じた。
馬に乗っているのだ。誰かに馬の背に乗せられて、草原を進んでいるのだ。
バン・シー
「眠っていろ。まだ休息が必要だ」
あの洞窟で見た、女の顔だった。
どうやらこの者が闇の世界に連れて行くつもりらしい。ミルディはかすかに微笑みを浮かべて、意識が暗転するのに身を委ねた。
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