無頼の帝国~帝政アメリカ短編集~

筑前助広

第一回 ジェシーは最速の銃士(ガンマン)

<あらすじ>

 俺は、ジェシー・クランス。西部一の早撃ち銃士ガンマン。先の戦争では3桁の南軍兵士を撃ち抜いた。そんな俺と相棒のオリヴィア二世の前には敵はいねえ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 奴の右腕が動こうとした時、俺は撃鉄を起こしていた。

 耳をつんざく銃声。その僅か数コンマ後に奴の身体が吹っ飛び、砂煙舞いたつ乾いた街に倒れた。

 歓声が挙がる。街の住人だった。

 口々に、俺の名を呼び称える。


「ジェシー最高だ」

「ジェシー・クランスこそ、最速の銃士ガンマンだ」


 俺は相棒のオリヴィア二世を掌で弄んでホルスターに収めると、観衆に向かって肩を竦めた。

 よせやい、本当の事を言っちゃ冗談にはならねぇもんだ。

 倒れた男は、大鼻ビックノウズのカーストン。このセブンスポイントを牛耳る無法者ギャングの親玉である。

 歳は五十二。死んだ親父と同じ歳だ。だからとて、何の感慨も無いが。

 大鼻ビックノウズのカーストン。元はトゥーラン牧場の牧童カウボーイだったという。だが、先の戦争で良心というものを忘れてきたのか、戦後は牧場主を撃ち殺すと、そこを根城にして子分二十五人を抱える首領ボスと化した。

 それも、これからは過去形で語られる。この三日で、二十五人の全員撃ち殺したのだ。

 仕事だった。子分一人で金貨五枚。カーストンは、金貨五十枚。依頼者は、この街の住人で、わざわざ俺を探し出し、依頼したのである。


「あんたしかいない。街を救ってくれ」


 殺し文句だった。男をくすぐられたのだ。俺は二つ返事で引き受け、今カーストンは倒れている。


「まだ、勝負は決しちゃいねぇぜ、街の衆」


 俺は、燐寸マッチ革靴ブーツで擦ると、葉巻に火を着けた。そして、倒れたカーストンに歩み寄る。銃は手から離れているのは確認済みだ。

 元首領は、赤い髭面を俺に向けた。鳩尾を押さえ、苦痛に顔を歪めている。

 葉巻の煙を吐く。甘ったるい臭い。南部ディナン産の煙草だ。この匂いを嫌う奴もいるが、俺にはこれが堪らない。


「腹か。胸を狙ったのだが」


 呟き舌打ちをすると、カーストンが微かに笑った。


「まぁ、笑われても仕方ねぇわな」


 オリヴィア二世を抜き、カーストンの眉間に突き付けた。


「言い残す事は?」


 俺は訊いた。


ファック

「他には?」

ファックだ」

「上等だぜ、悪党」


 俺は低く笑うと、撃鉄を起こし、引き金を引いた。

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