俺たちコミュ障卒業し隊!

ちきん

俺たち仲良し5人組

 季節は夏。外でしつこいほどうるさく鳴いている蝉の声を嫌というほど聞きながら、中学2年になった俺は、授業中に消しゴムを並べて遊んでいた。

 授業は真面目に聞いている、とりあえず先生から出された問題も解き終えたので、こうして暇つぶしにドミノ倒しをするように消しゴムを並べているのだ。


「こら平沢、問題を解き終わったからといって遊んでいいわけではないぞ」


 先生から頭をチョップされると、平沢ひらさわかえでこと、俺楓は小さな声で「はい」と返事をした。

 俺はコミュニケーションをとることが非常に苦手である。友達は小さい頃から一緒で、同じ歳の幼馴染が4人いるのだけど、他の人たちとはなかなか思うように話せない。自分の言いたいことも全て、いざ話すとなると緊張して言葉にならないのだ。

 そのせいで今のクラスではいつも1人、話しかけてくれる人がいないわけではないが、会話が長く続かない、もしくは会話にならないため、誰かが俺のところにきたとしてもすぐどこかへと離れていく。

俺は、若干茶色がかった髪を片手でくしゃくしゃと搔き上げると、このあとも続くつまらない授業をただジーッと眺めるのであった。


 …別に、他人と話すのが嫌というわけではない。苦手なだけなんだ、話せるようになりたいし、近くで集まってるあのグループみたいに俺もいろんな人と関わってみたい。

 休み時間、俺は俺の席の近くで駄弁っている男の子3人をみて、ふとそう思った。

 まあ、グループといえば…俺にもあるのはあるんだけど。

 俺は席から立ち上がると、教室をでて、いつも皆が集まっている図書室へと向かった。

 俺たちがまず集まるのは図書室である、そして皆が揃ってから中庭やら廊下やら体育館裏などに移動するのだ。

 図書室は本を読む場所であって皆でワイワイするような場所ではないからね。

 俺は図書室へ着くと、目の前にある扉を静かに開けると、男子1人、女子2人が座っている椅子の近くまで歩いて行った。

 ここにいる3人は全員俺の幼馴染であり、唯一俺が普通に話すことのできる同級生である。まだ1人ここにきていないけど


「あ、楓っ。今日いつもより遅いじゃん、どしたの?なんかあった?」


「別になんでもないよ、ただ、先生に少し怒られただけ」


 俺は爽やかスマイルで話しかけてきた男の子、牧野まきの隼也しゅんやに向かってそう返すと、近くに置いてあった植物の図鑑を手にとって近くの椅子に腰掛けた。

 隼也は基本爽やかな雰囲気を自然と出している一見普通な…いや、人気者の中にも入りそうな感じだけど、知らない人と話すとなるとすぐにキョドッてしまい、思うように喋れなくなる…正確には言葉を噛みまくる。俺と同じ病を持った1人である。


「ねえ楓…中学生にもなって図鑑はどうかと思うんだけど…」


 俺の手に持っている本を見て、向かい側に座っていた女子の1人、五十嵐いがらしあずさはそう言って俺の本を指差した。


「梓だって、絵本読んでるじゃん」


「 …ッ!?えっ、絵本を読んじゃないし!こ、これは私が読んでたわけじゃないんだからっ!」


 梓は顔を真っ赤にしながらそう噛み噛みな口調で言うと、咄嗟に近くにあった小説と手に持っていた絵本をすり替えた。

 いや、別に絵本がダメだと言ったわけじゃないんだけどね?

 ていうか、みんな梓が手に持ってたの見てたのに今更取り替えたところで意味ないよ…。


「梓ちゃん、汐は別にいいと思うよ。汐も絵本好きだなぁ…」


 今、真っ赤な顔で一生懸命小説の長々しい文章を眺めている梓に向かって言った女の子は天宮あまみやしお、いつもゆったりとしたマイペースな女の子で俺たち幼馴染たちからはしおちゃんと呼ばれている。このマイペースのせいで毎回他人と喋るときは会話についていけず、すぐに黙り込んでしまう。

 俺たちと話すときはちゃんと会話についてこれてるんだけど、やっぱりリラックスしているときと緊張しているときとでは違うのかもしれない。

 難しそうな表情で一向にページをめくろうとしない梓を見て、俺が苦笑いをしながら近くにあった絵本を手渡すと、「別に…読んでほしいなら読んでもいいけど、楓には見せないから」と返事をしながら梓はその絵本を手にとった。

もう少し素直になったらいいのに…。

 俺がはぁ…とため息を吐くと、梓はまた顔を真っ赤にしてフンっと俺から顔を背けた。

 この通り梓は全くもって素直じゃなく、またその自覚もあるせいで、俺たち以外の人には全く口を開こうとしない。

 昔ちょっとした事件もあったし、俺たちの中では一番梓が深刻なのかもしれない。

 読む本の種類が絵本に変わった瞬間笑顔でパラパラとページをめくっている梓を見ていると、ガラリと大きな音をたてながら金髪のハーフらしき女子が図書室の中に入ってきた。そして、ドアを開けっ放しにしたままこっちへ走ってくる。


「おいおい…ちゃんとドア閉めて入ってこいよなー、あと強く開けすぎ!まあ、桐乃がきたからもう図書室からはでるけどさ」


 いつもは爽やかな隼也がその入ってきた金髪びしょう…小泉こいずみ桐乃きりのに対して注意すると、椅子から立ち上がった。

 桐乃は天真爛漫な性格であり、このグループの中で一番活発な女の子であるが、知らない人に話しかける勇気がなく、他人と対面したときは人が変わったように大人しくなってしまう。


「よし、じゃあ今日はちょっと屋上の方行ってみようよ。ちょっとみんなに話したいことがあるんだ」


 俺はそう言うと、まだ椅子に座っている梓と汐の手をとってその場を立ち上がった。

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