第11話『答え合わせ』
さて、答え合わせをしよう。
最後に俺がした質問が全てを物語っているわけだが、少しぐらい格好つけたっていいじゃないか。少しぐらい、探偵役を気取ってみたって。
俺が最後にした質問。それは『死体は本物の人間の死体なのか?』というものだった。そして、その答えはノーだった。つまりこの現場は、死体なんてものはなくて、そもそもこの問題で人は死んでなんかいなかったということになる。
そう考えれば全てに辻褄があう。
生首や腕、足は作り物。足と腕が血塗れの状態で新聞紙の上にあったのは、きっと血の色を塗った後で乾燥させたかったからだろう。この教室では文化祭に向けてお化け屋敷の準備をしていたのだ。
生首だけ教卓の上にあったのは、きっと前日、最後にこの教室を出ていったやつが悪戯として置いたからだろう。中々いい出来だったから試しにクラスの人を驚かせたかったなんて心理になるのは自然なことだと思う。きっと俺でもやるはずだ。同時に、悪ふざけも大概にしろと怒られてしまえとも思うが。
教室の鍵についてはただの戸締まりだ。教室の鍵を閉めるなんてことは滅多にないが、教室に誰も入らせたくないからという理由で教師に頼み込めば出来ない話ではないだろう。生首に突っ込んであった方の鍵はただの鶴ヶ谷の演出ということにしておく。実は鍵が一番関係ないものだったのだ。正直、それが本当の鍵なのかも分からないのだし。
血痕が無いのは必要以上に教室を汚してはいけないから。文化祭終了後の後片付けを考えれば、教室は汚さず段ボールなどに赤を塗って演出するだろう。
凶器はそもそも誰も殺していないのだから必要ない。もしかしたら演出の小道具として作られるかもしれないが、それは関係のない話だ。
だから、俺が途中でした刑事ドラマを真似た質問はとても頓珍漢な質問だったということになる。答えがわかってしまうと、間違いとは恥ずかしいものだ。鶴ヶ谷も笑いをこらえるのに必死だったことだろう。
と、これが答えだと言いたいところだが、これでは丸は貰えないだろう。先に言った通り、この問題の答えは『分からない』なのだ。
何が分からないのかと訊かれれば、何もかもが分からないと答えるしかない。犯人は当然分からないし、そもそもこれが事件だったのかも分からない。推理すべきものも分からないのだ。
ここまで来ると、これが問題として成立しているのかという疑問まで浮かんできてしまう。いや、もしかしたら『この問題に意味はない』というのが答えなのかもしれない。とんだ屁理屈だ。
「屁理屈か。うん、確かに屁理屈だね。でも、クイズに毎回屁理屈で答える君にはピッタリでしょう?」
答えあわせが終わると鶴ヶ谷はそう言って笑った。別に俺は屁理屈が好きなわけではないのだが。ピッタリと言われても嬉しくはない。
「それじゃあ答えあわせも終わったことだし、最後に感想でも訊こうかな。一応、これ全部考えたの私だし。どうだった?」
いつの間にか鶴ヶ谷は教卓から降りていたらしく、俺の目の前にいた。鶴ヶ谷は俺よりも背が低いため必然的に上目遣いになる。ちょっと嬉しい。
感想についてはただ一言『まあ楽しかったよ』とだけ答えた。本心だ。それ以外は特にない。推理マニアなどではないから、推理の内容について訊かれても困る。
しかし俺のそんな一言だけの感想でも鶴ヶ谷は満足だったようで、照れ臭そうににへへと笑った。可愛い。いやなんでもない。
「それじゃあ、そろそろ下校時刻だし帰ろっか?」
黒板の文字を消しながら鶴ヶ谷は言った。俺は机を元の位置に戻しながらそうだな、と答える。
教室の状態を、推理ゲームを始める前までの状態に戻してから俺達は教室をあとにした。『また明日』なんて言って手を振りながら。
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