第11話 真夜中のハーモニー

ひゅーーーーーーー・・・・・・・・・・・・




ふわっ



すとん




はー、驚いた。いきなり穴の中で、いきなり落とされるって心臓に悪いわね



「鏡、風魔法ありがとう」


「いえ、王妃様。必要ないかもと思いましたが、念のため掛けさせていただきました」



あの高さから落っこちて、クッションが必要ないかもと・・って、鏡は期待過剰よ。今の身体では、さすがに無理だと思うわ




少し身体をほぐし、異常が無いことを確かめる

うん、比較的好調ね



しかし、まぁ・・周りを見渡す


・・・・んー、薄暗い感じね



例えるなら、夜明け前の薄暗さ

太陽は見えないけれど、視界は確保できる程度の明るさ



ふと、上を見る




ある程度以上は、薄暗さも手伝ってか見ることは出来ないのだけれど


空間を越えた感覚は無かったので、きっと天井はあるはず。そんな気がするわ



周りは湖?川かもしれないけれど、水に囲まれている・・のかしら?

対岸が見えない所もあるのだし、海の可能性もあるわね

そして、目の前には平屋のレンガ造りの建物。人家だとしたら結構裕福なのかも



「鏡、あそこの建物は?」


「はい、王妃様。あちらは船着き場でございます。」



なるほど、ここは田舎の船着き場なのかもしれないわね


ちょっとした補給なんかをしている場所だとしたら、色々な情報が聞ける可能性もしれないわ



早速、扉を開けて近くにいた男性に声をかける



「あのー、すみませ・・」


「あんた、見ない顔だね。そうか!上の世界からやってきたんだろう!」


え?なんでバレてるの?


「ここは闇の世界・・・・ん?その装備はあそこで買ったやつだな。なんだよ上の人じゃないな。全く期待させんなよー。それより、んー、新しく買ったばかりの装備品を見ると・・ははーん、一人立ちしたから勝手に旅行こうってつもりだろ!それより船はどうしたんだ?さては、ここじゃない所に泊めて、魔物に壊されたんだな。だから言われてるだろ?この島だけは魔物避けが設置してあるこの港に泊めろって。全く、たまには大人の言うことは聞かなくちゃいかんぞ!ガッハッハ」


あ、あのー・・



一気に話を進めるガタイの良いおじさん


こっちの話は聞く気も無さそう・・でも、面白い情報も聞けたから良かったわ



ひとまず、対岸にうっすら見えるお城の方へ向かえば、そのお城とその城下町があるみたい


取り敢えず適当に話を合わせて、そこそこの船を一艘貰えることになったけれど・・タダで大丈夫なのかしら?



ーーーーーーーーーーーーー



おじさんと、その子どもに見送られ船を進める




舵もいらない初めて動かす船だったのだけれど、鏡のお陰で不安はないのが幸いね



さぁ、海の旅の始まりよっ!!








と、思っていたらすぐに対岸。まぁ、見えていたしね!分かっていたわよ!



・・船はこのまま岸に置いたままで良いらしい。あそこの魔物避けが効いているからと言っていたけど・・もし本当なら、大分進んだ技術ね



さて、徒歩であの城まで行くのだけれど・・うん、近いわね

途中で魔物に襲われる訳でもなく、水色と橙色の可愛い生き物を横目で見ながら、20分も経たずに街に到着



なかなかの城下町ね。石畳の道にレンガや木材で作られた大きな家々。道行く人々も、そこそこの人数・・・・あれ?


「鏡、今って真夜中よね?なんで人が一杯いるの?」


「はい、王妃様。裏の世界であるこちらの時間は、表の世界とはほぼ反対でありまして・・現在14時34分となります」



んー、太陽も出てないのにお昼過ぎ・・あ、そうか。ここは地下だものね。何だか色々と常識が塗り替えられていく感じがするわ


それにしても・・街の人の表情は暗いわね。子どもたちの笑い声や、井戸端の楽しそうな声は聞こえてこない



入り口付近でうろうろしている男の人に、ちょっと声かけてみようかしら



「あの、すみませ」

「ガナバトスの町に、ようこそ」



・・・・・・ん?



「ちょっと話を」

「ガナバトスの町に、ようこそ」



・・・・え?





「・・フゥ・・あ」

「「ガナバトスの町に、ようこそ」」




二人の声が綺麗なハーモニーを奏でる




うなずき合い、爽やかな、それでいて満足した顔でハイタッチをする男二人









うん、これ以上の情報は貰えないわね。違う人に話を聞きましょう







結局、この日はギリギリまで町の人に話を聞き回って終わってしまった


戦いに行きたかったのになー・・


ま、慌てなくても大丈夫よね!




鏡の作るゲートは、世界同士を結ぶことは出来ないようになっているらしい


なので、裏の世界側の出口付近にゲートを設置してもらい、そこから表の世界側に設置してあるゲートまで目測で200mくらい飛んで行かなくてはならない


ま、鏡が設置してくれる足場を使ってジャンプしていけば良いだけなんだけれども



無事ゲートをくぐり抜け、元の宿屋まで戻り、装備を鏡に預けて毛布をかぶる



はー、次に目が覚めた時が楽しみだわ!




そうそう。あの町を歩いて得られた情報は




上の世界にいる魔王は、この世界の魔王の手下にすぎないこと


この世界の魔王は、絶望をすすり、憎しみを喰らい、悲しみの涙でのどを潤す・・なんだかよく分からない存在であること


しかも、その魔王は北の洞窟から出てきたらしく、その洞窟には全てを拒む底無しのひび割れがあるらしいってこと


この世界は閉じられた世界であり、この世界の人は表の世界からの移住者であること


この町の先にあるお城はガナバトスの城であること


今回は時間が無くなっちゃったから仕方無いけれども、今度来た時こそはお城を見に行きたいわね


あ、長老みたいなお爺ちゃんからは、雨と太陽が合わさるときに虹の橋が出来る、なんて古い言い伝えを聞いたのよね・・って、言い方が謎かけっぽいけれども、それ当たり前のことじゃないの?






そして・・・・






この町がガナバトスの町であること






うん、忘れないわよ。きっと

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る