エンパシーフィールド

@Florian

第1話デエンパシーフィールド

「好きです。付き合ってください」

 何度聞いた言葉だろう? 私にはそういう人を引き付ける何か電波のようなものでも出ているのだろうか?

 私はすでに何度目かの同じ言葉を返す。

「ありがとう。気持ちは嬉しいんだけどお友達でいましょう?」

 語尾を少しだけ上げる。

 彼―梶尾くんのことは嫌いではない。どちらかと言えば好きだろう。ただ、生涯の一時期を一緒に過ごすパートナーとはいえない。パートナーに引きずられて自分の自由度を下げるのも本意では無い。

 だからきっぱりと断るのは自分の為でもあるし、相手のためでもある。

 相手はパートナーとして私を選んでくれたんだと思う。そこにはきっぱりと断りを入れる必要がある。

 お互いが認めてこそのパートナーだ。一方通行では重い。

「やっぱりね」梶井くんは肩をすくめながら生成とした顔で微笑んだ。「聞いていた通りの反応だった」

 梶井くんはあっけらかんと笑った。私はその情景を少し唖然とした目で見ていた。

「あの」おずおずと話し始める。「悲しくないの?」

 今まで告白してきた人はその殆どが未練タラタラで私の気を引こうとしてきた。それに比べてなんと簡素なことか。

「悲しいよ。君となら良いパートナーになれると思ってたから。でも、いいんだ。僕がそう思っていたということだけでも伝われば」

「ああ、そう……」

 私は言葉を返すことができなかった。

「でも、友達ではいてくれるんだよね」

「う、うん」

「それだけで十分だ」

 梶井くんは建物に立てかけてあった学生カバンを取ると私に背を向けた。

「じゃあね。また明日」

「うん。また明日」

 何もしなくても明日は来るのだ。同じクラスで席も近い。明日あった時に妙な気分にならないとも限らない。ただ、梶井くんは思った以上にショックを受けていないようだった。

 私は佇んで小さく手を振った。

 梶井くんは学生カバンを持った手を大きく上げて振った。まるで私が見えているかのように。

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