かけがえのない音楽
下川科文
第1話 新しい白吹
「以上をもちまして、平成28年度始業式を終わります。」
2年が経った。あっという間に時は流れ、中学校生活最後の3年生になった。それは同時に私の白吹での演奏にも終わりが迫っている事を意味する。
放課後、私は副部長の奏美と宏大と職員室へ向かっていた。
「ねぇ優季、新しい顧問の先生どんなか知ってる?」
奏美が私に聞く。
「うーん、今日の着任式では特に話さなかったし、見た目だけじゃね…」
今年度からうちの部活は新顧問を迎える事になっていた。今日の着任式にいたものの、遠目だったし、話したのは代表で新校長だけだったからどんな人かはさっぱりだった。
「俺が思うに…」
「コダーイの意見は聞いてない。」
すかさず出る杭を打つ奏美。コダーイの話は止まらないからだ。コダーイとは宏大(こうだい)から、昔の作曲家にちなんでつけられた呼び名だ。無理矢理だけど。
職員室に着き、扉をノックする。
「失礼します。吹奏楽部の笹間です。部室の鍵を取りに来ました。」
すると、奥の方からツカツカと歩み寄る先生がいた。黒のスーツに身を包んだ先生は、私に鍵を手渡して言った。
「はい。14時に行くから、合奏の準備しておいて。」
あまりの展開の早さに置いてきぼりにされたが、私は「はい。」と返すと、そのまま部室へ向かった。
「結構サバサバした先生だったな。」
コダーイが言った。彼は何も気づかなかったのだろうか。
「ゆ、優季、今の先生…」
「うん、間違いないよ、ね…」
1人イマイチな表情のコダーイと、顔を見合わせた私たちは急いで皆の元へ向かい、合奏の支度をして先生を待った。
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