ぼくとソラと魔王様
千里亭希遊
黒猫は僕を踏みつけた
「……ってッ」
突然体に正体不明の力がかかって思わず声が出た。別に特に痛かったわけじゃない。だけど驚いて、反射的に出た声がそれだった。
ぼくの体にその小さな力を加えたものの正体は小柄な成猫だった。しかも黒猫。なんか縁起が悪いぞ。
しかもそいつは奇妙なことに、仰向けに寝転がった人様の腹の上からまったく動こうとせず、興味深げにこちらををじーっと見つめてくる。よく見ればその瞳は、ぼくが今の今まで何の気なしに眺めていた空とまったく同じ色をしていた。
何だか目を逸らしたら負けてしまうような気がしてこちらもその空色の瞳を見つめ返す。そのまま無駄に時間が過ぎていった。どれくらいそうしていただろう。先に目を逸らしたのは黒猫の方だった。
ふい、と目を逸らすと先ほどまであんなに熱い視線を交わしていた(?)のが嘘のように、もう完全に興味を失った様子でとてとてと歩いてどこかへ行ってしまう。
……なんだよ……。
ぼくは何故か複雑な気持ちになった。
何かこう……『早朝の屋上で一人物思いにふける』なんて、気障なシチュエーションに浸ってみたくなってたのがちょっと恥ずかしくなってくる。まるであの猫に全部見透かされてたみたいだ。
っと、もうすぐ朝の会が始まってしまう。変な気分に浸ってる場合じゃない。ぼくは体を起こしてさっさと屋上を後にした。
珍しく登校完了時間より一時間も早く学校に出てきてしまったと思ったらこれだ。早起きは本当に三文の徳なのか? 黒猫に遭遇、しかも腹の上に乗られるなんて、一体どんな不運に見舞われる前兆だろうか。
まぁ、別にそんなもの本気で信じてるわけじゃないけど……。
(……うげ、足跡……)
ふと気づけば詰襟の腹の部分に点々と猫の足跡がついていた。生地が真っ黒だから、白っぽい足跡は結構目立つ。ぱしぱしと払ってみるが完全には取れない。うぅ、あとでハンカチ水でぬらして拭いておこう……。
──これが、ぼくとソラの出会いだった。
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