第117話 帰る方法
訳が分からない。
ここは異世界なのに、地球があるのはおかしい。
それを正しいこととするには――。
「なぜ、我は気づかなかったのだろうか。長らく魔界と人間界は、別々の世界だと思われていた。それが、同じ宇宙にある惑星同士であることを発見したのは河上だ。ならば、地球もまた、同じ宇宙にある惑星であることは十分に考えられたはずなのだ」
そう言われると、その通りだと思ってしまう。
人間界惑星と魔界惑星が同じ宇宙に存在するのなら、地球だって同じ宇宙にありそうなもんだ。
というか、実際にあったんだ。
俺たちは、この世界が〝異世界〟であると思い込んでいただけなんだ。
疑問はまだまだある。
しかし、そういったことは悪役の長話で判明すると相場が決まっている。
もうしばらく、佐々木とジョエルの話を聞いていよう。
「地球を見つけた我は、すぐに故郷へと帰った。ところがそこは、我の故郷であって、故郷ではなかった。西暦2304年の地球であったのだ。我は、すでに我の生きていた時代の遥か未来を生きていたのである」
夢に出てきた未確認飛行物体。
あれが佐々木の乗る船であったのはこれで確定だ。
すごいな、危うく地球に魔王が行くところだったなんて。
「しかしならば、1つ疑問がある。我ら異世界者は何故、人間界惑星に召還された時、未来に来てしまったのか。それを確認するため、我はヴィルモンを襲い、数ある資料を手に入れ、召還の間を訪れたのだ」
佐々木が召還の間を狙ったのは、俺たちの生きていた時代の地球に帰る方法を探すためだったと。
あながち俺の推測は間違っていなかったようだ。
まさか今いる場所と地球が同じ世界だとは思わなかったがな。
それで、召還の間で佐々木たちは何を見つけたのだろうか?
話は佐々木から、再びジョエルにバトンタッチされる。
さて、今度はどんな驚きの情報が出てくるやら。
「レイモン大臣として、私も召還の間の基本情報は承知しておりましたが、ササキ様との調査により、詳しいことが分かりました。あの召還の間がなぜ、地球と繋がっているのかをお教えしましょう」
俺や久保田、村上は当然として、ロミリアやリュシエンヌも話に興味津々だ。
きっと彼女らも、俺たちの故郷にある程度の関心を寄せているのだろう。
「話は200年前の勇者アキグチにさかのぼります。彼は地球からの転生者であり、彼によると、転生のきっかけは交通事故。その交通事故が起きた瞬間が、人間界惑星と2015年の地球が異次元を通して繋がった瞬間なのです」
そんな転生の王道みたいな出来事が、回り回って俺たちを巻き込んでるのか。
しかしまあ、異次元なんて言葉が出るとはね。
表情を見る限り、ついにメルテムも話に興味を示しはじめたぞ。
「人間界惑星と地球が繋がるのは、その瞬間のみです。しかも召還の間が出現したのは人間界惑星のみ。つまり人間界惑星は、事故が起きたその瞬間のみに干渉し、地球から人間を召還できる。逆に地球は、人間界惑星に干渉し人間を召還することはできません」
「ついでに、地球と人間界惑星が異次元で繋がるのは、アキグチが事故死した瞬間のみだ。故に、我と河上、冬月、貴様ら、そしてアキグチは、皆同じ時代を生き、ほぼ同じ時期に召還されている。70年以上の歳の差がある我と貴様らは、本来同世代である」
おいおいマジか。
完全に老人な見た目の佐々木と、俺たちは同世代なのかよ。
じゃあ、映画とかゲームとかテレビとか、話が意外と合うのか。
老人と若者が同じ共通の世代話を持つなんて、不思議だ。
「召還の間で行えるのは召還のみです。人間を呼び出すことはできても、送ることはできない。つまり召還の間が存在しない地球は、人間界惑星から人間を召還できない。ササキ様が元の場所に戻れないのは、それが理由なのです」
簡単に言えば一方通行ということか。
元の世界は見つけたが、帰り方が分からないという佐々木の言葉がようやく納得できた。
2304年の地球には帰れても、俺たちのいた2015年の地球には帰れないんだ。
「ササキ様の生きた2015年の地球に戻る術は、未だ発見されておりません。しかし1つだけ確かなのは、召還の間と地球を繋げる異次元が、時間を飛躍させていることです。この異次元を人為的に作り出せれば、2015年の地球に帰れる可能性があります」
なるほど、そうだよな。
人間界惑星暦3516年2月20日の今日は、西暦2304年なんだから。
そもそも西暦2301年に打ち上げられたデスティニー号が目の前にあるんだし。
別の惑星に来てしまったために気づかなかったが、俺たちはタイムスリップしてんだ。
ここで俺は気がつく。
異次元に関してある程度の研究をしている人間が、側にいることを。
メルテムに喋らすには、今が最適だろう。
「その異次元、もしかしたらコイツが知ってるかもしれない」
そう言いながら俺は、メルテムを指差した。
佐々木はぬっとメルテムの顔を覗き込む。
「じじい、顔近い、キモい」
すごいぞメルテム。
初対面のおじいさん、しかも魔王に、じじいとかキモいとか言っちゃうなんて。
コイツの図太さは時に、いや、よくヒヤヒヤさせられる。
「この小娘が、異次元を知っていると?」
「ああ。こう見えて彼女、ヴィルモン大学を首席卒業した、元共和国研究所グループの一員だから」
「そうは見えんが」
「俺もそれについては同意見です」
懐疑に満ちた表情をする佐々木。
まあ、ともかくメルテムには、研究成果を話してもらおう。
「よし、メルテム、お前の研究成果をおじいさん方に発表してやれ」
「あああぁぁぁぁああ! やっと来た! ええとね、ええとね、まずこれ見て!」
ませたガキから一気に、ただのガキとなるメルテム。
彼女は目を輝かせ、鼻息は荒く、必死な形相で笑みを浮かべている。
そして手に持っていた資料をドカンと、佐々木とジョエルの前に置いた。
はじめて見る、目の前の少女の情緒不安定に対し、老人2人は唖然とするだけ。
だがメルテムは気にせず、自らの研究結果を捲し立てはじめた。
「大量の魔力を使うことで、宇宙船を瞬間的に光の速度まで急加速させる超高速移動。でもこれって、単に光の速度で移動してる訳じゃないの! 実は、光の速度を出すことで次元が歪み、異次元にジャンプ、そこを経由して目的地に到着ってプロセスなんだ!」
ここまでものの数秒で語ったメルテム。
正直、俺は彼女の言葉を聞き取れなかった。
だがジョエルは、どうやら話を完全に理解しているようだ。
「異次元を経由することで遠く離れた場所に移動する。ササキ様がいつしか仰っていた、ワープ航法というヤツですな」
「そう! それ! アイサカ司令にそれを教えてもらって、ようやく分かったの。この世界には、世界を縮めた異次元が確実に存在するって。本当だよ! いくつかの超高速移動を計測して、全部資料にまとめたから、疑ってんならそれ見てよね!」
「メルテム嬢が仰ることが事実だとすれば、魔力を使い光の速度を出すことで、異次元に入ることができると。大変興味深い。資料は後で見ましょう」
なんだかやたらと、ジョエルがメルテムの話に食いついてる。
だもんだからメルテムも、鼻が高い様子。
お互いにテンションを上げあっている感じだ。
ジョエルは、ある質問を投げかけた。
「これもまたササキ様に教わったことですが、相対性理論というものはどうなっているのですか? 話を聞いている限り、異次元にジャンプするまでは光の速度で移動しています。となると、超高速移動中の物体の時間は遅くなっているはずですが」
「それってソウタイセイリロンっていうの? あああぁぁぁあ! これで私の研究の幅がまた広がる! 今日は最高!」
ついにメルテムのテンションが最高潮に達した。
彼女は今までに見たことない程の笑顔で、天に向かって両手を掲げ、喜びを爆発させている。
しかし目には涙を浮かべ、もはや笑っているんだか泣いているんだかも分からない。
情緒不安定さも最高潮に達してしまったようだ。
それでも彼女の科学者魂は、解説を中断させない。
「超高速移動中の船を計測すると、確かに光の速度で移動する船は、周りと比べて時間の進みが遅くなってるの! でもね! でもね! 異次元を経由して、目的地に到着する時には、遅くなった分の時間がなしになってるの!」
……ちょっと待てよ。
それって、異次元で時間が調整されてるってことじゃないか。
となると――。
「その異次元、短い時間ではあるが、時間を飛躍しているのか!」
希望を見つけた、と言わんばかりの顔をして、そう叫んだのは、佐々木だ。
彼が狂喜乱舞するのは、理解できる。
時間を飛躍する異次元は、佐々木が探し求めているものなのだから。
2015年の地球に帰るための、大きな可能性なのだから。
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