第10章 真相編
第104話 隠れ家探しの準備
ヘル艦隊によるヴィルモン王都襲撃に、ヴィルモン人は危機感を募らせたことだろう。
この襲撃により、少なくとも20名以上の死者、2000人近くの負傷者が出ているとも聞く。
国民が危機感を募らせるのは当然だ。
しかも王様がリシャールなもんだから、反魔族感情が高まる可能性まである。
講和派勢力の仕事が余計に増えてしまった。
だが、俺の興味はそこにない。
今の俺は完全に、『冬月の隠れ家』に心を奪われている。
なぜだかは知らんが、どうにも気になるのだ。
先代異世界者の隠れ家に、何か重要な真実があるような気がしてならない。
紙に書かれた日本語を読んでみると、隠れ家の場所は島嶼連合にあるそうだ。
島嶼連合の極東、マラモンベル島という場所らしいが、正直なところ、どんな場所なのか想像もつかない。
だから俺は、ヴィルモン城からガルーダに帰る最中、ロミリアに聞いてみる。
「マラモンベル島ってどんなとこ?」
「えっと、場所はサモドニア島の南東です。サモドニア島は、島嶼連合随一の観光地でして、赤道の近くのために常夏の地。超大陸北半球が冬になると、多くの観光客が訪れます。私は行ったことがありませんが、海がとても綺麗な場所らしいですよ」
こう聞いていると、サモドニア島はグアムみたいな場所なのだろうか。
いや、赤道に近いらしいからパラオだろう。
となると2月の今って、ベストシーズンになるな。
「そんな観光地の近くってことは、マラモンベル島も観光地なの?」
「いえ、マラモンベル島は観光地ではありません。第6人魔戦争の影響で魔物が多く住み着き、危険地帯として一般人の立ち入りが規制されている場所ですから。冒険者の間でも、危険な狩り場として敬遠されがちです。知名度も低いです」
「そ、そうか……」
なんだか、面倒そうな島だ。
しかし知名度が低く人があまり訪れない、忘れ去られた地は、隠れ家としては最適だ。
ますます興味が湧いてきたぞ。
面倒ではあるが、何としてでも冬月の隠れ家に行ってみたい。
ところで、説明を終えたロミリアがやたらとこっちを見つめてくる。
何だろうか。
何か気になることでもあるのだろうか。
「知名度が低いマラモンベル島は、地理が得意な人しか知らないんですよ?」
ようやくロミリアの本音が、口から飛び出る。
珍しく彼女は、自分の知識を自慢しているのである。
やたらとこちらを見つめてくるのは、たぶん褒めてほしいのだろう。
分かった、褒めてやろう。
「ロミリアが博識なおかげで、疑問がすぐに解決したよ。ありがとう」
「いえいえ、その……分からないことはいつでも聞いてください」
うむ、ロミリアはよほど嬉しいのか、照れながらも満面の笑みを浮かべている。
なんとも可愛らしいではないか。
その後、ロミリアはしばらくの間、上機嫌であった。
さて、俺はどうしても冬月の隠れ家に行きたい。
だが俺は、元老院との取り決めで人間界惑星に入れない。
今回は緊急事態だからと許されているだけで、すぐにでも人間界惑星を追い出されるだろう。
そこで俺は、ガルーダに帰ってすぐに、パーシングに協力を要請する。
魔力通信を使っての直談判に、パーシングは快く協力してくれた。
しかも運がいいことに、パーシングは島嶼連合で、リシャールと共にいた。
おかげで数日掛かると覚悟していた申請が、わずか1日でその答えが返ってくる。
2月12日、一旦はマグレーディに帰った俺たち。
ガルーダでロミリアと共に、スチアから護身術の訓練を受けていたところ、パーシング直々の魔力通信が届いた。
申請に対する答えを教えてくれるのだろう。
俺とロミリアは廊下に出てから、パーシングの答えを聞いた。
《ヴィルモン王都襲撃による負傷者治療のための、サモドニア島への負傷者輸送作戦。これを名目に、マモル殿とガルーダの人間界惑星進入が許された》
それがパーシングの答えだった。
負傷者を治療のためにリゾート地へ輸送するって、どういうことなのか。
分からないことは何でも聞いてくれとロミリアに言われたので、聞いてみよう。
「なんでサモドニア島に負傷者輸送を?」
「サモドニア島は、観光地であるのと同時に、世界最新鋭の医療技術が集う場所なんです。病院の数が多く、過ごしやすい気候でもあるので、負傷者が傷を治すには最適な場所なんですよ」
「治癒魔法があるのに、医療技術も発展してるのか?」
「はい。完璧な治癒魔法を使える人は数少ないですし、限界もあります。怪我を完全に治すためには、最終的には技術に頼らないといけないんです」
《驚いた。さすがは異世界者の使い魔、可愛らしさだけでなく、その知識量までも完璧とは。お嬢さんの輝きは、遠く離れたこの場所でも、眩しい》
「えっと……ありがとうございます……?」
ロミリアに聞いて正解だった。
それなら、負傷者をサモドニア島に輸送するのも納得できる。
よく分からないのは、パーシングの口説き文句だ。
いくらなんでもやりすぎだろう。
妙に気障ですかした口調が、なんとも俺の感情を複雑にかき乱す。
気持ち悪くは感じないが、非常にうざったい。
そもそもロミリア本人が困っちゃってる時点で、パーシングの口説き文句は失敗だろ。
《ただし、マモル殿、もちろんだが制限が設けられた。作戦は明日の午後7時に行われる。サモドニア到着は現地時間午後5時頃の予定。マモル殿が人間界惑星に留まれるのは、このサモドニア到着から24時間だ。到着後にガルーダを港から出すことも許されていない》
おっと、思ったより縛りが多い。
ガルーダなしで24時間以内となると、小型輸送機を使うしかない。
しかし小型輸送機は非武装、魔物の多いマラモンベルでは心もとない。
しかも出発は明日の早朝で、準備の時間もない。
これは忙しくなりそうだ。
《目的は先代異世界者の隠れ家探し、だったか? 場所がマラモンベルとなると、あそこで何かを探すのは一苦労だ。今すぐにでも、現地の案内人を探した方が良い》
当然だろう。
知らない土地では、案内人程に重要な人物はいない。
この魔力通信が終わったら、ヤンやフォーベックに聞いてみよう。
《それと最後に、1つ重要なことだ。リシャール陛下は、マモル殿の懐柔を狙っている。おそらく今回の許可も、マモル殿を味方に引き入れ、人間界惑星で受け入れられる人物にするための作戦の一環だ。取り込まれないよう注意してくれ》
つまり、俺はリシャールに借りを作ってしまったと。
それだけでなく、リシャールの懐柔に乗ってしまったと。
仕方ないことだが、ちょっと嫌だな。
気をつけよう。
《ま、俺ができるのはここまでだ。この季節のサモドニアは最高だからな、羨ましい。じゃ、良い成果を期待してるぞ》
パーシングの最後の言葉は、思っていた以上に軽いものであった。
まるで、旅行楽しんで来てね~、みたいな感じである。
べつに遊びにいく訳じゃないのだけど……。
魔力通信が切られ、俺とロミリアはすぐに艦橋に向かおうとする。
出発は明日の早朝だ。
ともかく準備は急がないとならない。
特に案内人に関しては、大急ぎで探さないと間に合わない。
なんとも面倒だ。
「ねえ司令、ちょっと聞いて良い?」
艦橋に向かおうとする俺たちを呼び止めたのは、いたずらな笑みを浮かべるスチアだ。
彼女は訓練室で護身術を教えていたはずだが、どうしたのだろう。
急いでいるので、話は早く済ませてほしい。
「なに?」
「サモドニアがどうたらとか、マラモンベルがどうたらとか言ってたよね。先代異世界者の隠れ家って、その辺にあるの?」
「そうだけど」
「じゃあ、案内人が必要だね。あたしが紹介してあげる」
「知ってるのか!?」
「もちろん」
なんたる幸運! これは助かる!
そうだよ、スチアは島嶼連合の冒険者一家出身だ。
案内人の1人や2人ぐらい知っているだろう。
なんだかはじめて、恐怖の対象ではないスチアを見た気がする。
「案内人って、どこの誰? 紹介してくれ!」
「サモドニア南西のガランベラ諸島を管理する、イダとスイルって冒険者。マラモンベルにもよく行ってて、土地勘があるよ」
「おお! そりゃ良い!」
まさに今、求めている人物じゃないか。
でも冒険者だからな。
悪質なヤツだと困るので、人となりも聞いておこう。
「で、どんな人なんだ?」
「イダとスイルはどっちも女の人。イダはガランベラ諸島では一番偉いんじゃないかな。もうおばあちゃんだけど、まだまだ現役で、みんなからも慕われてる。スイルはだいたい世界中を旅してるけど、この時期はガランベラに戻ってるはず。良い人だよ」
「よく知ってるんだな。仲が良いのか?」
「そりゃそうだよ。スイルはあたしのママ、イダはあたしのおばあちゃんだもん」
「……え?」
なんということでしょう。
求めていた人材が、こんなにも早く、こんなにも近くに存在していたなんて。
これには俺もロミリアも、驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
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