第15話 人間界惑星の歴史
祝賀パーティーの翌日、俺たち異世界者には自由時間が与えられた。
これはチャンスと思った俺は、宿泊していた元老院ビル前の高級ホテルを飛び出す。
向かう先は、ヴィルモン城の内部にある王立図書館。
俺はここで、この世界の歴史を学びたかったのだ。
ついでに、今日が共和国歴3515年5月30日というのをホテルのカレンダーで知った。
こちらの世界の1年は、30日を1ヶ月とした12ヶ月間、つまり360日らしい。
俺たちが召還されたのは5月28日だな。
さて、王立図書館に到着すると、そこはなんとも立派な施設だった。
大理石がふんだんに使われた部屋で、俺の身長の倍以上の高さがある本棚が何十も並んでおり、圧倒される。
窓は少なく明かりもあまりないため、全体的には暗いのだが、それが重厚な雰囲気を醸し出す。
やっぱり城内はきちんとしたファンタジー世界なのだ。
昨日はホテルのプレジデントルームみたい場所に宿泊してたもんだから、余計にそう感じる。
ところで違う言語の本が読めるのか、という疑問があったが、それは大丈夫だろう。
なぜなら、入り口にある『王立図書館』の文字が読めたからだ。
文字はキリル文字とインドシナ半島系の文字を合わせたような、まったく知らない読めない文字なんだが、頭の中で意味が分かるのである。
これもきっと魔力のおかげだろう。
魔力万歳。
俺は図書館に入るなり真っ先に、『歴史』と書かれた本棚に足を踏み入れる。
本棚には何千冊もの本が並べられていた。
よく分からないのでテキトーに選んだいくつかの本を開く。
すると、困ったことになった。
内容の意味が分かる本と、分からない本があったのである。
文字は同じなのにだ。
「ねえ、なんでこれ、読めないんだろう?」
こういうときこそロミリアに頼る。
彼女は俺の質問に真剣に答えてくれた。
「どの本ですか?」
「これとか、これ。あとこれも」
「ええと、どれどれ……。あ、そういうことですか」
「どういうこと?」
「アイサカ様が読めない本の文字は、魔力インクで書かれていないものです。魔力が込められた特別なインクじゃないと、魔力が文字を読み取れないんです」
俺は文字は読めないけど、魔力がその内容を頭で翻訳している。
ただ、その翻訳をするためには、魔力の込められたインクで文字が書かれている必要がある。
つまりはそういうことか。
なんと、全ての本を読むには文字を覚えないといけないのか、めんどくさい。
まあいいや。
今は読めるものから読もう。
「あの、アイサカ様……あの……」
「うん? どうしたの?」
「歴史の本をお探しなら、『人間界惑星の歴史全書』という本が、その……おすすめです」
「それ、俺でも読める?」
「はい。世界中の誰でも読める本で、教科書としても使われています」
「へえ、良い情報だ。ありがとう」
俺が感謝の言葉を述べると、ロミリアは下を向きながらも、ちょっとだけ嬉しそうな顔をした。
最初に出会った時よりは、距離が近づいたかな。
すぐさま俺は『人間界惑星の歴史全書』を探し、見つける。
驚いたことに、上質な紙が使われたハードカバーのような本。
全書なんていうから分厚いものかと思っていたが、そうでもなかった。
せいぜい300ページってところか。
わかりやすさを追求したのか、簡潔な文章に必要な事柄が全てつまっている。
これを俺は、ロミリアに質問しながら3時間程度で読んだ。
まあ、ほとんど流し読みみたいなものだが。
この世界のおおまかな歴史が分かった。
最古の文献は、今から4000年前の王国についてだ。
当時の超大陸は小国が乱立しており、群雄割拠の時代。
その中で最も強大な力を持った西方の王国がそれらしい。
この王国は何度か形を変えるんだが、現在はグラジェロフ王国になっている。
久保田の使い魔の故郷だったかな、確か。
そこからしばらく、普通の歴史が続いた。
国が滅んでは栄え滅んでは栄えを繰り返し、国の数がだいぶ減る。
これがいきなりファンタジーっぽくなるのは、今から3200年前のこと。
ある日突然、超大陸の中央に転送地が現れ、魔界と繋がった。
ここから人間と魔族の長きに渡る死闘がはじまる。
第1次人魔戦争は3200年前から3000年前まで続いた。
最初は強大な魔力を持つ魔族に人間が押され、超大陸のほとんどを占領されたそうだが、地の利を使ってうまいこと持ち直し、最終的に勝ったらしい。
第2次人魔戦争は2500年前から2000年前まで。
転送地が3つに増えて、各所で戦闘が起こった。
今回は人間も対策をとっていたので戦闘が長引き、500年も戦争をすることになる。
これも最後は人間が勝った。
ここからしばらく人魔戦争は起こらず、人間同士のゴタゴタが続く。
第3次人魔戦争が発生したのは、一気に時代が進み、500年前から430年前の間。
転送地がなんと6つになり、かなり苦戦したようだ。
超大陸の3分の1を魔族に占領され、そのまま戦争は終わったとか。
370年前から300年前の間、再び魔界軍が動きだし、超大陸の半分が魔族に支配される。
これが第4次だな。
ついでにこのとき西方の王国が分裂してグラジェロフが誕生し、その時の混乱に乗じてヴィルモンが力を蓄えたとかなんとか。
驚いたのは第5次だ。
200年前、ヴィルモンに勇者が突如として現れ、魔王をも凌ぐ魔力で魔族軍を圧倒、超大陸を奪還する。
そして勇者は転送地を乗り越え魔界にまで攻め込み、魔王を封印した。
この内容が、俺の見たあの映画とほとんど同じなんだ。
あの映画は、この第5次人魔戦争を描いたものだったんだ。
しかも、勇者は異世界からの転生者を名乗り、その名をアキグチ・リョウタというらしい。
明らかに日本人だ。
今ある異世界者の召還魔法は、彼が考えたものらしい。
俺は、このアキグチさんのせいでこっちの世界に召還されたようなものだ。
まあ、歴史の続きだ。
戦争に勝利してから、次なる魔界との戦に備えて共和国が成立する。
そして今から76年前、魔王が復活し第6次人魔戦争がはじまった。
この時は今と同じく3人の異世界者が召還された。
カワカミ・コウキ、ササキ・フミヤ、フユツキ・シズカの3人。
最初は超大陸のほとんどを占領されるなど、人間界が苦戦したが、3人のおかげで再び魔王を封印、70年前に人間界は戦争に勝利する。
65年前、カワカミ・コウキが魔界惑星を発見、魔界が別の惑星であることが判明する。
どうやら彼は、俺たちの元の世界の知識をかなり広めたようで、医療や天文学、建築学が飛躍的に発展したとか。
ヴィルモンがいろいろとファンタジーぶち壊しなのは、彼のせいだ。
ともかく、彼は人魔戦争が惑星間の戦争であることを突き止め、その備えとして共和国艦隊構想をぶち上げる。
だが3人の勇者はいずれも62年前に事故死してしまい、共和国艦隊が設立されたのは今から48年前のことだそうだ。
ここからは共和国艦隊の歴史を見てみよう。
共和国艦隊は共和国騎士団と同じく、元老院が指揮権を持つらしい。
そうそう、共和国加盟国は国軍を持たないで、軍事は全て共和国軍に任せてるんだとか。
ロミリアの説明だと、共和国軍自体は各国の人間で構成されてはいるものの、ヴィルモンに限っては実質国軍みたいな扱いもできるそうだが。
さて、共和国艦隊の軍艦は試験に試験が重ねられ、ようやく形になったのは30年前。
設立から形になるまで18年も掛かっているが、これは技術的な問題が多かったのもあるが、58年前に全ての転送地が消え、艦隊の編成を急ぐ必要がなくなったのも大きい。
フェニックス・スザク・ガルーダは、名前も含めてカワカミの初期構想らしいが、完成は15年前だそうだ。
古くもなく新しくもないってところだな。
共和国艦隊が艦隊として機能するようになったのは、ここ10年の話。
対して共和国騎士団は、共和国騎士団としての歴史は200年、起源まで遡れば2000年近い歴史がある。
パトリス団長が共和国艦隊を下に見るのは、こういう理由があったのだ。
ま、長々と説明したが、これがこの世界の大まかな歴史だ。
基本は人間と魔族の戦争の歴史で、俺たちは第7次人魔戦争に参加している。
ただ、ちょくちょく人間界の国家同士の戦争も存在しているんだよな。
やっぱり世界って、難しいのね。
気づけばもう昼だ。
朝飯も食べずにここに来てしまったため、そろそろ腹が減った。
せっかくだし、ヴィルモンの王都を散歩してみるのも悪くないかもしれない。
「ちょっと、街の散歩でもしよう」
「え? わかりました。でもアイサカ様、この服装で街中を歩くのは……」
そう言ってロミリアは、自分の着る服をつまんでみせる。
そうだった、俺らは今、軍服を着ているんだ。
う~ん、どこで何に着替えれば良いんだ?
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